家の値段が上がる!?ウッドショックとは?
今日のテーマは「ウッドショック」についてです。日本は木造住宅のシェアが高いので、これから建てられる方に関しては、ものすごく影響がある世界的なトピックになります。
この「ウッドショック」、どういうことかというとコロナウイルスの問題が絡んでいます。1年前の今くらいの時期に、日本でも発症のニュースが出ましたよね。その時、世の中の景気の停滞感を受けて、日本は輸入の制限をしました。それから1年が経過して、まだコロナは収束していないけど、少しずつ経済を回していこうという動きが出てきたので、「じゃあ本格的に輸入再開しよう」となったのですが、輸入木材が入って来ないという状況が起きています。
みなさんご存知かもしれませんが、一説によると、今、日本で建っている家の6〜7割以上が輸入の構造材を使っていると言われています。樹種で言うとホワイトウッドやレッドウッドなどが挙げられます。あとは米松(べいまつ)と言ってアメリカ大陸産の松ですね。日本でも松は取れますが、それと比べるとまっすぐで梁に使いやすいのが特徴です。なので北米産の松はすごく良いと言われているんですが、そういった物の輸入量が減っている。これが「ウッドショック」ということになります。
これの困ったところは、少し足りないのではなく、全然入ってこない。なので輸入木材が確保できない状態が、今、私達の現場では起きています。僕もお受けしている物件の上棟に関しては、輸入材を軸にして建物の構成を考えています。なので、今その対応に追われているところです。
この「ウッドショック」、もう少し具体的にお話していきます。広島に中国木材さんという会社さんがあります。ここは日本で一番大きな会社さんで、今、北米産の米松の出荷を制限されています。この動きは他の会社さんにも広がっていて「新しい取引は難しいです」というようなところも出てきました。なので今は柱がない、といったことも言われています。「輸入材が無いなら国産のものを」という考えになると思いますが、もう色んな会社さんで取り合いになっています。昔オイルショックが起きた時、みんな「トイレットペーパーない!」といって店頭から消えたことがありましたよね。あれに近い感じです。
この出荷制限や国産の木材の取り合いで、現場にはどういう影響があるかというと、今、上棟を1ヶ月延期というのが頻繁に起きてます。契約していない、発注が終わってないもの
に関しては「最低でも半年待ってください」という状況です。あとは「なんとか材料かき集めたけど値段が高くなっているので、追加で請求させてもらいます」という問題も出てきました。この金額はケースバイケースですが、一説では1棟あたり50万円くらい、会社さんによっては100万円ぐらいプラスされるようです。これは建てる方にとって、大きな問題ですよね。僕ら業者としては、まず状況を理解をしていただきたい、という気持ちがあります。
ウッドショックに関しては、先のことほど不透明というのがあります。「オイルショックのときのトイレットペーパーみたいに一過性のものではないのですか?」と聞かれるのですが、
今の段階ではハッキリと言い切れないです。なぜ言い切れないのかについても説明します。
まず日本という国は、世界の林業国から見て良いお客さんでした。日本人は木造住宅をこよなく愛しているし、良い木材をしっかり使う国民性があります。昔は人口も増えていて、家もどんどん建っていた時期がありました。なので、日本に木材をたくさん売ろうということで、世界の国が供給してくれていたんですね。でも今は、住宅着工に関して言うとアメリカと中国が絶好調です。アメリカは過去のバブルと言われた時代以上に住宅着工をしていて、すごい需要が高まっています。中国も、日本の人口を比較したら7〜8倍ありますし、戸建ても盛んになってきています。
木の生産エリアはどこかというと、ヨーロッパや北米が挙げられます。他にもいろいろな地域がありますが、安定した生産ができるのはこの2つになります。ヨーロッパから日本に木材を届けようとすると船便でスエズ運河を通らないといけないです。北米の木材はパナマ運河で入ってくるケース、それからロサンゼルスみたいなところから太平洋を通るケースがありますが、どちらも海を通る必要があります。
一方、北米からアメリカの主要都市、あるいはヨーロッパから中国は地続きなのでトラック便で送れます。船便と比較すると物流費もスピードも全然違います。何より一番違うのはお客さん。日本の消費者は世界一品質にうるさいです。僕もそうなのですが、例えば節が多いものや、少しでも曲がりや割れが若干あると「こんなん使わんといて」と思ってしまいます。ところがアメリカや中国だと「節なんかあってもかまへん」となります。質の高さよりも、量をきっちり守ってくれたらOKという国民性です。商売する身になって考えたら、物流費は安く済む、手間も少ない、品物を入れても文句が少ないほうがいいですよね。アメリカと中国の住宅着工が堅調ということも考えると、「それより日本に買ってもらいたい」とはなりにくいはずです。ウッドショックが1年で収まるか分からないというのは、こうした背景があります。これは脅しでもなんでもなくて、現実にある話です。
これから家づくりを、特に木造住宅を考えられる方は、コストがこれまでと比較して上がっていくこと、そして納期に関しては流動的というのを頭に置いておいてください。請負契約を結んだとしても、災害などと一緒で、僕ら側でどうすることもできない部分があります。これは契約の中で必ず物価上昇スライド型の特約事項というのが入っています。裁判になろうが何しようが相談させてください、ということになります。ウッドショックによる影響は、業者の言い訳ではなく、環境も絡んでいるという事を知っておいてほしいんです。
家づくりに関して、お客様が考える優先順位は様々だと思います。「自分が気に入る材料が集まらない限り家は建てない」という考えもあると思います。これは僕も同意しますが、その選択をされる際はコストがかかることと、長い時間が必要だという事を知っておいてください。何より、今は木材欲しい人がたくさんいますから、「そちらで保管しておいて」と言われても対応することができません。どうしても使いたい木材があって、それを工事までに保管しておきたいのであれば、自分のお金でどこかに倉庫借りて、2〜3年掛かりで管理することが必要になります。そこまで決断できなければ、品質を突き詰めたり、好きな樹種を選ぶのは難しいです。
「僕はそこまでうるさいこと言わへん」という場合は、工務店さんとかハウスメーカさんが必死で安心できる木を確保しようと努力されてますので、そこを信頼していただければと思います。ただ、樹種にはこだわらないけど、提案されたものとは別の木を使いたいこともあるかもしれません。その場合はきちんと対策を取ってくれてるかどうかということを相談しながら進めていただければと思います。
木材の値段ですが、今後どういう風に上がっていくかはハッキリとはわからないです。1棟あたり50〜100万円、ひょっとしたら、それ以上ということもあり得ます。僕の予想では高止まりするのではと思っています。なので全体のコストが高くなっていくことも頭に置いといていただきたいんです。夢のない話ですが、これが現実です。
この話をした上で、みなさんにお願いしたいことがあります。私達は、なるべくお客さんの優先順位に合った話ができるように努力していくので、家づくりの話し合いに関しては余地を持っておいていただきたいです。でも「嫌や!」と言ってしまうと、後回しになったり、受けてもらえる数が限りなく少なくなったりしてお客さんの選択肢が減ってくると思います。そういうことも頭に置いといてください。
何にしても、これからの家づくりに関しては、価格や納期の面でお客さんの方に忍耐を強いることが出てくるかもしれません。でも、そういうことも一緒に乗り越えていこうというのが家づくりの次フェーズになると思います。