上棟式って何?した方がいいの?
今日は上棟式についてお話をしたいと思います。
「上棟式はやった方がいいですか?」というご質問がお施主さんからありました。建物は基礎工事が終わると、いよいよ骨組みを立ち上げていきますが、そのことを「上棟」と言います。言葉としては知られていても、由来を知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか。その辺も併せて、僕なりの答えとか考えを説明していきます。
30坪・40坪のお家は結構なボリュームですから、基礎の上に柱を建てて梁を這わせて骨組みを作るのは、なかなか大変な仕事と一般的には思われています。しかし、実は一番大変なのが、木材に墨付けをして刻んでいく下ごしらえ(下加工)です。手刻みだった時代は30日ぐらい掛かっていました。今のプレカットは2〜3日で刻めますが、それでも刻みの機械への入力もあり、非常に手間が掛かってくるものです。
実は骨組み自体は、1日でほぼできあがってしまいます。屋根の下地の一番上の所を棟と言って、棟の木材は棟木と言います。この棟木を取り付けることを「上棟」、別の言い方で「棟上げ」と言うのです。これにより家の形ができあがったことになります。
お施主さんは、現地に来られると「こんなスピードでできるんですか?」と感動される人が多いです。半分以上の人は感嘆の声を上げます。大工工事の一番のハイライトだし、お施主さんとしてもお金やプランのことを考え抜いて、奥さん・お子さんたちとも話し合って形作ってきたものなので、ジーンと来る瞬間です。工程の中の1つのタイミングではありますが、非常に節目になる。それが棟上げだと思ってください。
建物の無事の完成を願いながら、ここまでの工事を段取りしてきた関係者と一緒に「良かったな」とお祝いをする。そういう場が上棟式になります。
上棟には、昔は直会(なおらい)と言って宴会・宴席が大体付きものでした。昔の家普請(いえぶしん)とか言っていた時代は、村内の人が棟上げの時の骨組みを手伝っていたそうです。近所の人とか親戚の方でやる、一族の一大イベントみたいな側面がありました。ちなみに今は、大工さんのプロの人たちやフレーマーと言われてる人たちが、プレカットの木材を10〜15人ぐらいのグループで一気に立ち上げることが多いです。
棟が上がった1日の終わりには直会という名の宴席を設けて、手伝っていただいた方を労ったり、これまで支援していただいたことに感謝を申し上げたりします。そして「家ができたらそこに住みつくので、みんなよろしく」という意味合いも含めて、キックオフの儀式みたいな感じでした。上棟と直会は1セットだったのです。
直会というのは、神様を崇める方の習慣の1つです。御饌御酒と言って、神棚にスルメとか御干菓子みたいな物やお酒をお供えします。それをお参りした後にお下がりでもらって、神主さんや神職の方、関係する参加者でいただきます。これには、神様と人間が一体になるという意味合いがあります。神に守られて安全な家づくりができるよう、願いを込める会なのです。そういうものと上棟式が一体だったものですから、私としては昔の上棟式のあり方を知っているので「すごくいいですよ」とお話しすることが多いです。
上棟式とはどういうものかというと、まず主催者はお施主さんです。段取りとか進行をするのは昔だったら大工さんの棟梁、今は工務店の現場監督さんが多いと思います。特に昨今はハウスメーカーさんで鉄骨系とかツーバイフォーになると、上棟が1日で終わらないケースが多いです。そのため節目がわかりにくく、ダラダラ工程が続くので、廃れたところもあると思います。ただ、もし鉄骨の建物であっても、木造の建物であっても、家族とか周りの方と分かち合うという意味で上棟式を頭に置いてもらえたらいいと思うのです。
昔の上棟式ではどんなことをしていたかというと、よく御幣という捧げものを飾っていました。日の丸や鶴の絵が描かれた白い扇を開いて、2つ合わせにして真ん丸にしたものを角材の先に差し込んで、和紙でできた両紙垂を付けたり水引きを付けたりして、「祝上棟」とか「上棟日○月○日吉日○○家」とか書いたりするようなものです。
これを、棟があがった時に一番上の先端に付けました。のろしみたいな感じですかね。ちゃんと事前にこしらえておいて、字なんかはお施主さんが書かれたりして、棟梁がそれを預かって上に付けて、「よっしゃ!棟が上がった!」みたいな。一番の最高潮のシーンになります。
それが終わった後に、今度は祭壇を作ります。2階の床に作ることもありますが、私のおじいちゃんは屋根の上にちょっとした簡単な床をこしらえて、歩み板を4〜5枚並べて平たい所を作っていました。
三宝(さんぽう)と言う台を置いて、そこに神饌(しんせん)と言われる神様に対するお供え物として、塩・米・お酒・水を置きます。それから建物の四隅にお塩・お米・お水・お酒などをまいてお清めし、棟梁が祝詞奏上します。神様に対するお礼の言葉を読み上げる感じです。それを昔おじいちゃんがやってるのを見た時は、カッコよかったです。我がおじいちゃんながら、ダンディだなと思って憧れた覚えがあります。
まず棟梁が仕切ってお礼を神様に言った後、今度はお施主さんや関係者が一緒にお礼と今後の安全と無事の完成を祈願する。こういう手順が上棟式と言われています。この式典が終わった後、さっき言った直会という形になっていくのです。
特に田舎に多いのですが、その後に餅まきをやることがあります。昔の木造の家の建前(たてまえ)に餅をまくという風習は、西日本だけじゃなくて東日本でもたくさんありました。全国的にやられているとよく聞きます。
餅まきというのは文字通り、紅白の小餅をまいたり、子どもにはお菓子をまいたり、5円玉とか50円玉をちょっと付けて時々お宝みたいな感じで投げるみたいな感じです。近所の人に「餅まきするからおいで」と声を掛けておいて、みんなで楽しみます。
最近も餅まきをやったお家がありました。最近の子どもは餅なんか興味がないじゃないですか。不思議ですが、生まれて初めて餅まきを経験する子も、餅がまかれたら拾いに行くのです。そんな感じで、楽しいイベントとしてこういうのを一貫して上棟式をやることがあります。
昨今は別に近所周りの人に手伝ってもらうわけでもないし、車に乗ったりして集まってくることが多いので、酒食を伴うのは安全面に問題があるので簡素化されていることがとても多いと思います。ただ私が思うのは、例えばご夫婦が中心になって家づくりをされる時は、それぞれのご両親がご健在だったら棟上げの日は一緒に見ていただいて、これで立派な家ができるとご両家で喜んでいただいたり。おじいちゃん・おばあちゃんにとっては、お孫さんに「○○ちゃん・○○くん良かったな」と言ってやるというのは、人生の中に何回もない喜びの深い日になると思うのです。
住宅ローンを抱えるとなれば、「これだけのものができたらしっかり返していって、家族を守ってやらなアカンな」と。私は男なので、男心としては気が引き締まるというか、覚悟ができるみたいなところもあります。そういう節目になるので、古来通りにやる必要はないかとは思いますが、やられることにはとても意味があると思います。
年長者の方はこういうことに重きを置かれたり、昔の良き風習を体感された方が多いです。若いご夫婦の家であっても、もしお元気ならおじいちゃん・おばあちゃんも含めてお父さん・お母さんみんなに声を掛けてください。当日でもいいし、現場が綺麗に落ち着いた日にやってもいいと思います。
私はこれまでも地鎮祭のことを解説してきましたが、儀式・節目のイニシエーションはとても大事だと思っています。もし私の話を聞いていただいて、ちょっとでも何か感じるものがあれば、ぜひ上棟式をやっていただければ幸いです。
最後に、私たちがよくやっている上棟プレートをご紹介します。ちょっとした厚い立派な板に上棟日を書いていただいたり、子どもさんも一緒に手形を押したり、色を塗ったり。こういうものを御幣の代わりに作っていただきます。
上棟の日、お昼には骨組みができあがります。直会ができないので、お昼のお弁当を職人さんたちに振る舞ってもらって、その時に式をやって、このプレートを棟梁に渡すのです。お施主さんの子どもさんたちに「おじちゃんお願い」と渡してもらうと、難しい顔をした棟梁たちもにっこりして、気合いが入るんですよね。そういう想いを受け取る場でもあります。
やっぱり人間って何でも気持ちでやる生き物なので、気持ちを入れるところはたくさんあった方がいいです。私たちにとって毎日の仕事ではありますが、お客さんの一生に1回の家をやらせてもらうんだと思える瞬間は、あればあるほどいいと思います。ぜひ参考にしてみてください。