佐藤先生からの提言:古い木造住宅はなぜ弱い?傾向と対策
今回、古い木造住宅が地震に弱い理由とその対策について解説します。
今回も、2024年元日を襲った能登地方の大地震について、佐藤先生からの緊急提言をもとに地震対策の話をしていきたいと思います。
今回の地震でもクローズアップされましたが、古い木造住宅が結構な被害を受けていて、ぺしゃんこになったり、傾いたり、人が挟まれて亡くなったという報道が多数ありました。
今日は、なぜ古い木造住宅は弱いのかと、弱い・古い木造住宅の傾向、それに対する対策について解説していきたいと思います。
阪神・淡路大震災の時もそうでしたが、木造住宅は怖いとか、瓦屋根の家は屋根が重たいから地震に弱いという話は、口々に流布されていきます。しかし、その言葉はあまり正しくなくて、誤解を呼んでいることもあります。まずは、正しくはどういう風に思うべきかということから説明していきます。
まず「瓦屋根は重たいから地震に弱い」のではなくて、正しくは「耐震性能が低い・古い建物には、瓦屋根が多かった」ということです。これは事実です。瓦屋根は重たいですが、その重さに応じたお家の耐震性能がなかった、ということです。これをちゃんと踏まえておかないと、無用に人の恐怖心を煽ってしまうことになります。
佐藤先生がこれを上手に例えられていて、人間で例えたらわかりやすいと言われています。
例えば、体重50㎏ぐらいのスラっとした人と、体重100kgの僕みたいな丸っこい人間を比べます。同じように2人並んで地震を受けたら、50kgに対して100kgの人は、受ける地震力が倍になると言われています。
しかし、地震の時に50kgの人が何も被害がなくて、僕が100kgだからこけるかと言ったら、一概にはそうは言えません。ポイントは足の太さ・筋肉です。
体重・重さによって受ける地震力が違うこと、これは間違いないです。しかし、地震に耐えるのに必要な太さは体重によって違います。逆のことを言えば、体重に応じた十分な足の太さがあれば地震にあっても倒れることはないということです。50kgの人も100kgの人も、足の太さ次第で倒れやすさは一緒ということが言えます。これを頭に置いてください。
古い建物は瓦屋根が多いですよね。また、土壁の場合には壁自体にも小舞が編んであって、土・塗り壁・漆喰がつけてあるから、今のサイディング・大壁に比べたら重さがあります。
それから、瓦屋根でも今の瓦屋根と違って、昔は土葺きという屋根でした。瓦と野地板の間に土をいっぱい挟んでいるので、余計に重さがでます。先ほどの人間の例えでいうと、瓦屋根の家は体重が重いということです。
また、1981年に新耐震基準ができましたが、古い家はそれ以前に建ったお家が多いので、耐震基準が古い・弱いです。人間の例で言うと、足が細いということです。
瓦屋根が地震に弱い・古い木造住宅が弱いのではなく、厳密に言うと「その家の重さに耐えられる、十分な足の太さ・耐震性能がなかったことが弱さ」なのです。変な誤解・過度な解釈がないようにしていただきたいです。
もう1つ、今回の能登半島の地震では顕著な特徴があったと言われています。それは何かというと、今回震度7というすごく強い地震が来たわけですが、この第1波で結構な数のお家が倒壊したということです。
近年のひどい地震では、2016年の熊本の地震がありました。震度7が来ましたが、この時にはそれが2回ありました。ドーンと1回来て数日後にもう1回、第2波がありました。そして、第1波ではなんとか耐えられたけど、第2波で倒壊した家が多かったと言われています。
それに対して今回の能登半島では、第1波でいきなり倒壊してしまいました。この理由の1つに、1981年の新耐震基準があります。施工令46条に定められている壁量計算をする以前の建物がとても多かったということが言えます。
もう1つの理由が過去の地震です。今回被害が大きかった能登の珠洲市では、去年の5月にも震度6強の地震があり、それ以降も震度6度ぐらいの地震が何回かありました。さらに、能登半島は2007年にも震度6強の大きな地震にあっています。
つまり、見た目は何ともない地震に耐えてくれた建物でも、実は目に見えないところで大きなダメージを受けていて、それが故に今回の地震の第1波で倒れてしまったのではないかと、佐藤先生は考察されています。
これはなぜ申し上げたかというと、みなさんのお家やご親族・親御さんの住んでいるお家のエリア、子どもたちが遠く離れて暮らしている、おじいちゃん・おばあちゃんが田舎に住んでいるエリアで、直近10年程度の間にその地域が大きい地震を何度か受けていたら、かなりの注意をしてほしいからです。そうでないと本当に、一撃の地震が来ただけで、即命を失うことになりかねません。
今回の教訓の1つとして考えてほしいので、今日は今建っているお家の見極め方と、その対策を伝えていきます。
既築の家の見極め方について、まずは年代で判断する方法があります。1981年より前に建った家なのか、1981年~2000年の間なのか、あるいは2000年以降に建ったものなのか。これによって対策の緊急度が変わってきます。
2000年の法改正では四分割法・N値計算などの基準が設けられ、より厳しくなっています。ですから2000年以降になると耐震等級1はあると確立されているので、命を失う確率はかなり低いです。その反面、1981年以降は要注意ですし、1981年~2000年の間の家も点検が要るという事です。
能登の地震の悲惨な状況は、写真や動画で見せていただきましたが、私が想像するには田の字の家が多かったのではないかと思います。真ん中に大黒柱があり、大黒柱を挟む十文字には壁がないようなお家とか、縁側が広くて窓が大きく開いているとか、広縁があるといったお家です。
それから、輪島の市場でも大きな被害がありましたが、市場は商店街にお店が並んでいるから、どうしてもガラスなどが建て込んでしまいます。家の間口がそのまま全部戸になっているようなお家も多いです。ああいうところは壁が不足していますので、かなり危険の可能性が高いと言えます。
そうは言っても、これは割と感覚的なところが多いです。今回私が一番おすすめするのは、微動探査を受ける事です。微動探査は、人間が感じないような小さな揺れを計測して、地震が起きた時にこの家はどれぐらい揺れるか、家が建っている地盤がどれくらい揺れて、共振して被害を増長するか、液状化するかなど、そういうことも推測できると言われています。
佐藤先生が上手な例えをされていますが、地盤が羊羹のように密実にズシッとしたものなのか、プリンのように柔らかくふにゃふにゃと動くものなのか。また家の耐震性能によっても違います。これを人間の感覚ではなく、実際の機械的な計測でジャッジをすること、危険度を測ってみることは、非常に重要です。
例えば年長者の方に「この家危ないよ!」「この家は田の字だから危険」と言っても「うん…」という感じで終わってしまうこともあります。
しかし、例えばお医者さんに行ってレントゲン・CTを見せられて「ここに腫瘍がある」「骨が折れている」などと言われると、やっと「えらいこっちゃ」と思えますよね。
微動探査の結果は客観的に見ることができるので、みんなで何とかしようと説得するためにもすごくいいと思います。だいたい費用は10~20万円ぐらいです。自分の家・近しい方のお家で「危険なのでは?」と思うお家があったら、ぜひこれをやって見極めていただけたらと思います。
その上で、今度は対策について解説します。
耐震性能を高める対策のうち、一番すぐに強く作れるのは、耐力壁を増やすことです。その建物に必要な壁量をチェックするところから、まずは始めてください。
必要な壁量は公式で求めることができ、その建物の床面積×床面積を乗ずる数値で決まります。この式で必要な壁の面積がわかります。
簡単な早見表があるので紹介します。例えば軽い屋根の時は、平屋だったら乗数は11、2階建てなら1階は29、2階は15です。重い屋根なら、平屋で15、2階建てなら1階は33、2階は21です。屋根の重い・軽いで乗ずる数が変わります。これである程度の状況がわかりますし、どれぐらい壁を増やせばいいのかも見えてくると思います。
ここで、壁量を確認して安心してはいけません。壁量がいくらあってもバランスが悪かったら倒壊リスクが高まります。四分割法でのバランスチェックや、N値計算で柱頭・柱脚の固定がしっかりされているかどうかも確認してください。これは計算というより、1回めくって眺めてみる方がいいと思います。
このように実際に計算や確認・点検を進めて「これはアカン」「壁が全然足らない」となった場合に、「そうは言っても壁を作ったら住めないから困った」などというジレンマが発生する時があります。
そういう時は、まずは屋根を軽い素材に変えるのが1つの有効な手です。危険なお家は瓦の家が多いと思うので、素材を軽くするのがおすすめです。ただ、鉄板葺き・瓦棒葺きの家の場合は、また違う対策を考えないといけません。
また、柱頭・柱脚の金物補強も効果的です。例えば、昔の筋交いは釘1本で止まっているようなこともあります。そのような場合、強い地震力がかかると筋交いがポコンと外れてしまう時もあります。
最近は後付けできる筋交いの固定金物もありますし、柱の頭と梁、土台と柱を繋ぐ補強金物もあります。これをつけるだけで、壁は増えなくても接合がしっかりするので、力が強くなります。
それから、耐震を補完する開口・門型フレームもあります。鉄筋コンクリートの家で、1階がピロティーと言って柱だけで駐車場みたいになっているビルがありますよね。ああいう場合の耐震補強で、中がバッテンになっている四角いフレームを見たことはないでしょうか。あんな感じで木造の開口部を補強する方法もあります。
例えば、うちは店舗だから壁を作ったら商売にならない、という場合や、駐車場になっていて止めるところがないという時にはこういうものを使う方法がおすすめです。
そして最終的には、基礎もよく点検してください。上がしっかりしていても、基礎が延石・束石しかないような古いお家もあります。部分的な基礎補強をするだけで強度が高まるお家も結構あるので、こういうところを見てください。
ただ、私が今言ったような話は、素人の方ができることではありません。微動探査から始まって、調査とか壁量計算とか、どういう計画・方法で金物補強をするかということは、必ずプロの方に相談してください。素人考えで「これで大丈夫」とするのはやめてください。
このような対策には、もちろんお金も時間も掛かります。しかし本当に、地震はいつ来るかわかりません。まさか元日のあんな時間に来るなんて思いませんよね。
久しぶりに子ども・孫が帰ってきて、おじいちゃん・おばあちゃんがいて楽しんでいる時。元日の夕ご飯は何にしようか?なんて言っている時に、まさか地震が来るなんて。
まずはみなさん、そんなまさかのために、絶対にまず命を守れる家にしておきましょう。その上で、命だけ助かったらいいのではなく、ずっと安心して暮らせる強さの家にしていくことが重要です。80歳・85歳以上生きる時代になって、人生長いですから。
古い木造住宅だからダメ、ということはないですが、それを状況も確認せずに無対策・無防備であることは、罪だと思います。
この前も申し上げましたが、元日の翌日の朝の報道で、家は倒壊したけど助かったという親御さんが、実は子どもが帰ってきていて、その子ども2人が下敷きになったというニュースがありました。あんな目に遭うのはたまらないです。
古い木造住宅だけでなく、既築の家でも油断はできません。絶対に、ぜひチェックしていただいて、自分の命・家族の命を守っていただけたらと思います。
ぜひ参考にしてください。