一般社団法人パッシブハウス・ジャパン理事。2005年「建築環境省エネルギー機構」の「サスティナブルTOKYO世界大会」で「サスティナブル住宅賞」を受賞。「健康で快適な省エネ建築を経済的に実現する」ことをモットーにして設計活動、講演活動を行なっている。九州大学工学部出身。JIA(日本建築家協会)登録建築家。有限会社松尾設計室のホームページはこちら。
みなさん、こんにちは。モリシタ・アット・ホームの森下です。今日は日頃当社がご指導をいただいている松尾先生をお迎えして、これからの家づくりの基準について、いろいろとお話を伺います。先生、よろしくお願いします。
森下
松尾
はい、よろしくお願いします。家づくりは人生最大で、かつ一番長い期間使う買い物です。今日ここでお話しすることを知っているかいないかで、生涯に渡って、金銭的にも、健康面でも、快適性でも、まったく違ったものになってしまいます。たくさんお話しますが、すべて大切なことなので、ぜひ最後まで見ていただければと思います。
では、まずはじめに。先生ご自身が、今のパッシブハウスの設計方法に辿り着かれるには、何かきっかけがあったのでしょうか?
森下
松尾
そうですね、私は今44歳なんですけれども、16歳のときに父親が大手住宅メーカーで家を新築したのです。立派な家ができました。その家の3階の11畳が私の部屋になったのですが、実はその部屋が夏はめちゃくちゃ暑くて、冬はものすごく寒い部屋だったんです。それまで住んでいた県営住宅よりもひどかった。見た目がキレイでもこんな家はおかしいんじゃないかと。それで僕は大学の建築学科で熱環境の方に進むことになるんです。
なるほど、家は見た目より性能が大切だという原体験があった訳ですね。
森下
松尾
そうです。その次が2009年にドイツに行ったときの体験です。実はその前に僕は2005年に日本でサスティナブル住宅賞というのを受賞していました。僕自身、日本の中では高断熱高気密住宅を一生懸命やっているという自負があったんです。でも向こうに行くと、自分が賞を貰った住宅が、あちらの最低基準にも満たないっていう現実を目の当たりにした訳です。「井の中の蛙大海を知らず」っていう言葉が頭の中にサーっと降りてくる様な感じでして。そこから僕の第2幕がスタートしたって感じですね。
実際ヨーロッパの家は、性能面などでまったく違っていた訳ですか?
森下
松尾
はい、冬のオーストリアで民泊もしたのですが、もう家全体が暖かい。廊下もトイレも脱衣室もすべて24℃で1℃の差もない。半袖短パンでも過ごせてしまう温熱環境がありました。あとは、普通の住宅のインテリアのレベルが、ハウスメーカーのモデルハウスぐらい整っている(笑)。家をキレイにしようという意識が高く、照明計画から置物まで一人一人の感性が際立っていました。もっと言えば、生活のクオリティがまったく違った。夫婦二人ともが5時に仕事が終わって6時には家に帰ってみんなでご飯食べる。年に1か月以上の長期休暇もある。日本はGDPが世界3位とか言われますけど、生活レベルで見たら、発展途上国と先進国ぐらい差があると感じました。
人生観が変わるくらいの体験をされた。それが今の設計思想につながっていらっしゃるのですね。
森下
一般の方は、大手ハウスメーカーさんは凄く性能が高くて、価格は高いけれど安心だと思っている方が多いと思うのですが、実際はどうでしょう?
森下
松尾
確かに2社ほどは凄い断熱性能のハウスメーカーさんはありますが、大半の大手住宅メーカーっていうのは、中の上くらいのところにぎゅっと集まっている感じです。一方、中小工務店さんはというと、モリシタさんのところみたいに凄く性能が良い住宅をつくっている会社もあれば、ひどい家を作っている会社まで、もの凄いバラつきがある。
大手さんも含めて住宅会社を見るときに、ここは間違いなく性能が高い家を建てているとわかるポイントはありますか?
森下
松尾
私だったら「C値の測定はしていますか?」って聞きますね。もうその質問だけ8割から9割の業者さんは、住宅メーカーも含めて消えちゃいますから。
先生、C値について解説していただけますか。
森下
松尾
C値っていうのは家の気密性に関する数値で、隙間の量のことです。洋服でも隙間が大きいと寒いですよね。C値とは床面積1㎡に対して何㎠の穴があいているか、という単位です。基準として最低限守っておきたいのが、C値1㎠/㎡以下であること。でも実際は大半の住宅メーカーさんはC値が2から3ぐらいになってしまっているのが現状です。
あー、じゃあ2〜3倍も大きいんですね。
森下
松尾
そうですね。特に鉄骨系の住宅メーカーは3を超えている場合も多い。それでは空気がキレイに流れないのと、冷暖房がキチンと効きません。ですから、C値1以下がまともな工務店さんかどうかを見分ける第一関門と考えて良いと思います。
ちなみに、もう一つ良く耳にするUa値(ユーエイ値)とは?
森下
松尾
Ua値というのは断熱性の基準で、数字が小さければ小さい程良いです。今大手ハウスメーカーさんが、大体0.56とか0.57あたりですね。
いわゆるゼッチ(ZEH)基準とかいっているやつですね。
森下
松尾
まあそうですね。Ua値については0.46近辺を狙って欲しいですね。
要はC値が1を切っていて、Ua値が0.46近辺ぐらいになっていれば、まずは姫路エリアで家を建てるなら安心できる性能と考えていいでしょうか?
森下
松尾
そうですね。ただその両方を満たしている会社ってハウスメーカーを含めても10社に1社くらいしかないのが日本の現実です。
なるほど。先ほど鉄骨の話が出たんですけども、大手のハウスメーカーさんは鉄骨の場合も多いですよね。鉄骨は地震に強いというアピールもよく聞きますが、耐震性についての具体的指標はどう考えれば良いでしょうか?
森下
松尾
構造に関していえば、単純に耐震等級という国が定めている基準で判断するのが一番クリアです。木造の耐震等級2と、鉄骨の耐震等級3だったら、鉄骨の耐震等級3の方が強い。木造の耐震等級3と鉄骨の耐震等級2だったら木造の耐震等級3の方が強い。全般的に言いまして、大手住宅メーカーは構造に関してはかなりしっかりしている。一方、中小工務店は耐震等級2もいってない会社が非常に多い。
耐震等級の基準を教えてください。
森下
松尾
耐震等級は3が一番良いのですけれども、1が建築基準法ギリギリ、2が建築基準法の1.25倍、耐震等級3は基準法の1.5倍の強度っていう話になります。しかし、これははっきり申し上げておきますが、耐震等級2以下では熊本地震などの震度7が複数回来るような場合に倒壊の可能性が非常に高く、統計的にも家の財産的価値が無くなるという結果が出ています。なので、何とか工法とか、何とか構造とかいったような売り文句は一切気にせず、耐震等級が3であるかどうかだけで判断するのが一番明快です。
ただ、耐震等級は計算方法によっても正確性が異なりますよね。
森下
松尾
その通りです。構造の計算方法は大きく3つあります。1つめは、ほとんどの工務店さんがやっている「壁量計算」です。これはもう単純に面積に対して何枚ずつ壁が必要なのかを手計算するだけの物凄く簡単な計算方法です。でも、2階建てまでの木造住宅なら、これで確認が通ってしまう。ただ、3階建てになるとさすがに柱1本1本、梁1本1本にかかる力まで全部計算する「許容応力度計算」という難しい計算方法が義務付けられています。それとは全然違う3つ目のやり方をやっているのが、大手ハウスメーカーです。「型式認定」っていう方法で、1棟1棟の構造計算はやらない代わりに、プランを作るときに100項目ほどの規定があって、もし1個でも破ったら建てられない。でもそのルールを守っている限りは耐震等級3が貰えるというやり方です。
となると、大手メハウスーカーさんは確かに構造に関して一定の評価はあると言えるけれども、設計の自由度が低いということになりませんか?
森下
松尾
そう。自由度が滅茶苦茶低い。ですから一番いい方法は「許容応力度計算」をしてキチっと強度を保ちながらも、設計の自由度を確保するやり方です。以前、芝浦工業大学の先生があるプレカット工場で、ランダムに100物件分の材料を全部本式の許容応力度計算やってみたら全ての物件がアウトだった。ということは、木造2階建て住宅を単純な「壁量計算」でやっている住宅はアウトの可能性が高いです。
ということは、木造2階建ての場合、「許容応力度計算」をやっているかどうかも一つの見極めのポイントになるわけですね。
森下
松尾
はい。木造住宅の場合は、「許容応力度計算による耐震等級3」と謳っている会社なら、まず安心してもらっていいと思います。
先生に教えていただいたことで私が一番驚いたのが、「太陽に素直な家」という考え方でした。その基本的な考え方を解説していただけないでしょうか。
森下
松尾
これはパッシブ住宅の基本的な考え方なのですが、一言で言えば、夏の日射は遮り、冬の日射は取得するということです。実は太陽の威力というのは、みなさんが思っているより、遥かに大きいんですよ。実はそのことを建築のプロもよくわかっていない。だからいまだに太陽の力を考慮しない設計が世の中に蔓延している。例えば、業界では「165の20」って言われる窓がありますよね。幅1尋(ひとひろ)で高さが2mのどこの家でも付いている引き違い窓です。あの窓1個に直射日光が当たると600W、大体コタツ1台分の熱が出入りする。もし6枚つけるならコタツ6台がタダで付いているのと一緒なんですよ。そうすると昼間は暖房はいらないですよね。それはモリシタさんのモデルハウスでも実感があると思うんですけれども。
はい、わかります。
森下
松尾
逆に夏は、日射をいかに遮るかが重要です。例えば6畳の部屋に先ほどの「165の20」の窓が1つあるだけでコタツ1台分の熱が入ってきたらどれだけ暑いでしょうか。人間の発する熱量に換算すると大人1人が100Wなので、大人6人分っていう熱量なんです。夏の暑い日に、大人6人が6畳間に放り込まれたらどれだけ暑いか。そう考えてもらうと、日射遮蔽がいかに大事かわかってもらえると思います。
松尾
日射遮蔽がちゃんと出来ている工務店は、5%も無いですね。日射遮蔽は完璧に出来てないと意味がない。その部屋にいる人が暑いと感じたら、もう家ぜんぶが暑い家ということになります。なので、一つの窓たりとも適当にやらないっていうのが、日射遮蔽に関しては凄く重要です。
高断熱・高気密だけを求めても足らないっていうことですね。良い見分け方はありますか?
森下
松尾
そうですね。夏に階段を上に上がっていくときに、ほとんどの家が階段の途中で空気がモワっとする変化を受けると思うんですね。あれがある家は、もう設計が失敗してるってことですね。
屋根の断熱の問題ですか?
森下
松尾
天井もしくは屋根の断熱が低いか、窓の日射遮蔽を失敗しているか。まあ、ほぼどっちもですね。どちらもできていると、あの空気がモワっと切り替わる感じがありません。
快適な涼しい家ができると。
森下
松尾
注意が必要なのは、今、世の中の工務店が高断熱化高気密化を進めています。そうすると冬の寒さは、改善していくんですよ。でも、夏の場合はまた話が違ってくる。日射遮蔽が出来ていないと、高断熱高気密をやればやるほど、中に入った熱を逃がさない性質が強くなるので、下手すると暑くなっていく。なので、僕が全国の工務店さんをみている中で、冬は最高だけど、夏はとんでもなく暑いというクレームを抱えている住宅も多い。
日射遮蔽の大切さ、ですね。太陽に素直に従って影をしっかり確保する。これがないと、どれだけハイスペックの高い家を求めても、満足な居住スペースにはならないと言うことなんですね。
森下
松尾
冬暖かければ、夏暑くてもいいですか?とはならないですよね。要注意なのが、東西北面の窓が多い家。それから外壁が真っ黒の家。また、軒(のき)や庇(ひさし)が無い家。最近のシンプルモダン系にそういう家が多いですけど。そういう家は、ほぼ何も考えて無いと思ってもらっていいです。
キューブタイプの家とか、真っ黒な家とか、流行ですごく増えてきましたよね。
森下
松尾
実測したことありますが、ツートンカラーで片方がクリーム色系で、一方が濃いブルーみたいな家の場合、直射日光が当たっている時間帯に表面温度の差が13℃ありました。外壁の表面温度が13℃違うのはものすごい差ですから。
太陽の光をどう意識するか。デザインだけが良くても、良い家にはならない。
森下
松尾
そうです。みなさんの中には「ブラインドで日射を切ればいいでしょ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、日射というのは、外で切らないとほとんど意味がありません。遮熱カーテンとか遮熱のブラインドなど、一般の方がネットとかで買ったとしても、熱は4割しか切れない。それに対して、庇(ひさし)やアウターシェイドと言われる外に付ける垂れ幕のようなもの、あるいは日本古来の葦簀(よしず)などは、それら自体が暖まっても熱を外に捨てることができる。8割ほどの熱をカットできるんです。なので、外で熱を捨てるということが、家を暑くしない意味では大変重要なのです。
もう一つ、僕は家事のしやすさとか、家事の時間を短くすることをすごく重要だと思っているのですが、その辺りのアドバイスをいただけないでしょうか。
森下
松尾
そうですよね。例えば子供が小学生くらいの世代のお母さんの睡眠時間ってもうひどい状態だったりします。朝も夜も秒単位みたいな生活をされている方が非常に多い。そんな中で家ができることはまだまだあると僕は思っています。一つは機械の力を借りること。例えば、ルンバや食洗機です。大型の食洗機を使えば1回転で回せるし、夜の安い深夜電力も使える。僕は「幹太くん」(ガス衣類乾燥機)っていうのをよくお勧めしています。物干し場が欲しいとよく言われますが、日本って梅雨時期が6月の10日から7月の20日まで約40日間もある上に、冬場も寒すぎて干せない日もある。春先には花粉や黄砂の問題もあります。「幹太くん」があれば天日干しをしなくて済むようになり、それだけで1日の家事が30分減ったと言われます。30分あれば子供と遊ぶ時間に充ててもいいし、家族で会話する時間も増えるはず。そのメリットは、忙しい人にとって計り知れないと思います。
家事の時短をしっかり考えた家じゃないと、豊かさがおざなりになると。
森下
松尾
なぜ家建てるのか?それは幸せになるためであり、豊かになるためですよね。そのために僕は住宅ができる4要素があると思っています。暖かい、涼しい、時間短縮、そして美しいです。やっぱりソファーに座って、しみじみと「ああ良い家だな」って思える時間があること。それも幸せの大きな要素じゃないかなと思います。
さっき先生が話されていたポイントを押さえて建てると、健康的な家ができると教えていただいたと思うんですけれども、なぜ健康につながっていくのか、ちょっと解説していただけますか?
森下
松尾
今日、世界ではほとんどの国で「最低室温規定」が設けられています。国や自治体によって違いますが、およそ18℃から21℃の間に設定されています。日本にはビル管理法などでは一応目安があるのですが、住宅に関してはそれがない。お爺ちゃんお婆ちゃんとかの古い家に行くと、室内が10℃以下っていうのも普通にあります。10℃以下っていうのは高齢者にとっては、低体温症が起こるかもしれない非常に危ない状況なんです。
なるほど。
森下
松尾
イギリスでは、室温と健康に関する統計調査が実施されていまして、データは20万件以上あります。それによると理想は21℃以上であり、19℃を切ると健康リスクが現れてくる。さらに、16℃を下回ると深刻な健康リスクが現れるという結果が出ています。国が既存の住宅を断熱レベル毎に4段階にグレード分けしていて、もし最低レベルのグレードだと、国から断熱改修命令が出る。ドイツにも同じような規定があります。
そんなに差があるんですね。
森下
個人的な話になるのですが、ウチも木造の古い家に住んでいたときに、父が冬にトイレに行って倒れて、そのまま脳出血を起こして亡くなってしまったのでした。今から思うとやっぱり、家の中の温度が低すぎたのかと。
森下
松尾
一番危ないのは、冬に洗面脱衣から風呂に入るときです。日本ではヒートショックで年間1万9千人以上が亡くなっている。交通事故よりも多いという話は聞いたことがあると思います。ヒートショックというのは、急激な血圧の変化によって心疾患もしくは脳血管疾患が起こること。暖かいリビングにいた人が冷えた脱衣室に行って全裸になると、その瞬間血圧が上がる。そこから熱いお風呂に入ると、今度は上がった血圧がドンって下がる。この落差が大きいほど、ヒートショックが起こる可能性が高くなります。
怖いですね。
森下
松尾
また、ヒートショックといえば若い世代には関係ないと思われがちですが、ヒートショックの原因はプラークと呼ばれる物質が血管の内側に少しずつ溜まっていくことで、限界に達したときにバンと弾けるのです。僕が山口県立大学の医学部長さんと一緒に講演したときに、彼はこう仰ってました。「プラークは40過ぎからちょっとずつ溜まっていくもので、一回溜まってしまったものはもうどうやっても取れない。少なくとも40過ぎからは暖かい住宅に住むことが重要です。」
ということは、できるだけ若いうちから暖かい家に住むことは、将来の健康リスクを回避することにつながるわけですね。
森下
松尾
その通りですね。
シニアの方が建て替えやリフォームをするときなども、そういった性能面をちゃんと考えないと、せっかくお金かけてやっても良くないわけですね。
森下
松尾
そうですね。シニアの方のリフォームと言えば、便器を変えるとか、キッチンを変えると考える方が多いのですが、やっぱり僕は健康に直結する場所、あえてショッキングな言葉を使うなら「死ぬ確率の高い場所」から手を入れることを提唱しています。
具体的にはどんな場所ですか?
森下
松尾
例えば洗面脱衣室の断熱化であったり、冷たいタイル貼りのお風呂をユニットバスに交換するといった所ですね。後はトイレやお風呂によく付いているガラスルーバー窓。あれは本当に断熱性も無ければ隙間風もガンガン入って来て危ないです。あの辺りを優先的に交換することをお勧めします。トイレは24時間小っちゃな電気ヒーターを付けっぱなしにするのもいいですし、洗面脱衣室はお風呂に入る2時間ぐらい前から温めておくのも効果的です。
健康面に関していうと、シニアに限った話ではありませんよね?
森下
松尾
そうです。日本で2万件の統計調査をした結果がありまして、それによると断熱性の悪い家から断熱性の良い家に引っ越した場合に、冷え性、喘息、目の痒み、喉の痛みなど、10個ぐらいの症状について断熱性が上がれば上がる程、症状の改善率がアップしたという結果が出ています。これも見事な相関関係がありますよね。
なるほど。実際に夏涼しくて冬暖かい家に暮らすと実感していただけると思うのですが、夜ぐっすり眠れたり、朝も寒い思いをせずにすっと起きられたり、体に対するストレスがまったくない。その違いは大きいですよね。
森下
松尾
人の寿命が長くなった現在、30代で家を建てたとしても少なくとも40年はその家で暮らすわけです。毎日の積み重ねが家族の人生に与える影響はものすごく大きなものですから、我々作り手としてもその点はしっかりと認識しておく必要があると思います。
私も健康面から考えた家の性能の大切さをお伝えしようと努力しているのですが、ただ、まだまだ力不足で難しいなあと感じています。
森下
松尾
例えば、シニアのお客様が森下さんの説明を受けて、じゃあ暖かい家になるような断熱改修をしようとすると、子供さんが「またお母ちゃんは変な会社に騙されたやろ。」みたいな感じになりがちです。逆にお子さん世帯が森下さんの話を聞いて、お母ちゃんやった方がいいよと言っても、親御さんがハイハイと聞き流してしまう。
確かにそういうことはありますね。
森下
松尾
ですから、本当はイギリスやドイツがやっているように、国が率先してやるべきだと僕は思います。厚生労働省などが言い始めると一気に改善するはずなのですが、日本では残念ながらまったく動く気配ありません。
そういう意味では、やっぱり日本の住宅は性能の基準が低すぎる上に、強制力もないということですね。
森下
松尾
そうですね。日本にも最低基準を作ろうという動きが2019年の1月まではあったのですが、残念ながら飛んでしまいました。ただ、その義務化しようとした基準ですら、決して十分なものではなかった。今日最初の方に出た、Ua値0.46付近っていう数字が真冬にダウンジャケットを着るくらいだと考えると、国が定めようとした基準はせいぜい秋物のジャケットくらいの感じです。
それすらもこの国は義務化できなかったんですね。
森下
松尾
そう、非常に残念です。
全国のいろいろな家づくりの話を聞きますが、地方に行くと凄く恵まれた条件の土地が多いなと思うのですが、この辺って結構都市部ですよね。市街地の建て込んでいる地域で建築する際の注意点を教えてください。
森下
松尾
そうですね、市街地だと夏の日射遮蔽に関しては、あんまり難しくないのですが、やっぱり隣家が迫っていると冬の日射取得が問題になるケースが多い。南側からの日射取得をいかにたくさん確保できる様に設計するかが、設計者の腕の見せ所になります。
どういうアプローチをすればいいでしょうか?
森下
松尾
最初のプランを始めるときに、駐車場の位置と建物の位置をどこに持っていくか。それによって南側の建物との離隔距離がどれだけ取れるか。そこが一番のスタートになりますね。
それをおさえている会社さんって、あんまり無い様な感じがしますね。
森下
松尾
ほとんどないですね。実は先日も某住宅会社グループのコンテストの審査員として60物件ぐらい見たのですが、結構高断熱を謳っているグループのコンテストなんですけど、まず夏の日射遮蔽が全然ダメ。冬も断熱気密による暖かさは合格ラインに達していても、日射取得ができている会社は2割。日射遮蔽に関しては3%あるかないかでした。高断熱高気密を謳っている会社でも日射の設計ができている会社は、ガサっと減りますね。
うーん。他社さんの話ですが、市街地でたとえ日当たりが悪い土地でも、ウチは北海道基準の高断熱設計ですから全然OKですよって言われる会社もあるようなのですが、日射のことを考えずに性能数値だけで勝負している印象を受けます。
森下
松尾
実際、 Ua値が0.57程度であっても日射取得がちゃんと考えられている建物と、Ua値が0.46の高断熱性能でありながら日射取得が考えられていない建物を比べると、前者の方が暖かいことが多い。それぐらい日射取得は大事なのに、みなさんあんまり意識がないですね。
市街地で建て替えとかを考えられる人は、どれだけちゃんと周囲の状況を読み解いて日射取得を考えてくれるかが重要ということですね。数値的な性能だけを求めても、お金をかけた割には満足度が低いみたいなことが起こってしまうと。
森下
松尾
その可能性は高いですね。
松尾
家の性能って何か?といえば、断熱性能とか気密性能っていう言葉が出てきますが、結果として捉えるんだったら、性能とは最終的な暖かさであったり、涼しさのことになりますよね。
そうですね。いくら性能数値が良くても快適に感じなければ意味がありません。
森下
松尾
特に暖かさの場合、日射取得がものすごく重要です。ちょっとセコい言い方をすると、落ちているお金をタダで拾って良いよっていうのが太陽なんですね。ですから、それをいかに上手に取れるように設計してあげるかが、設計者の腕の見せ所です。
いかに太陽の恩恵を受け取る家にするか?ですね。
森下
松尾
これも僕がいつも言う話なんですけど、予算に余裕がない人程、太陽に素直な設計をすべし、なんです。予算に余裕がある方は別にそこまで落ちているお金を拾いにいかなくても構わない。
確かに自動車でも高級車に乗る人は、あまり燃費は気にしないかもしれませんね。
森下
松尾
そうですね。ポルシェに乗るような人は低燃費を考えないでしょう。でも、軽自動車を選ぶなら維持費、燃費の両面で現実的な選択をするはずです。ところが、家はそうなっていない。だから予算に余裕のない場合ほど、太陽に素直な設計をするっていうのがセオリーです。
先生、次は空調について教えてもらえますか。
森下
松尾
はい。僕も熱環境出身の人間なのでちょっと長くなりますが、空調=空気調和っていうのは、暖房・冷房・加湿・除湿の4つを合わせて空調っていうんですよね。この中で、普通のエアコンというのは暖房・冷房・除湿の3つができる非常に優れものなのです。例えば暖房は薪ストーブ、冷房はエアコン、除湿は除湿機っていったらもうこれだけで3つ買わないとダメという話になるんですよ。家全体をこれで賄おうと思ったら、どれだけ空調機器を買わないとダメかという話になりますよね。
確かに1台で3役できるのはエアコンだけですね。
森下
松尾
冷房に関しては、実質的にエアコンしかない訳ですから、エアコンは絶対に必要なわけです。ちなみに、扇風機は冷房とは言いません。中にはウチで高性能住宅をつくったら冷房がいらないっていう、無茶苦茶なことを言う工務店さんもあるみたいですが、やってみたらいいって話です(笑)。もしその会社が冷房なしで日常業務ができているのならいいですが、そんなことは絶対にありませんから。
(笑)
森下
松尾
話を戻すと冷房を買ったらあとの2つ、暖房と除湿は付いてくるんです。エアコンはすごくコスパがいいですよね。みなさん冷房は高くつくと思っている人が多いんですけど、それはエアコンが悪いからじゃなくて、家の日射遮蔽が全然できてないからです。家中でストーブを焚きながら冷房している状態ですから電気代が高くなってしまう。
悪者にされるエアコンがかわいそうですね。
森下
松尾
私や森下さんがやっているような住宅だと、10畳用のエアコンを小屋裏に1台付けて、それを24時間回すだけで、家全体が27℃とかになる。しかもその月の電気代が4,000円から悪くても5,000円ぐらいで収まる。たぶん一般の方からすると想像できないかもしれませんが、その理由は入って来る熱を極限まで減らしているからなんですね。
光熱費については従来の半分くらいのイメージですね。
森下
松尾
はい。次は除湿に関してですが、除湿に関しても家電屋さんで売っている一番良い除湿機と比較しても、エアコンの除湿機能っていうのは倍ぐらい燃費がいいんですね。だから除湿に関してもエアコンは一番優秀なんです。
そうなのですね。
森下
松尾
最後の暖房に関しては、本当に薪ストーブからコタツからホットカーペットからデロンギまでいろんな暖房器具がありますが、これも事実上エアコンが一番燃費が良いんですね。なので、やっぱりエアコンで冷房・暖房・除湿をするっていうのが一番お勧めかなと思いますね。
エアコンってすごく優秀なんですね(笑)
森下
冷房はどのご家庭でもエアコン一択になると思うんですけど、暖房に関してはエアコンより灯油の方が安いという意見が強そうですが。
森下
松尾
実はエアコンって、使い方によって実燃費がすごく変わる機械なんです。なので、上手に使うと灯油より低燃費になります。でもほとんどの方がやっている使い方だと灯油より高くついちゃいますね。
エアコンで暖房すると高いってイメージはありますね。
森下
松尾
またエアコンの暖房は効かないっていう人が多いんですけど、これはエアコンが悪いんじゃなくて家が悪い。灯油ファンヒーターの吹き出し口の温度って大体150℃なんですね。それに対してエアコンの吹き出し口の温度は40℃から50℃です。なのでもともと寒い家の場合暖かくならないんです。しかもファンヒーターは地面スレスレの所から吹き出してくるので、足元から暖かくなるのに比べて、エアコンは大体上から吹き出してくるので、その両面で寒い家ではもう全然使い物にならないですね。
逆にそれは、灯油が安いのではなく、家の性能の低さによって安く感じているということですね。
森下
松尾
実際、灯油じゃないと効かない程度の断熱性気密性の家が多いのは事実です。ただ、灯油の一番の問題点は、燃やしたときに熱と水分以外に汚染物質やCO2も出てくるということ。例えるなら煙突なしで家の中で焚き火をやっているのとまったく同じ行為なんです。灯油って英語に直すとkerosene(ケロシン)っていうんですけど。欧米人からすると、え、日本人はケロシンを煙突なしで家の中で焚くのかって、腰を抜かすんです。だから灯油ファンヒーターの最上面には、30分に1回窓を全部開けて下さいって書いてあるんですよ。でも30分に1回窓を全開していたら、いつまで経ったって暖まらない。そういう意味では、あれは本来あってはならない機械なんですよね。
でも、この兵庫県では煙突をつけて使っている家は見たことないですよね。
森下
松尾
僕も1回も見たことないし、入手するのも大変だと思います。一般の灯油ヒーターを開放型といいますが、室内に排気を撒き散らすのは、常識で考えても危険ですよね。
床暖房はどうですか?
森下
松尾
床暖房に関しても同じで、断熱性が悪い家でなら有効な手段です。人間の温冷感って足元で決まるんですよ。足元が冷たいといくら空気の温度が高くなっても寒さが解消された気がしない。僕の経験上、床暖房みたいに30℃みたいな高温にならなくても、床の温度が21℃を超えるか超えないか程度で満足度がもう劇的に変わるんですよね。
先生が考案された「床下エアコン」との違いは?
森下
松尾
僕らがやっている床下エアコンっていうのは、床下にエアコンの暖気を流し込むやり方です。それだけで、廊下もトイレも洗面脱衣室も全部21℃を余裕で超えます。そのやり方が一番簡単かつ安いかなと思いますね。床暖房のパネルを1階全面に使うと物凄い費用になりますよね。
それに、使えない床材もありますね。
森下
松尾
そうです。僕らは出来れば無垢のフローリングを使いたいんですけど、無垢のフローリングは反っちゃうからダメっていうのが多い。床暖対応のフローリングもあるけれど、それも値段が高い。なので、家の性能を高めた上で、今言ったように床下に暖気を流すことによって暖かくする方法が一番コスト的にもいいと思いますね。
そうすると、さっきの灯油も床暖房も、そもそもの家の性能が出てないから、それしか選択肢がないということで、性能の良い家に住めば一番コスパのいいエアコンで十分に快適なものができる上に、安いということですよね。
森下
松尾
そうですね。でもたとえ高断熱高気密の住宅であっても、どういうエアコンを、どのように設置して、どのように運転するかによって、簡単に冷暖房費って変わって来るので。そこが大きく差がつくポイントです。
当社も先生にご指導いただきながら、「小屋裏エアコン」「床下エアコン」を使って、いわゆる全館空調と言われる家づくりをしているのですが、全館空調は高くて贅沢品というイメージがあるみたいで、敬遠される方がまだまだ多いのですが。
森下
松尾
僕自身は、全館空調っていう言葉はあんまり使わないようにって、言っているんですね。やっぱり全館空調って言った瞬間に、私そこまで高価な物はいりませんっていう拒否反応を示される方が一定数いらっしゃるので。だから、1台もしくは2台のエアコンで家全体が暖かくなる、涼しくなるという言い方にしています。
そうですね。
森下
松尾
僕はいろんな工務店さんを調査しましたけど、だいたいLDKと主寝室の2部屋は最初からエアコンを付けるんですよ。エアコンの物代と施工費を合わせると、最低でも1台15万ぐらいはします。2台で30万ですね。子供さんがある程度の年になると、子供部屋にも付ける。そうすると3台で45万みたいな話になってきます。
確かに。
森下
松尾
だったら、そのお金を最初から使って、家全体を快適にしましょう、というのが我々の提案です。家が快適であるというのは富裕層の贅沢であってはいけないのです。これはもうヨーロッパでもアメリカでも共通していることですね。たまに欧米の本を読んでいると、「俺はあのとき貧乏だったので家を暖房することすらできなかった」というようなセリフが出てくる。それくらい向こうでは常識なんですよ。
そうすると全館空調という言葉が誤解を招くとしても、家全体を快適にするということは日本のすべての家が今後取り組むべき要件ということですよね。
森下
松尾
その通りです。
次に、先生が考案された「床下エアコン」「小屋裏エアコン」について少し教えていただきたいんですけども。
森下
松尾
わかりました。「床下エアコン」も「小屋裏エアコン」も消費エネルギーが少なく、設置費用もランニングコストも安いという特徴があります。技術的には一見簡単に見えますが、冷暖房費を減らすのはさまざまな工夫が必要で、そんなに簡単なものではありません。両方ともドアを閉めた状態の各部屋に、ムラなく快適な空気を送り続けるのですが、床下エアコン暖房と小屋裏エアコン冷房では、もう全然クセが違います。
実際にどのような効果が見込まれますか?
森下
松尾
たとえば小屋裏エアコン冷房をすると、家中1台でエアコンがすむだけでなく、いろんな不快を取り除いてくれます。たとえば、夏に一晩中冷房をつけたらもう寒くて眠れないとか、朝起きたらだるいとか、切ったら暑くて目が覚めるとか、そういった悩ましい問題がなくなります。各部屋を凄い微弱に冷房するので、感覚的に言うと秋とか春みたいな感じになる。一日中つけていても全然不快じゃないし、どこにいてもベタっとした感じがしない。あの冷たい風がガーってくる感じが一切ありません。
健康にもいいですよね。
森下
松尾
もちろんです。それだけじゃなく、衛生面でも非常に優れている。たとえばカビやダニは湿度が70%を超えると発生してくるのですが、家中の湿度をずっと60%くらいにキープできるので、カビともほぼ無縁の生活ができます。
贅沢ではなくて、快適で、健康にも良い暮らしを手に入れるということですね。
森下
松尾
それともう一つ大事なことは、エアコン自体はどこにでもある汎用の壁かけエアコンを使っているということです。エアコンって平均13年で壊れます。13年目に交換ってなったときに、森下さんの会社に声をかけてもらえれば、エアコン代プラス、交換費用だけでずっと使っていける。これが結構重要なことなのです。
最近は「〇〇システム」というような特殊過ぎるシステムがいっぱいありますね。
森下
松尾
特殊なシステムを使った弊害っていうのは、僕はもう嫌っていうほど味わいました。先ほど話したウチの実家がそうだったんです。バブルのときに建てたので、天カセ(天井カセット)エアコン、家庭内インターホン、セントラルクリーナー、ジェットバス、オートロック、みたいなフル装備の家だったのですが、今でも現役で動いているのってジェットバスだけです。あとは全部壊れました。直す費用を聞いたら、もうアホらしいくらい高いし、部品がもうない。もうほとんど1世代限りのオモチャです。
あー、なるほど。じゃあ全館空調をやっても特殊な設備だったら、壊れたら修理もできないし、負担にしかならないということですね。
森下
松尾
新築のときはローンに組み込んでいるから、みなさんあんまり気になさらないのですが、13年後にいざ壊れたときに子供が受験で金がかかる時期と重なったり、かつキャッシュから出すことになるので大きな負担になることがある。
そこまで考えて提案している業者はいないでしょうね。
森下
松尾
家ってやっぱりみなさん、我々業者もそうだし、お客様もそうだけど、今現在を最適化することしか見えていない。35歳ぐらいで買われて、今人生100年時代とかって言われていますが、少なくとも40年ちょっと住むわけですよね。だから、その間にエアコンの交換が3回〜4回あるわけです。そのときにちゃんと普通の費用で交換できることが非常に大切なんです。もし5台付けていたら5台交換しないといけない。でも2台だったら2台で済むので、かえって安い。なので、トータルで考えたら圧倒的に安くなるわけです。
いわゆる汎用品、入手しやすくて何年経っても絶対ある物でしておくっていうのは重要ってことですね。
森下
松尾
そうです。
それは空調だけじゃなくすべての設備をそう考えるべきですね。
森下
松尾
みなさん何の疑いもなく6畳用エアコンとか10畳用エアコンを使っていると思います。家電量販店に行けば6畳間なら、6畳用のエアコンを付けましょうねってなると思うんですけど。実はあの6畳用とか10畳用っていうのが1964年の木造無断熱住宅をベースに設定された、畳数表示なのでね、大きすぎるんですよ。
なるほど。
森下
松尾
つまり、今の住宅の10倍ぐらい熱が抜ける住宅用の設定なんですね。例えば今、6畳用のエアコンがフルパワーで動くと、コタツ10台分のパワーがあるんですよ。今の6畳でコタツ10台もスイッチオンにしたら、もう十分すぎるくらい暑い。本当は今建てている住宅に対しては、暖房に関しては6畳に対して、1畳用エアコンっていうのが、ちょうどいいぐらいなんですよ。でもそんなエアコン無いですよね。
なるほど、なるほど。そうすると家の性能に見合った、適正なエアコンを選んでもらえる力がある方にお願いしないと、家電量販店でいきなり買ったらよけいな買い物しちゃうわけですね。
森下
松尾
そうですね。でも家電量販店で、そこまでの性能はいらないから、と言っても、内規で売ってくれない会社が非常に多いです。
そうなんですね。
森下
松尾
何畳ですか?あ、18畳ですが6畳用でいいですと言っても、それはほとんどの電気屋さんで通用しないです。だからやっぱり買うときは工務店さんで頼む、というのが鉄則かなと思いますね。
逆に、エアコンはどうぞ電気屋さんでというのは、不親切と言うか。
森下
松尾
そうですね。僕いつも言うんですけど、車買いに行ったときに、エアコンは標準ではやっていませんので、オートバックスで付けて下さいと言われたら、おかしいですよね。左の後部座席はエアコンが効きませんから後はご自分で、みたいな車ってないですよね。でも冷静に考えたら、車って家の10分の1価格だし、乗っている時間ってよく乗っても1日2時間以下。かつ10年おきに買い替える。その10倍の値段がして、一日最低10時間は使用して、最低30年以上使う一番高い買い物である住宅の空調がオプションだっていうのは、普通に考えたらおかしい話なんですよね。
いやあ、本当にその通りですよね。我々工務店が責任を持つべきところですね。
森下
もう一つの質問は、太陽光発電についてです。太陽光パネルがずいぶん安くなったと聞く反面、買取金額が安くなっていくし、この先不透明だから太陽光発電はどうなんでしょうかと聞かれたりします。プロの中でも、意見が分かれていますが、先生はどういう風にお考えですか。
森下
松尾
太陽光発電は2009年に固定価格買取制度が始まりました。そのときは経済産業省がボーナス期間と言っていましたが、48円で1kw/h。余剰電力を48円もの高価な金額で買い取ってくれていたんですね。このときやっていた人はやっぱり儲かったと思います。ただその代わり、今に比べたら太陽光パネルの金額はかなり高かったです。
そうでしたね。
森下
松尾
買取金額だけで見れば、今現在たぶん26円ぐらいなので、48円から比べるとかなり下がりました。ただその代わりパネルの値段も半額位になりました。そういう意味では、ちょっとだけ収支が悪化したかなっていうのはあるんですけれども、今でも付けた方が得にはなります。プロと称する方にもいろんな意見があるのは知っていますけれど、恐らくしっかりと収支計算をしたことがないのだと思います。
すると、やっぱり今でも付けた方が得なんですね。
森下
松尾
kwいくらで付けるかにもよるんですけれども、10年前後ぐらいで回収できるような金額設定で太陽光パネルを出してる場合に関しては、確実につけた方が得ですね。
電気代は今後上がっていくと言われていますよね。この関西の管轄の関西電力さんも年々値上げしているじゃないですか。そういう点でもやっぱり載せていると何かと有利なんですかね。
森下
松尾
そうですね。僕は2012年から、建てた人の電気のデータを貰っているんですが、何kw/h使ったかを今の単価にあてはめて計算すると、なんとこの7年で159%電気代が上がっていたんですね。この7年に関しては、7%ずつ上がって来たみたいな話になるんですよ。
大きいですね。
森下
松尾
この7年が特殊だったと考えたとしても、経産省も今後日本の電気代っていうのは3%ずつ上がっていくという想定を出しているんですよ。ドイツとかも大体3%です。その通りに計算していくと、やっぱり余計に太陽光が付いている人と付いていない人との差は大きくなっていきます。
じゃあ、付けてみることを真剣に考えた方がいいということですね。
森下
松尾
そうですね。昔は僕らもやっぱり太陽光ってどうしても後回しになっていて、去年ぐらいまでは設置率が多分50%前後でした。ただ2019年の初めぐらいから太陽光発電のリースができるようになりました。なので、一番得なのはキャッシュで買える人。それから次がリースで載せられる人。一番もったいないのが何もしない人、と言うことにシミュレーション上はなりますね。
じゃあそういうシミュレーションをきちっとしてくれて、適正な計画をしていただける工務店さんにお願いして載せるべきですね。
森下
松尾
それが一番です。
先生、ありがとうございました。最後に、適正な家づくりの順番みたいなのがもしあれば、少しまとめとして教えていただければと思います。
森下
松尾
今日話してきたことは全部大事なことばかりです。断熱気密をちゃんとやって、それから太陽に素直な設計。そうすれば夏涼しく、冬暖かい家ができます。それから耐震等級3。この辺はやっぱり人生100年時代っていうことを考えても重要です。今後30年以内に70から80%の確率でこのエリアは南海トラフ巨大地震が来るという風に言われているので、耐震等級3以下の住宅の場合は、かなりの確率で資産価値が無くなっちゃうんです。そういった意味でも耐震等級3は絶対必要だと。
なるほど。
森下
松尾
それから、リスクヘッジっていう意味では、大体そういうときはエネルギーが止まるので、そういう場合のシェルターとしての意味合いっていうのも強くあると思います。もし、電気が止まって冷暖房ができない状態でも一定期間過ごせるくらいの性能があることが重要です。
確かに。
森下
松尾
それからやっぱりこれから差になっていくのは、最適な冷暖房計画ですね。第一段階としてやっぱり断熱気密っていうのがあって、そこは最近どこの会社も頑張り始めていますが、でも日射遮蔽が出来てないから、夏が凄く暑い。
断熱気密より日射計算の方が快適性への影響が大きいわけですね。
森下
松尾
そうです。実はさらにその先なんですね、冷暖房計画って。それでもやっぱり冷暖房計画を上手にやらないと、いくら断熱気密とかがちゃんと出来ていても、ランニングコストがかからない状態で暖かく涼しくっていうのは実現出来ない。ここまで出来て、一応合格かなみたいな感じですね。
はい、わかりました。今日はもういろいろと、お話を聞かせていただいてありがとうございました。
森下
松尾
ありがとうございました。