木材の表面加工を愉悦する
今回は木材の表面の加工についてお話をします。これがなかなか快感というか、気持ちいいものなので、表面加工について解説していきたいと思います。
普通は木材が綺麗に製材されて「ツテッ」となったら、超仕上げといってカンナのようなものでピカッとした感じの、ツルツルした表面が良いと思う方も多いと思います。でも一方で、木目の持っている柔らかさみたいなものをもっと際立たせる処理の仕方も、古来から日本にはあります。
それを最近は、若い方がよく勉強・調べたりして知っていらっしゃったり、年配の方が「これ懐かしいな」と言われることが現場でも結構あるので、改めて代表的なものを知っていただけたらと思います。家づくりの間取りや仕様を決めていく時にもすごく楽しいし、出来上がりの満足度が上がる部分なので、今日はそれを解説したいと思います。
代表的なものは3つ。「浮造り加工」「なぐり加工」「リブ加工」です。
浮造りは、個人的に思い出もある加工でして、高校生の終わりから大学生の初めごろ、母方の祖父が人生最後の家づくりをしていた時のことです。祖父は木にうるさい人で、いろいろとこだわりがありました。その家づくりに僕も手伝いに行ったんですが、ある日「これを磨け」と渡されたのが杉の板でした。それは「野地板」と呼ばれるもので、当時は今と違って仕上げとして見える部位だったんですね。そこを綺麗にするために、祖父が渡してきたのが「刈萱」のブラシ。年輪に沿ってゴシゴシと擦る作業です。
木は夏芽と冬芽という異なる堅さの層からできていて、夏芽が柔らかくて冬芽が硬い。そのためブラシで擦ると夏芽の部分だけ削れて、微妙な年輪の凹凸ができるんです。それが「浮造り」。ただの板が凹凸のある味わい深い仕上げになります。後日仕上がった化粧野地板を見上げたときに、祖父がやりたかったのはこれだったんだなと、若かった僕でも感じた思い出があります。
ちなみに床に使うこともあって、足触りがなんとも言えず気持ちいいんです。祖父は「刈萱」ではなく、竹のヒゲ根を干して使っていました。コシがあって使いやすかったみたいです。浮造り加工は、そんな素足で踏んだときの快感が魅力です。
さらに、杉の根っこの方にはウネっとした硬い年輪があるのですが、それをスライスして浮造りにした板を格天井に組むと、これがまた味わい深くてカッコいい。昔の人はその価値を知っていましたけど、今の人はなかなかそこに目が行かないかもしれません。とはいえ、床板にすれば足触りでその良さを体感できます。
続いて「なぐり加工」。写真で見ていただくとわかりやすいですが、ちょんな(ちょうな)という道具で木材の表面を削っていく加工です。これは僕の妻の祖父が使っていた道具が残っていて、解体時に出てきた錆びたちょんなを僕が荒研ぎして再生させたものなんですが、なぐり加工はこのちょんなをトントンと当てていくことで、表面に独特の凹凸を作っていくものです。
「山なぐり」と呼ばれるのは丸太を加工する時、「化粧なぐり」は角材などの仕上げに使う時。それぞれ仕上がりが異なります。また、現代では機械加工で「ちょんなはつり風」のフローリングが多く出ています。ナラ材などの硬い素材でも、機械で六角形のような凹凸をつけたり、「スプーンカット」と呼ばれるランダムな凹凸、「ナイフカット」、「ハンドスクレープ」といった加工方法もあります。
うちの施工でも、なぐり加工の框(かまち)や玄関手すりなどに使っていて、見た目がカッコいいだけでなく、触り心地も良くて「毎日触りたくなる」質感です。リビング全体ではなくても、テーブルの下やよく人が集まる場所に使うだけでも、十分にその価値を感じていただけると思います。ちょっと値段は張りますが、一生物の床になるはずです。
最後に「リブ加工」。よくウッドデッキなどで見られる表面の細かな凸凹です。リブ状になっていることで、真夏でも接地面が少なくなる分、焼ける感じが緩和されるという効果があります。犬がすぐそこに寝そべって気持ちよさそうにしていたり、人間にも心地よい感触です。ハメ板として腰壁に使ったり、天井のアクセントに使うのも素敵だと思います。
このように、浮造り・なぐり・リブといった表面加工は、それぞれに特徴があって、触れたときの気持ちよさや見た目の美しさ、空間の印象に与える影響も大きいです。選ぶ・選ばないは好みによりますが、こうした加工があるということを知っていただければ、家づくりがもっと楽しく、満足度も高くなると思います。ぜひ参考にしてみてください。