【理想の終の棲家とは】親の家問題を考える
今日のテーマは親の家についてです。
今は人生100年時代と言われていて、人間の人生がとても長くなったが故に、親の家をどうするかということが誰にとっても身近な問題になってきています。
少し重いテーマだと思いますが、これからの家づくりに必要な視点でもありますので解説をしていきたいと思います。
僕のスケッチを見てください。
親の家問題には、いろんな切り口があって、歳を取った両親が補助を受けながら暮らすという選択もあります。
施設に入るという選択もあるけれど、慣れ親しんだ家で暮らしたいという気持ちが強い親御さんもいらっしゃいますよね。そうした人には介護リフォームというものがあることを知ってほしいと思います。
今回は概要だけの話になってしまいますが、介護リフォームで一番大事なことをお伝えすると、介護される人(被介護者)だけでなく、介護をする人(介助者)の視点も盛り込んだものにしないと上手くいかないです。
子どもが親の介護する場合も、プロのヘルパーさんを雇う場合も、そういう視点がないと「せっかくお金を掛けたのにいいリフォームにならなかった」ということになってしまいます。
また介護というのはとても個別性が強いです。ご家族の状況というのは、どの家も同じではないですよね。例えば車椅子に乗る人がいると言っても、自分で自走できる人もいれば押してもらわないといけない人もいます。なので“車椅子が通るためのバリアフリーリフォーム”にもすごく幅があるんです。
「うちの家の状況ってどんなだろう?」というのを整理して、介護リフォームでどう合わせていくかということが重要なポイントになります。
また、介護というのは、その都度状況が変わっていくものです。将来のことも見据えながら、「今回の介護のリフォームはどのステップに当たるのかな?」という視点がないと上手くいかないと言われています。
玄関をバリアフリーにする・トイレをバリアフリーにする・階段をバリアフリーにする・浴室をバリアフリーにする・建具を引き戸にする・もしくは折れ戸にする・段差を解消する・スイッチを車椅子の届く高さにするなど、いろいろなバリアフリーがありますよね。
個別の介護リフォームの案件もたくさんお手伝いしてきた今、僕が考える究極の介護リフォームはLDK(リビング・ダイニング・キッチン)を中心にして、その周りに介護される人の寝室やお手洗い、洗面所、脱衣場、お風呂がある間取りにすることです。これは介護を担当される方にとっても大切なことになります。
というのも、例えばリビングからトイレがすごく遠かったら、行き来だけでもすごく大変です。さらに年を重ねると、トイレを済ませて半分裸みたいな状態で、次は入浴をサポートするというような状況も出てきます。「恥ずかしい」とかそういったことを言っていられない状況になるのも介護というものです。なのでLDKの周りに必要なものをギュッと集めるほうが介護はしやすくなります。
僕にとってのおじいちゃん・おばあちゃんの場合を振り返ると、最後は少し痴呆が出たり、ものすごく体力的に落ちていました。当時の状況を考えると、家の間取りもきちんと配慮しておかないと、お世話してくれる人がものすごく大変になってしまうということを実感しましたので、みなさんにも知っておいていただきたいです。
究極の介護リフォームができるのであれば、ぜひ実施してください。仮に難しいのであれば、どういう優先順位を立てていくかが重要になってきます。
これは親の家で親の介護する上でのポイントでもありますが、自分たちではカバーしきれないこともあると思います。もしそうなった場合には、親には悪いけど、施設に入ってもらうというのを決めていて、その話をされているのが理想です。
でも多くの場合は、そう簡単にできないと思います。「そんな湿っぽい話はできない」とか、双方に遠慮があったりとか、「それを言うとお父さんが怒り出す」逆に「息子が不機嫌になる」ということが起こると思います。
でも、どんな風に最晩年の親御さんと付き合うかというのは、ある面で親御さんたちに覚悟を決めていってもらうか、それとも…という話し合いが必要です。これが親の家をどうするかとか介護を考える上で、一番核心の部分に当たると僕は考えています。
僕は還暦になったので、もしかしたら、もうすぐ介護される側になる可能性もあります。そうすると余計に家のこと、介護のことを考えて自分の人生を生きる必要があります。
今、僕たちの周りで新築を立てている若い人たちは、子育てが中心の生活です。自分の老後については、かすかに頭の中で浮かんでいるくらいで、親の老後については「え?」という感じで、まだ想像ついていない方が多いです。
でもですね、実は新築を建てようとしてる時期こそ、親の老後についても考えながら進めたほうが後々スムーズかなという思いがあります。
今はインフレで家づくりの価格が爆上がりしています。
子育てをして、一定の歳まで住むという視点で家を考えると、家づくりというのはコストが掛かりすぎるんじゃないかなと個人的には思ってるんです。
これまでも言ってきたことではありますが、だからこそ長く住むという視点が、今後はもっと大事になってくるはずです。自分たちの代で終わりではなく、2世代、3世代間であったり、もしかすると家族でない人が関わってくる可能性もあります。家づくりのあり方というのを、そういったところまで考えていかないといけない世界観になってきた気がしています。
今回の動画は、楽しい話題ではないですよね。「何をそんな先のことを言ってるんだ」と思う方もいらっしゃるはずです。でも、お節介おじさんの話として、少しでも頭に置いていただいて、家づくりに取り組んでいただけたらと思います。
その上で親の家を考える際に最大のポイントとなるのは、物との格闘です。
以前、別の動画でちきりんさんの本を紹介した際にも言いましたが、親の家には親が抱えてきた物が、ものすごい量あります。それをどんな風に片付けていくのか、ということが重要なテーマになるので、家族であらかじめの話し合いをしておくことがとても大切なんです。なので、あらかじめの話し合いができていることが理想だと思います。
▼新築か?中古+リノベか?で迷ってる方へ
「そんなことを言われても…」と思うかもしれません。でも新築も親の家も自分の老後を考えるときも、根本にあるのは「幸福な老後って何かな?」ということだと僕は思っています。
その答えは、ずいぶん前に「巨匠がつくった究極の平屋を解説します」という動画でお伝えしました。
▼巨匠がつくった究極の平屋を解説します
建築界の巨匠ル・コルビュジェが自分の母のために建てた「小さな家」というのがあります。世界遺産にもなっている建物です。
コルビュジェのお母さんというのは101歳まで生きた方です。当時で言えばものすごい長命な方ですよね。101歳まで生きたこともすごいですが、何よりすごいのは亡くなられる直前まで、お1人で家事をして、自分の世話は自分でしていたということなんです。介護ではなかったんですね。自分の人生は全部自分でしっかり全うして亡くなられたということなんです。
その一番の根幹が「小さな家」の間取りにあります。
家の中心にリビング・ダイニングがあって、すぐ側にベッドルームやお風呂、キッチンがあって、クロークがあって、いわゆるリネンと呼ばれるような洗濯したりする部屋がグッと凝縮されています。小さなスペースに必要な要素が過不足なくあるんですね。
お母さんが歳を取って体が弱っても、自分の面倒は自分で見れるという暮らし・環境が、この建物によって作られたということがすごいなと思います。
僕が好きな本で「西の魔女が死んだ」という本があります。これもおばあちゃまがお1人で暮らされて孫娘を見守っていく、そして自分の人生を全うされるという本です。
また僕がとても敬愛する建築家で津端修一さんという方がいらっしゃいます。
奥様の津端英子さんはご存命で89歳です。とても有名なおしどり夫婦でしたが、ご主人に先立たれて今はお1人で暮らされています。この方も自分の面倒は全部自分で見ながら生活をされています。素敵な娘さんもいらっしゃるんですが、そうした暮らしをされているんですね。
人にはお金を稼ぐとか裕福とか、いろんな幸せがあると思います。僕は自分の面倒を死ぬ直前まで自分自身で見ることができて、極端なことを言ったら自分が死んだことさえ気付かないような最期を迎えることができたら、こんな幸せな人生はないんじゃないかなと思うんですね。
僕の友人からこんな話を聞きました。お母様がご自宅で亡くなられたそうなのですが、リビングのテーブルに、おそらく朝書かれたメモが置かれてあったそうです。そのメモには「今日はこんな物を買い物に行く」というのが書かれていたんですね。
メモを書かれて、そのまま眠るように亡くなられたそうなんですけど、その親御さんは、どこで何を買おうと思ってたぐらいですから、自分が亡くなる直前まで、死ぬことなんか思いもしてない人生だったと思うんです。この話を聞いて「こんな幸せな人生はないんちゃうかな」と感じました。
今日もいろんなことを言いましたが、究極の家づくりというのは、幸せな老後が送れる機能を持った家づくりじゃないかなと思います。
介護リフォームでそういう姿を実現できる幸せな人もいらっしゃいますが、これから家を建てる人であれば、自分の人生を自分で始末していくということを考えながら「じゃあ自分の面倒を自分で見る家って何だろう?」という視点を持っていただけたらいいなと思います。
かっこいい家にするとか、そういったことを考える以上に、豊かな家づくりになるはずです。
60歳になったお節介オヤジのいらない一言かもしれませんが、みなさまの家づくりがもっといいものになると良いなと思いまして、今日はお話をさせていただきました。