地盤補強には4つのパターンがある
今日のテーマは地震に強い家の作り方です。
建物の骨組みや基礎も大切ですが、もう1つ気をつけていただきたいのが「地盤」です。
僕は1995年の阪神淡路大震災で、こんな光景を目の当たりにしました。道路1本隔てて、同じような家が建っているのですが、片方は粉々に壊れてて、もう片方は建ち残っているんですね。つまり同じような家であっても、地盤が変わると、こんなに影響が変わるのかと実感しました。
また、ガッチリした建物を作っても、それを支える地盤も配慮しておかないと中途半端なことになってしまいます。なので今日は、地盤補強の話を詳しくしていきます。
建物を建てるとき、地盤の状態については必ず調査します。住宅の場合は、スウェーデン式サウンディング試験というのが一番ポピュラーです。最近は表面に音波を送って深いところを調べる、表面波探査法と言う方法で行うこともあります。ビルの場合はボーリング調査をしますが、住宅でボーリングまでやることは少ないです。
スウェーデン式サウンディング試験を実施して、地盤が液状化する危険性や、圧密沈下検討と言って地盤が下がることがないかを調査します。
地盤自体の支持力については、3つの視点で検討をします。この3つのうち、どれか1つでもNG判定が出ると、地盤の補強が必要になります。特に圧密沈下の場合、不同沈下と言って沈み方に差があると、建物が傾いたり、排水管が壊れたと、被害が大きくなります。なので、ここに関しては事前に対策を練ります。
住宅の場合ですと、3つの対策があります。
1つ目が地盤改良。文字通り地盤そのものを改良していくものです。
2つ目が小口径の杭(くい)を打つもの。
3つ目が置き換え工法です。
この3つは、支持層と呼ばれる堅い地盤に届くまでの深さによって使い分けます。
最初の地盤改良には、2つのパターンがあります。
1つは「表層改良」と言って比較的表面の部分を改良するやり方、もう1つが「柱状改良」と言って少し深く改良していくやり方です。
表層改良というのは、地盤の軟弱な部分が、地表から大体2mぐらいまでの深さだったら、実施しやすいと言われています。コストも抑えられます。やわらかい部分にセメント固形剤を入れて、撹拌して、転圧すると、岩盤のような強度になるんですね。
地盤の軟弱な部分が大体2m よりもっと深くまである場合は、柱状改良を選びます。具体的には2m以上8m以内ぐらいに支持層がある場合ですね。文字通り柱状に掘って、引き抜いたあと、そこの地盤とセメント固形剤を混ぜていくイメージです。住宅の場合は50cm〜60cmの径が多いかなと思います。ビルや鉄骨の大きい建物を建てる場合は1m20cmくらいの径になります。これはあくまで地盤改良なので、杭を打つものとは違うということを知っておいてください。
8mを超えると柱状改良は実施しにくいです。品質も担保しにくくなります。その場合、小口径の杭を打って対応します。一番多いのは鋼管杭(こうかんぐい)です。
これは柱状改良に比べると本数が要るので、コストが掛かります。周りが建て込んでいる敷地だと、鋼管杭を打ってくというやり方もあります。ただ、音の問題で、ご近所に許可をいただいたり、説明が必要になるケースが多いです。鋼管杭に比べると、柱状改良の方がやや音が少ないので、そちらを選ぶことも多いです。でも支持層が深い場合は、品質を優先してほしいので、鋼管杭を選んでください。
底なしの沼のような軟弱な地盤の敷地の場合は、「置き換え工法」を選びます。こうした地盤は土が重たいです。その上に家を載せるとズルズル沈んでいく危険があります。絵の中で「EPS」と書きましたが、これは簡単に言うと発泡スチロールでできた大きいフロートを2mとか3m入れて、その上に家をのせる方法です。
ただ、僕は正直あまり経験がないです。家づくりを数十年やってきて、少ないなと思うので、一般的に見ても、実施することは少ないかもしれません。
自分の地盤というのをキチッと測って、その上で3つの検討をしていただけたらと思います。
ちなみに、これら3つの解析には一定の経験が必要です。大きなハウスメーカーさんであっても確実に解析できる、ジャッジできる技術者の人は正直少ないと思います。
一般的には、非常に経験値の多い地盤調査会社さんと提携をして、解析を依頼する。そのデータに基づいて構造検討するというのが多いかなと思います。ちなみにモリシタ・アット・ホームでも、非常に信頼している調査会社さんに解析しています。
こうした仕事の仕方は、お医者さんと一緒です。例えば、お医者さんだからと言って、全ての治療ができるお医者さんはいないですよね。脳の治療に詳しい人もいれば、心臓の治療に詳しい人もいる。子どもさんのメンタルのケアに詳しい人もいます。
私たちの業界も同じで、一級建築士や二級建築士だからと言って、全部が全部分かっているワケではないんですね。では、何が大切かというと、そういうことをキチッとできる人とネットワークを持っていることが重要になります。家づくりのあらゆることに、ネットワークがある会社かどうかと言うのも、チェックしておくべきポイントになります。
その時に注意していただきたいのが、地盤の調査と保証についてです。地盤の調査をして保証する会社と、その上に作った建物を保証する会社というのは、別々になっていることが多いです。ほとんどのケースは特段問題ありませんが、稀に不等沈下が置きたり、液状化で被害を受けた場合、これは地盤によるものなのか、建物によるものなのか、プロから見ても判断が難しいことがあります。
保証の担保は、多くの場合が保険でされるので、保険会社がそれを引き受けてくれます。しかし、責任区分で難しい時があるんですね。
地盤と上物に関して一体で、どっちに責任があっても無くても引き受けますよ、というような形の保証携帯もあります。なので心配な方は、このような保証を選んでいただければと思います。
地盤にまつわるリスクは、どれだけ検討しても対策しても、万が一ということがありますのでね。その時は上手に保証をしてもらえる保険に入っておくというのも、地盤補強の1つになると思います。
最後に、おせっかいおじさん得意の蛇足になります。
地盤調査した時に「NGに出ませんでした」というケースも多いです。「良かった良かった。何も補強なくてもいいや」となって工事を進めますが、家づくりを長くやってきたおじさんとしては、気になることもあります。OKが出ても、実際に基礎を掘っていった時に「ん?」と疑問が出るんです。特に古いお家があったところを解体して、直後に家づくりをするとき、粘土層で出てきて「このまま普通に基礎やっていいのかな?」となるんですね。
その時は一旦、施工を止めて、部分的にセメント固形剤入れてもらったりします。あとは僕が若い時、歴戦の技術者の方に教えていただいた、長い鉄筋を使って地面を突いてみる、ということもします。経験値でアバウトなこと言って恐縮なんですけど、実際に突いてみると「これぐらいなら大丈夫やな」とか「これ少し考えた方がいいな。部分的に掘り方深くして、地業の砕石とか栗石の厚みを厚くして、十分転圧して加工した方がいいな」ということを感じたりします。
調査して地盤補強が必要となったときは意外と安心なんです。でも、調査結果がグレーな時や基礎を掘ってみて初めて、補強が必要だと分かることもあるんですね。そういったケースもあると知っていただいて、補強工事を実施していただければ、本当の意味で安心な家づくりができます。ぜひ参考にしてみてください。