遮熱材を使うと快適な家になる?
今日のテーマは遮熱材です。
あるお客様から「遮熱材を家づくりに使うのは、どうなんでしょうか?」と相談を頂いたので、私なりの答えを、お伝えしたいと思います。
遮熱材が分か分からない方もいらっしゃると思うので、実物を用意しました。
夏場に駐車してる車を見ると、車内が暑くならないように、フロントガラスに銀色のシートが立てられていることありますよね。あのシートだと思ってください。
中には、いわゆるプチプチと呼ばれるものが入っていて、それをアルミ箔で挟んでいます。こういうものが「遮熱材」と言われています。
さっきお話したように、車内の温度が上がるのを防ぐのに使われていたりするので、「暑さを軽減する機能があるのかな?」と感じられた方もいると思います。
では、実際どうなのかを解説していきますね。
まず、みなさんには「熱の移動の3原則」を知っていただきたいと思います。
10年ほど前、僕はある勉強会に参加して、先生からこのようなことを学びました。
「熱いとか冷たいというのは、(自分の方に)伝わってくるから分かるものですよね。つまり熱は移動をしています。
熱の移動には3つの種類があって、それを『熱の移動の3原則』と呼んだりしています。
1つ目は伝導です。物質の中を熱が伝わっていくことを熱伝導とか言いますよね。外がすごく暑かったら、建物の壁が熱せられて、熱いと感じる。あれのことです。
2つ目は対流です。人は空気のあるところにいますよね。そこでは暖かい空気とか、冷たい空気という形で熱の移動があります。エアコンは、まさに対流を利用した冷暖房器具です。
3つ目は輻射熱です。あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、身の回りで幅広く利用されています。
例えば石油系の暖房機。これは反射式というやつで、後ろ側に付いている湾曲した鏡が熱を反射させて空気を暖めます。
ファンヒーターは、さっき出てきた石油系の暖房機と違って、本体を触っても、すごく熱くはないですよね。でも本体から出てくる風は、すごく熱い。これが輻射です。
だるまストーブの発展形で、灯油の筒型のやつが輻射型のストーブです。表面の鉄板がカンカンに炙られて、そこから遠赤外線が出て暖かいというやつですね。
反射式も輻射式の1つで、小さな熱源を鏡で集めて、前方だけを暖めて、輻射熱を送っています。なので輻射式の暖房器具というのは、結構身近にあります。
輻射式の暖房器具の特徴は、5〜6m離れたところに居ても、顔のあたりが暖かく感じます。これは遠赤外線という輻射熱が来ているからなんですね。
大きな話で言うと、太陽と地球も輻射の関係にあります。
太陽と地球の間には、ものすごい距離がありますよね。宇宙空間は真空なので、対流のしようがないし、空気がないから伝導もしにくいです
でも、太陽の熱がイヤというくらい地球に降り注ぐのは、太陽熱が輻射しているからです。すごい遠くからでも熱が届くというのがイメージしやすくなったと思います。
繰り返しになりますが、地球上には3種類の熱移動があって、これをエネルギーの比率で示すと、伝導が5%、対流が20%、輻射は75%になります。
輻射というのは、この3つのなかで非常に比率が大きいので、これをコントロールしないと、家というのは、なかなか快適になりません」
僕はこの話を聞いて「あぁそうか」と結構びっくりしました。
この遮熱材って、外側はアルミですよね。
昔、アポロ計画で月面に着陸した映像を見ると、ビラビラした金色のものが映っています。あれも金属膜ですね。
月面上は、ほぼ真空なので輻射熱がバシバシ当たります。なので、あれは輻射熱を跳ね返して、宇宙船を守るという役割を果たしていました。。
先生は「アルミのようなものは、輻射熱が来たら99%は跳ね返してくれる、すごいものです」ということもおっしゃっていました。
一方、アルミでない、普通の断熱材みたいな物質は、せいぜい10%ぐらいしか跳ね返せません。9割ぐらいの熱は入ってきちゃいます
だから ここを管理するのが重要になるんですね。
これが遮熱材を使う上でのスタートになります。。
勉強会でこの話を聞いたあと、ある実験をしました。
遠赤外線ストーブをボンと置いて、ストーブの熱で断熱材と遮熱材の温度がどう変化するのか、熱の伝わり方を検証するものです。
断熱材の方はフェノール系と言って、商品名で言うと「ネオマフォーム」と呼ばれる、当時国内に流通しているもののなかで、最強の断熱材と言われているようなものでした。
その立派な断熱材と遮熱材を並べて、1時間ぐらい熱を当てます。
1時間後、フェノール系の断熱材の表面は、もう触れないくらい熱いんです。
一方、遮熱材は表面を触っても熱くないんです。マジックを見ているような気分でした。
遮熱材が、輻射熱に対してこれだけ強いというの立証する内容でした。
この実験を経て、家づくりで活用できないかなと思って、いろいろ挑戦した時期があります。
その当時、僕は外壁と小屋裏に遮熱材を取り入れることをやりました。
小屋裏に収納を作ると、夏は、ものすごい暑くなるんですよね。なので遮熱材で小屋裏を囲むことをやってみたら、びっくりするぐらい効きました。
全然温度が上がらないし、熱気でムワーッとする感じがない。すごいなぁと思いました。
でも一方で、温熱や高断熱を研究している専門家の人たちは「今のところ遮熱材には期待できる効果がない」とおっしゃています。
私の師匠は松尾先生なんですけど、松尾先生も同じことをおっしゃっています。
例えば、まったく同じ形状の家を建てたとします。
屋根の部分だけ少し変えていて、片方には断熱材が、もう片方にも同じスペックの断熱材だけど、表面に遮熱材を使ったものが入っています。
その2つ家の温熱性能(室温など)がどう変わるか、詳細にデータを取った実験があるのですが、ほぼ変わりがないそうなんですね。あったとしても誤差範囲くらい。
なので、お金掛けて遮熱材を入れても、いい効果は期待できないというのが、1つの結論になっているようです
僕は松尾先生の弟子なので、師匠が言うことを基に家づくりをしています。ですので、今の施工では遮熱材を使っていないです。
でも不思議に思うこともあります。僕の経験からすると、遮熱材に一定の効果はあったように思えるのでね。
よくよく考えると、断熱材と遮熱材というのは、そもそも成り立ちが違いますし、遮熱材に関しては、まだ実験とかエビデンスが十分でない、という部分もあります。
ある会社さんでは、遮熱材をタイベックシートの代わりのように貼って、後ろに発泡ウレタンみたいなのを吹きつけた、複合断熱材を取り入れているという話を聞いたことがあります。
「すごくいいんですよ」という意見もありますが、それは遮熱材のおかげで良いものなのか、断熱材のおかげで良いものなのかは、分からない、というのが正直な所だと思います。
もし、これを使うなら、断熱材と遮熱材は尺度が違うということ理解しておく必要があります。また熱伝導の視点で考えたら、そんなに意味がないものだと私は思います。
ただ、使い方によっては有効に働くこともあります。僕の経験でですが、こういう断面で使うのはアリだと思います。
これは表面に面材を貼って、こっち側に遮熱材を貼る。ここに隙間がありますけど対流はしません。
一般的には通気工法とかを取り入れますが、あえて上と下を気流止めみたいにして、空気が全く流れない空間にします。こういう風にすると、効果が出てくるはずです。
遮熱材を使う時は、こういう風に静止空間を作ってやれば、一定の効果が得られると思います。ただ私も、たくさん実験をして詳細なデータを取ったわけではありません。
今日の話のまとめになりますが、遮熱材と断熱材は、同じ尺度で測ることはできないです。
だから使い方が大事なポイントになります。
例えばタイベックシートの表面に、シルバー加工をすることで「遮熱」と表現することがあります。
でも太陽光線が直接当たらないのであれば、跳ね返すということはないですし、結局、熱は物質を通って伝わっていきます。
特に通気工法が施されているなら、ここで対流が起きて、どんどん空気が変わりますので断熱として見れません。
効果はゼロじゃないと思うけど、すごく効いてるかどうかというと、正直微妙です。
なので、遮熱材を使われるなら、静止空間を使ってやったらどうでしょう?というのが僕の提案です。
僕が今の家づくりで遮熱材をあまり使ってないのは、通気の層と静止空間の層を作ることが、コストや収まりの面で難しいケースが多いからなんですよね。
それよりも、断熱と気密をキチッとやれば、十分な温熱性能が出ると学びましたし、これに関してはたくさんのエビデンスがあるので、こちらを採用しています。
将来、絶対遮熱材を使わないかというと、それは分からないです。エビデンスが蓄積されて体系化されれば、使う可能性も出てくると思います。
「遮熱材を使えば、太陽の光も、冷気や暖気も跳ね返してくれて、すごく快適な家ができる」と言う風にはなりませんので、注意してくださいね。
適材適所で取り入れていただいたらどうかなと、私は考えています。