それでも私が家を建ててほしい理由
今回は、こんな時代の中でも家を建ててほしい理由をご説明します。
最近はいろんなことがありますよね。戦争が起きたり、コロナもだいぶ下火になったとはいえまだまだ不安な世の中が続いています。建材の値段が上がったり、金利も上がるムードの中で、家を建てることに対する不安が強くなるのは当たり前です。
今回は工務店の社長という立場から離れて、60年間生きてきた1人のおっさんのつぶやきとして、それでも家を建てていく意味について一緒に考えていきたいと思います。
テレビやYouTube動画を観ていると、私の好きなホリエモンさんや経済評論家の勝間さんなどオピニオンリーダーたちが、「家なんか持っても意味がないよ」とおっしゃっています。特にホリエモンさんは、ホテル暮らしで十分だと。ホテル暮らしは誰でもできることじゃないと思うけど、そういう持論を展開されています。
この手の話は、別に新しい話ではありません。何十年間も議論されてきた話だと思います。私も40代・50代になったその時々に、自分なりにいろいろ考えました。
以前にも動画で、このテーマについてお話しさせていただいたことがあります。
▼家は若いうちに買う方が得する?
https://www.m-athome.co.jp/movie/ie_wakaiuchi_tokusuru
まず、「持ち家がいいの?賃貸がいいの?」という議論です。その根本にあるのは、どちらの方が経済的合理性があるのかだと思います。まさにホリエモンさんを代表とする意見は、「持ち家なんか全然得しない」という感じですよね。
ホリエモンさんは嫌いじゃないし、すごい人生を歩んでいて羨ましいなと思いますが、一個人として考えるのは、50代・60代になって人生に望むものは何かです。
例えば私の友人にも、車とか旅行が好きなご夫婦もいます。個人の趣味嗜好も一種のライフスタイルだと思いますし、そういうことを重視する人生もあると思います。
私は、せいぜい女房と近場の温泉に行って、後はゆっくり家の畑をゴソゴソしたり、好きな大工仕事をしたり。女房に迷惑を掛けながらもそんなことをやるという、割と家族主体の生き方みたいなものもあります。
例えば新築を建てた後、急に問題が起きて家を手放さなければならなくなったとします。これまでの日本の感覚だと、たった数ヵ月しか住んでいなくても、借りている金額より何割も安くないと家が売れないという現実があるのです。
こういった資産価値の下落がある以上、合理性がないじゃないかと。ただ上述の通り、50代・60代になった時にどんな生き方を望むかによって、家があった方がいい場合もあるのです。
もしあなたが、資産価値の下落以上に何かの価値を家づくりにおいて求めるならば、家づくりをすればいい。世間なんて関係ないと、私は申し上げました。これは今も気持ちとしては変わっていません。
工務店だから我田引水したくて家を建ててほしいのではなく、私の娘でも孫でもそういう風に決めればいいと言います。だから別に賃貸でもいいし、家を建ててもいいのです。
ところで、私も60歳なので最近はこんな本が気になります。坂本貴志さんという方が出されている『ほんとうの定年後』という本です。60歳から80歳の仕事の実態ということで、シニアの人たちの生活実態が淡々と書かれています。
興味深く読ませていただきましたが、どうしても工務店のオヤジなので住宅関係の話に目が留まります。事実として、34歳以下で持ち家の人は51.1%しかいないそうです。一方40代後半で8割の人が持ち家、60代前半に至っては9割以上の人が持ち家ということです。この人たちが今、経済的合理性がなくて貧乏しているかと言うと、そうでもありません。安定した生活をされているそうです。
今のシニアのほとんどは、30代・40代で家を買いました。しかも、住宅価格が今以上に高かったバブル期で、住宅金融公庫の利息が5.5%という、今から思えば超高金利時代です。それでもほとんどがローン返済を終了しています。平均すると、40代がローン返済や家賃に5万円以上掛かっている中で、60代は1万円台になっているのが事実です。
そうであれば、一体その人たちに何が起きたのか。俯瞰して現実的に考えてみた時、パッと浮かんだ言葉が強制力という言葉です。人間って強いプレッシャーが掛からないと、易きに流れるというか放漫になりますよね。平たく言うとムダ遣いしてしまいます。
住宅ローンを抱えた以上、返さなければならないという猛烈な力が掛かるので、生活を律して返済していけるのです。つまり、有能なマネージャーを雇って厳しく管理してもらったような状況が、その人たちに起きたのだと思います。
よくお客さんとの話の中で、こんなことを言います。「太陽光発電で損得より大事なことは、載せた限りは向こう10年は売電収入をコツコツ貯めること」です。一番いけないのは、売電収入を得た分を生活費に使って浪費してしまうこと。そうすると得も損もなくて、ただ単にお金が流れていくだけになります。
ソーラーローンという借金にして無理やり返せば、そっちの方が実は生活に芯が通る、みたいな話をすることがあります。つまり強制力の話なのです。こういう視点で考えた時、家を持つことは、経済的合理性とは違う次元の営みが関わるのではないかと思います。
この本にはさらに面白いことが書いてあって、「シニアは年収300万円以下が大半」「生活費は月30万円弱」「本当に稼ぐべきは月10万円」「70代の約半分の人が働いている」「持ち家は賃貸よりも良い選択」と書かれていたりします。
今まで思っていたイメージとは違って、幸せなシニアライフを送っている人たちは、実は意外にも住宅費に関して決着をつけているのです。持ち家があると地元に根差す暮らしになりやすいので、地域のコミュニティとの繋がりを強く持っていると書かれています。
若い時みたいにバリバリな働き方じゃないけど、昔培ったキャリアを活かしながら働いている人。時間に余裕があるので、それを地域の人たちとのお付き合いや奉仕に使っている人たちが、実はとても幸せな暮らしをしているのです。
これ以外にも面白い視点のフレーズがあります。「住宅は子育て世代で買うことが多いけど、判断が遅すぎることはない」と。子育てが終わって一段落してから身の丈に合った住宅を購入するのも、十分に合理的であると坂本さんは結論付けています。
さらに坂本さんは、資産性のある住宅は自宅担保で借り入れができるとおっしゃっています。リバースモーゲージという有名なスキームのことです。自分が死んだ時に金融機関等に担保として差し出すとして、その分を借り入れます。もし貯蓄や生活費が少なかったら、それで余生を過ごすというやり方です。ホリエモンさん的に言うと不良資産だったものが、生活防衛のための保険みたいにも使えることもあるから、資産性のある住宅なら家を持つことも悪くありませんよね。
ここ10年ぐらい自分がやっている家づくりは、一言で言うと「資産性の高い家づくりだ」と坂本さんの著書を見て気付かされました。例えば冬は暖かい・夏は涼しいとか、光熱費があまりいらないとか、素材重視で作っているとか。
例えばヨーロッパに行くと、築100年ぐらいだけど歴史が刻まれて味わい深い家があります。実はそんな家が、新築価格よりも高い値段で流通しているのです。日本は戦後すぐに復興しなければならなかったため、とりあえず雨風をしのげて生活できる家が建てられてきました。そのため今の日本の中古市場は整備されていないし、すごくいい家なのに安く買い叩かれることもあると思います。
これがどうやら、日本もここからジワッと変わっていくのではないかと予想しています。今は買い叩かれるかもしれないけど、成熟して進んでいった時には、価値ある物は相当の値段で流通するのではないでしょうか。
先日も、車好きの人からこんな話を聞きました。MINIという車がありますよね。あれって、中古車の方が新車よりも高かったりするらしいです。しかもMINIの好きな人たちが集まるカーショップでは、MINIへの思い入れが強くて目が利く人たちが絶えず行くので、「こんなに大事に乗ってる車だったらぜひ高く譲ってほしい」という人たちがたくさんいます。
「その辺の買取ショップでは絶対に売らないでくださいね」「絶対にMINIはMINIが好きな人の所に持ってきてください」と言われたということを聞いて、価値ある家が欲しい人たちの市場も、作られていくのではないかと思うのです。
そうすると、みなさんこういう時代だから「あまり無理して高い家にするのは難しい」と思われるかもしれませんが、大事なことはその家が価格に対して価値があるかどうかです。
わかりやすい指標としては、高性能であるか・素材が使われていて飽きがこないか・古びても味が出るか・スペシャルすぎずほどほどに中庸で多くの人が好むような家になっているか、みたいな視点です。その上で自分らしさを表現できれば、家は言うほどリスク資産ではなくなると思います。
もちろん私は今60歳なので、無責任な言いっぱなしの戯言かもしれません。それでも、日本がヨーロッパのように成熟していくことは間違いないと思いますし、衰えたとはいえ今でも世界随一のお金持ちな国です。お金を持っていて、価値ある物を買いたいという人がいる以上は、市場も成長していくと思います。
あなたがもし、いわゆる資産価値の下落という縛り以上に家を持つという価値観が大きいならば、こういう時代であっても、勇気を持って家づくりをしてください。その時は、そんな価値観を踏まえた家づくりを考えてくれる人としっかりタッグを組んで、家づくりとか大規模リノベーションをしてください。そうして、十分に愛着を持てる家にして過ごしていただければと思います。
来年こそは家を作りたいという方も多いと思いますので、ぜひ勇気を持って、家族とか奥さん・旦那さんと力を合わせて進んでいってください。参考になれば幸いです。