寒くない吹き抜けをつくるポイント
今回は、寒くない吹き抜けをつくるポイントについてお話をしたいと思います。
寒い時期になると、私共のモデルハウスやお客様のお家をお借りした見学会にいらっしゃる方から、こういう質問を受けます。「うちの家も吹き抜けがあるけどすごく寒い」「この家の吹き抜けは全然寒くないし、逆に暖かいのは一体なんで?」と。多くの方がよく思われるようなので、今日はそのことを具体的に解説していきたいと思います。
寒い吹き抜けと暖かい吹き抜けの典型的なパターンは、以前も動画で解説しました。
▼寒い吹き抜けと暖かい吹き抜けの違い
https://www.m-athome.co.jp/movie/fukinuke_chigai
典型的に多いのは、吹き抜けの場所が原因になっていることです。この前行った友人のお家は、すごくお金が掛かっている鉄筋コンクリート造の立派なお家で、玄関が吹き抜けになっていました。カッコいいですよね。昔よくやったような、豪華できっと高いんだろうなと思うようなシャンデリアが下がっている、ダイナミックな玄関でした。これはものすごく寒いことが多いです。
その理由の1つは、玄関で吹き抜けをやるお家で意外に多いのが、北入り玄関で日が入らないことです。玄関なので玄関扉はあるけど、窓があまり切られていない。あっても北側の窓だから、太陽の光も入らない。もちろん玄関先なので暖房もしていない。だから寒いわけです。
一方で、南側の居室の中に設けられた吹き抜けは暖かくなります。建て込んでいない所が一番いいですが、建て込んでいる所であっても、吹き抜けの上に窓があってそこから十分に光が入る場合は、暖かい吹き抜けになることが多いです。
しかし、この前いらっしゃったお客様は「うちも南に吹き抜けをしているけど寒い」とおっしゃっていました。その理由はハッキリしています。建物の断熱性能が低いからです。吹き抜けには窓を持ってこられると思うのですが、その窓の性能が低いのです。昔の窓はあまり気密も良くないですし、アルミのシングルガラスなので冷輻射をまともに受けてしまいます。
また、吹き抜けの上には2階の屋根(あるいは天井)があるじゃないですか。屋根から熱をダイレクトに奪われるのです。だから当然寒いし、もっと言うと気密も良くない。もし南側にあるのに吹き抜けが寒い場合は、断熱性能・気密が悪すぎることが一番の大きな理由だと思います。裏返すと、そこら辺を押さえると吹き抜けは怖くありません。
吹き抜けの最大のメリットは、都市部にあると思います。草原の1軒家みたいな田舎の広い所に建っているお家は、別に吹き抜けがなくても1階の掃き出し窓から十分に光が入ります。しかし都市部は、南に隣家があると陰ができてしまうため、1階に大きな窓があっても意外に日が入ってこないのです。
冬場の太陽は太陽高度が低いですよね。30°ぐらいで斜めに奥に入っていくから、吹き出しの窓から入った光で意外と1階の奥まで明るくなります。隣家とピッタリしていたら厳しくなりますが、一定空いてるのであれば可能です。できたら7〜8m空いているとよりいいけど、5mぐらいでも太陽の光をしっかり取れるため、非常に合理的だと思います。
何と言っても、太陽の光は冬にすごく効くのです。どういうことかと言うと、冬の寒い日はおしなべて晴天じゃないですか。案外、雨の日・どんよりした曇りの日は、外気温があまり下がりません。雨の日に10℃近くなるケースが多いですよね。一方で晴天の日は、0℃とか-1℃になることが多いと思います。
それはなぜかと言うと、放射冷却という気象現象が起こるからです。地球は宇宙の中に浮かんでいます。宇宙は-273℃の絶対零度で構成されている空間なので、太陽のエネルギーや地熱で暖まったものを宇宙空間に奪おうとするのです。
雲は地球にとって、一種の断熱材みたいなところがあります。雲があると熱が上に逃げにくいから、比較的温度は下がらないという仕組みです。晴天の日は何も遮るものがないから、まともに宇宙に熱が逃げていくため、寒くなります。
冬は晴れると寒いけど、雲がないから日がよく入る。つまり、太陽に素直な家にすると、暖房の補助になるエネルギーがタダで取れるのです。高さ2mで幅1.6mぐらいの窓なら、それだけで600Wぐらいの熱が取れると言われています。それを4〜5ヵ所作ると、2000W・3000Wみたいな熱量を取れるから、ちょっとした暖房器具ぐらいになりますよね。
太陽のエネルギーはタダですから、落ちてるお金みたいなものなので拾うことができるし、快適に省エネで暮らせます。そういうことから言うと、吹き抜けがあって太陽光をうまく利用できると、逆に暖かい家を作りやすいのです。
それに併せて、寒い日は放射冷却が起こるので、屋根・天井の断熱を十分にしてください。私は断熱等級5以上の家がいいと思いますが、できれば6を推奨します。断熱等級5のお家でも、屋根の厚さを20cm以上にしておくとより安心です。単に外皮計算と言うと、トータルでの評価はいいけど冬の寒さに関しては抵抗力が弱い、ということもあります。断熱の配分の仕方もあるので、屋根の厚さにも注意してもらえたらと思います。
吹き抜けを作る時、冬場だけじゃなくて夏も過ごしやすくないと嫌じゃないですか。夏場に関しては、太陽光の入射角が60°ぐらいになるため、庇があれば2階から入る日はある程度カットできます。これは窓が真南を向いている場合です。少し方位が振れていると、斜めに入ってくるため角度が緩くなります。
その時に欲しいのが、簾やサンシェードなどの日除けです。ロールカーテン状で引っ張り下ろすような物になっています。総2階だと1階は強い日がまともに入ってくるため、絶対にあった方がいいです。
その時、キャットウォークを吹き抜けの窓側に作ることをオススメします。猫が通れるぐらいの45cmぐらいの床を通称でキャットウォークと言いますが、これの何がいいかと言うと、簾やサンシェードの上げ・下ろしが簡単になることです。
また、吹き抜けのガラスは、冬場に結構汚れます。せっかくガラス面があるのに、土埃が付いて汚れていたら太陽の光を阻害するので、保守のためにキャットウォークがあるといいです。高い所の窓は手入れしにくいので。断熱等級5以上・C値が1以下ということと、これを併せて考えてもらうと、運用はすごくラクです。トータルで快適に暮らすことに近づいていきますので、そういうところも頭に置いていただければと思います。
吹き抜けが寒いという人に、よくよく聞いたら暖房していないと言うのです。パッシブハウスみたいな家は別かもしれませんが、無暖房で暖かい家にしようと思うと断熱スペックを上げなけらばならないため、コストも掛かります。
北海道・東北・長野とかに行くと違うかもしれませんが、関西・西日本の比較的温暖な所は、暖房を効果的に使うことによって暮らしやすくできます。1部屋ずつ暖房するより、できれば全館で融通するといいのではないでしょうか。
暖房をせずに家が寒いと言う人になぜ暖房をしないのかと聞くと、「暖房しても効かないから」と言うのですが、断熱・気密をしっかりやれば暖房はしっかり効きます。ストレスのない住空間を作ることも併せて、トータルで寒くない吹き抜けを実現していただくと、非常にバランスが取れると思います。そういうことも頭に置いて取り組んでみてください。
繰り返しますが、都市部ではうまく吹き抜けを作れると快適になると思います。冬場の寒い日の日射取得は本当に侮れないというか、ものすごく気持ちいいです。そんな形の建物にしていただけたら冬の暮らしの満足度が上がると思いますので、参考にしてみてください。