幸せに生きるための60代からの住まい対策のすすめ
今回は「幸せに生きるための60代からの住まい対策のすすめ」について解説します。
このテーマを選んだきっかけは、私が日頃多くの専門家からアドバイスをいただく中で出会った、ファイナンシャルプランナー(FP)の岡崎充輝さんとの対話です。岡崎さんはFPとしての業務だけでなく、豊富な経験を通じて多くの方々の人生に深く関わりながらアドバイスを提供している方です。以前、彼の著書『定年までに知らないとやばいお金の話』が一時期コンビニでも販売されるほどのベストセラーとなり、多くの人々に影響を与えました。
そんな岡崎さんと話をする中で、興味深い言葉をいただきました。「僕の周りにいる60代以上の方々を見ていると、会社の社長や一般のサラリーマンなど様々な人生を歩んできた人がいます。その中で『この人は幸せそうだな』と思う方には特徴があるんですよ」と言われたのです。私は思わず、「それはどういう特徴ですか?」と尋ねました。すると、岡崎さんはこう答えました。「お金を貯めることも大事ですが、それがすべてではありません。一番大事なのは健康です」。確かに、健康がなければどれほどのお金や地位があっても、幸せを感じるのは難しいものです。
さらに岡崎さんは「健康の次に大事なのは、奥さんとの仲です」と続けました。夫婦が助け合い、心が繋がっていることが非常に重要だと言います。これには私自身も少しドキッとしました。そして3つ目に大切なのは、「気の置けない友人の存在」だそうです。この3つの条件を満たしている人が、60代からの人生を幸せに生きていると岡崎さんは語っていました。
この話を聞いて、ふと友人から聞いた別のエピソードを思い出しました。ある大企業の経営者の方が、「自分には気の置けない友達がいない。仕事ばかりしてきたから、周りはライバルみたいな奴ばかりだった。だから今、本当に生きづらい」と嘆いていたそうです。その方は成功者として羨望の的でしたが、そんな方でも人との繋がりを欠いた孤独を感じていると知り、人間の本質的な部分について改めて考えさせられました。
やはり、人間は社会的な生き物です。健康、夫婦仲、友人との関係。この3つが揃ってこそ、人生の幸福感が生まれるのだと思います。そしてこれらを維持するには、単なる気持ちの問題ではなく、具体的な対策が必要です。
私は工務店の仕事をしている中で、特に「住まい」がこうした幸福において非常に大きな要素であると感じています。60代からのリノベーションをテーマに解説したこともありますが、住まいを整えることは健康や人間関係の土台となります。例えばバリアフリー化や、家族や友人が集いやすい空間づくりなど、住まい対策は「幸せに生きる」というテーマに直結します。
これまで一生懸命に生きてこられた60代以上の方々が、これからの人生をさらに幸せに過ごせるように。今回はその具体的な内容について解説していきます。
私が考える「こんな家にしたらいい」という住まいの条件は、大きく3つあります。まず1つ目は、単に長生きするための家ではなく、「健康寿命」を伸ばせるような家にすることです。私が松尾先生という師匠と出会い、断熱や気密の重要性を強く意識するようになったのも、この考えに基づいています。住まいの環境が健康寿命に大きく関わると実感しているからです。
もう1つ、大切だと感じたのが「家族や友人が気軽に集まれる家」です。これは、先日私事ではありますが、長女がお嫁に行ったことがきっかけで改めて考えさせられました。お婿さんという存在が家族に加わり、これからうまくいけば孫が生まれるかもしれないと考えると、自然と嬉しい気持ちになります。こうした人生の節目や新しい出会いを考えると、家族や友人が気軽に呼べる家の大切さを実感しました。また、家そのものについても、日々の暮らしで「この家は使いにくい」「ストレスがたまる」と感じることが多いと、生活全体の質が下がってしまいます。そうしたストレスを軽減できる家を目指すことも重要だと思います。
まず最初に、健康寿命を伸ばすために欠かせないのが「断熱性能」です。これについては、さまざまな動画や解説でお話ししてきました。たとえば、冬の寒さ対策や夏の熱中症対策など、季節ごとの具体的なリスクをお伝えしています。現在、60代のシニア世代が住んでいる家の多くは、築25年以上前のものが大半です。これらの家は断熱性能が非常に低いのが現状です。私自身もこの業界に長年携わってきた立場として、過去の家づくりに反省の念を持っています。断熱性能が低いと、冬には室温が低く、血圧が上がりやすくなります。また、夏の暑さでは高齢者がエアコンを使わず、熱中症になり体調を崩したり、最悪の場合、命を落とすケースも少なくありません。これほど長い人生を頑張って生きてこられた方が、最後に熱中症で命を落とすようなことがあるのは、本当に残念で仕方ありません。
さらに、低体温は体に悪影響を及ぼし、三大疾病のひとつであるがんにも関係していると言われています。最近では、体を冷やすことががん発症のリスクを高める可能性があるというエビデンスも増えています。特に、昔ながらの寒いタイル張りの浴室を使用している方がまだ多くいらっしゃいます。冬場の冷たいお風呂は健康にとって大敵です。そうした浴室をお使いの方には、ぜひ早めにユニットバスへリフォームすることをおすすめします。断熱性の高いユニットバスにするだけで、入浴時の寒さが軽減され、健康リスクを大幅に減らすことができます。
次に、「窓や床の断熱を強化すること」についてお話しします。家の断熱性能を高めるために、例えば二重窓にするといった対策があります。ただし、予算の問題で大掛かりな工事が難しい場合でも、プラダンのような簡単なDIYで窓の断熱を強化するだけでも効果はあります。寒い窓辺を改善することは、健康寿命の延伸にもつながります。また、足元が寒い状態では健康的に暮らすことが難しくなる可能性があります。最近のエビデンスでも、床からの冷えが健康に悪影響を及ぼすことが分かってきました。そのため、床の隙間風を防ぎ、断熱リフォームを行うことも大切です。特に隙間風は「気流止め」を行うことで大きく改善します。こうした対策をぜひ進めていただきたいです。
これらのリフォームや改善は、可能であれば60代ではなく、50代から取り組むのが理想的です。最近、60代以上の方から住まいの相談を受けることが増えていますが、ほとんどの方が「踏ん切りがつかない」とおっしゃいます。歳を重ねると「この先お金を使っていいのか」と不安に感じたり、体力や気力が低下して決断が難しくなったりするからです。60代はまだギリギリ「頑張ろう」と思える年代かもしれませんが、それでも個人差があります。
さらに、段差をなくしたり、手すりを付けたりといったバリアフリー対策も重要です。玄関に手すりを1本つけるだけでも、転倒防止や怪我のリスクを減らし、快適な生活に役立ちます。年齢を重ねると、転倒や怪我をきっかけに体調を崩し、長期的な不調につながるケースが少なくありません。これらの対策は早めに取り組むことをおすすめします。
次に、先ほど少し触れましたが、最近、私事ながら長女がお嫁に行きました。私は2人の娘の父親なのですが、お婿さんという新しい家族ができて、「息子のいる親はこんな感じなんだな」と新鮮に感じています。これまでは「娘の方が可愛い」と思う一方で、息子を持つ親をうらやましく思うこともありました。しかし、娘のお婿さんはとても優しい方で、今では本当に嬉しく、ありがたく思っています。 こうした新しい家族との関係を考えると、娘やお婿さんが気軽に訪れてくれる家を作ることが重要だと感じます。将来的には、孫が遊びに来てくれるような家になることを願っています。もちろん直接的には言いませんが、家族や友人が「また来たい」と思えるような、心地よい住まい作りを目指していきたいと思っています。
ここに書いてある話ですが、よくあるのが「娘が嫁に行ったけれど、全然実家に帰ってきてくれない」といった声です。帰ってきても、すぐに帰ってしまう。せめて1~2泊ぐらいしてくれてもいいんじゃないかと思いますが、それでも帰ってしまうそうです。理由を尋ねると、娘さんたちはこう言うそうです。「泊まるのはいいんだけど、泊まると子どもたちが風邪をひいてしまう」「お父さんの家は寒いじゃない。子どもたちもおじいちゃんのお風呂に入るのが嫌だって言うのよ」と。また、お婿さんが一緒に帰りたい気持ちはあっても、「俺が行ったら嵩高いからお父さんたちが気を使うだろう」と遠慮してしまい、「お前たちだけで行ってきて」となるそうです。たまにはお婿さんと一緒にお酒でも交えながら会話をしたいと思う私たちのささやかな野望もありますが、お婿さんにとって居場所がない家だと感じてしまうのは残念です。「広い家だけれど、旦那さんがくつろげるスペースがない」と感じてしまうのは問題だと思います。可愛いお孫さんから「じいじのお家は寒いから嫌だ」と言われてしまったら、私たちはしゅんとしますよね。こういった話を聞くたびに、「家族や友人が気軽に集まれる家」が幸せのために必要だと感じます。
また、この年になって思うのは、友達との交流の楽しさです。例えばママ友の会や、シニアの女子会など、楽しげな集まりがありますよね。美味しいお菓子をつまみながら、お茶を飲むだけでも楽しい時間です。時にはお酒を飲みながらの集まりもあるでしょう。そういう場には、大きなダイニングテーブルやみんなが座れる椅子などがあると良いと思います。これらは家そのものというより家具の問題かもしれませんが、快適なスペースを確保するのが大事だと感じます。私自身も、男友達とそういう集まりをして楽しんでいました。そういう時間が本当に楽しかったです。最近は遠ざかっていましたが、そろそろ復活したいなとも思っています。そのためにも、たとえば玄関先に「土足で入れるスペース」があると便利です。友人たちが家に上がるのに気を使わなくて済みますし、奥さんも気を使わずに済みます。うちのモデルハウスには土間のようなスペースがありますが、こういった場所で友人とわいわい話すのも楽しいですよね。たとえば、大谷選手の活躍を大画面で見ながら盛り上がるといった楽しみ方もできます。こうしたスペースは「自分の居場所」を作ることにもつながります。自分の時間を楽しみつつ、家族とも良い関係を築けるのは素晴らしいことです。
また、家事のストレスを減らす家も重要です。洗濯が楽にできる動線や、乾燥機を置いて梅雨時でもストレスなく過ごせる工夫は、奥さんに喜ばれます。暑さや寒さを感じることなく料理や掃除ができる環境も必要です。これが健康寿命にもつながっていきます。さらに、介護を考えた家づくりも重要です。たとえば、トイレのドアを2方向から開けられるようにするなど、いざという時に対応しやすいリフォームを考えることも大切です。年齢を重ねると、家の使い勝手が生活の快適さに直結します。掃除機を使うたびに遠くまで取りに行くストレスなど、小さなことが積み重なります。こういった日常の負担を減らす工夫が、より良い暮らしを生むのだと思います。 また、夫婦の生活リズムが変わってもお互いに気を使わず過ごせる工夫も必要です。それぞれの趣味や時間を尊重しつつ、心配りもできる家が理想です。
こうした「健康寿命を延ばす家」「家族や友人が集まれる家」「ストレスを少なくする家」という3つの視点で住まいを見直すことが重要だと私は思います。これがリノベーションやリフォームの基本だと考えています。70代や80代になってからでもできますが、実際には体力や気力が必要な作業も多いため、60代がギリギリ間に合う時期だと思います。ぜひ勇気を持って取り組んでほしいと思います。私も今60代になり、60代だからこそ見えてくるものを皆さんにお伝えしたいと思っています。若い方にも、未来はすぐにやってきます。これからの家づくりや新築の参考にしていただけたら嬉しいです。ぜひ参考にしてください。