家を建てる時に押さえておきたい高さ寸法
今日は、家づくりを考える時に知っておいた方がいい、「高さを考える基準」について解説をしていきたいと思います。
家づくりを具体的に計画し始めて、概ね間取りが固まってくると、今度は細かく家中の設えについて「何がいいかな?」と考えると思います。その時によく出てくるのが、「高さをどう決めたらいいんだろう?」という問題です。
最初にタネ明かしをしておくと、今日お話しするのは私の思い付いた意見ではありません。私が師匠の1人だと勝手に思っている、飯塚豊先生という方が最近新しく『ぜんぶ絵でわかる木造住宅』という本を出されました。どちらかと言うとプロが読む本ですが、その中でよくまとめられてるなと思うところがありましたので、それを森下なりに解説していきたいと思います。
家づくりの中で高さ問題を考える時、何と言っても一番のポイントは、それぞれの人にぴったりの高さは家族1人1人の体格差によって幅があるということです。
いろんなご夫婦のスタイルがありますよね。最近は女性にもスラッと背の高い方が増えましたので、旦那さんが165cmで奥さんも164cmとほぼ変わらないようなお家もあれば、奥さんは150cmで旦那さんは180cmみたいな方もいます。ニアリーの身長の方はいいのですが、背の高い方・低い方でそれぞれ好みというかぴったりの高さがあります。
それでは、高さをどういう風に考えたらいいのか。昔から研究してきた設計者の方々が知恵を絞って公式にされているということを、飯塚先生が紹介されています。今日はそのことをみなさんに知っていただきたいです。
日本人の今の平均身長は、男性が171.5cmで女性は159cmだそうです。私の若い頃は男性が170cmをちょっと切るぐらいだったから、この数十年間で何cmか体格が良くなってるんですね。
人間の使いやすさ・作業性の良さを考える時に重要なものが、体の重心がどこにあるかです。重心がブレると、それを支えなければならないので、必要ないエネルギーを使うことになります。重心がブレない動きは、ものすごく楽で作業性が高まるので、重心がどこかをまず導き出す必要があるのです。
身長をxと捉えたら、x×0.55がほぼ重心点になるそうです。171.5cmの男性は概ね943、つまり94cmぐらいが重心になります。159cmの女性は843で84cmなので、身長差通り10cmぐらい重心点が違うのです。重心点が違うということは、170cmの男性と159cmの女性の心地のいい作業の高さ・体の使い勝手の高さには、差があるということ。これが前提になります。
その上で知っていただきたい高さの基準の考え方について、一番多いのは棚の高さ問題です。自分の身長で手が届く限界値が、身長×1.17で求められます。数値で言うと、171.5cmだと2006mmで2mちょっとです。
棚以外に、収納には引き出しがありますよね。引き出しって、あまり上に上がっていくと見えない高さになりますが、この限界値が身長×0.9で求められます。171.5cmの男性だったら、1560mm(1m56cm)。これが上限値です。これ以上に引き出しがあったら、使えないということになります。また、ちょこっと置きたいという感じの、いわゆるカウンターの一番使い勝手がいい高さは身長×0.4で求められます。数値で言うと68.6cmになるそうです。
私はこう思います。身長×0.4と身長×0.9の間のゾーンが、ゴールデンゾーンです。つまり、一番出し入れが多いものをここに設定しておくとラクなのです。屈まなくていいし、背伸びしなくていい。ここに出し入れ頻度の高い物を持ってくることで、高さ問題に関しては1つの目安になります。
当然171.5cmの男性で言ったので、例えば167cmの奥さんもいらっしゃいますよね。それならあまり変わらないのでいいです。ただ、150cmの奥さんだったら、おのずと変わることになります。ましてやお子さんはもっと変わりますよね。こういうところを思っていただけたら、棚の高さも結構やりやすくなるはずです。
あとは、私も最近は台所仕事みたいなことをやる時があります。女房を手伝っているのか邪魔しているのかよくわかりませんが。その時によくあるのが、腰が痛くなることです。女房は長い時間やっていてホンマにえらいなと思うんですけど、違います。高さが合っていないのです。私も、妻とは約10cmぐらいの身長差があるものですから。
例えば、171.5cmの人にふさわしい作業台は、要は重心点です。0.55を掛けた高さが、重心がブレない高さ。だからそこに手を置けば、ブレないから作業がしやすいですよね。171.5cmの人が934mm、159cmだったら874mmという感じになるので、一番ぴったりフィットする高さには6〜7cmも差があるのです。
だから最近のキッチンの規格では、850〜900mmみたいな感じの選定が多くなっています。背の高い方は、850mmでは腰が痛いです。若い時は感じないかもしれませんが、私みたいになったら絶対に痛くなるから、そういうのを注意してもらえたらと思います。
あとは、長いコートを掛けるにはどこのスペースが一番いいのかというと、身長×1.03です。少し細かいですね。ひょっとしたら概ね身長ぐらいでもいいのかもしれませんが、これが一番いい高さだそうです。
クローゼットの場合、奥さんの方が身長が低ければ奥さんが掛けやすい高さにしてあげて、旦那さんは低めに使うのがいいのかもしれません。もちろん背の高い旦那さんってコートも背が高い可能性があるので、あまり低くすると「全然下が使えへんやん」となることもあります。そういう意味で言うと2段にしてもいいかもしれませんね。そういうところも注意してもらえたらと思います。
最近私の友人である、エステティシャンの会社を経営している女社長に、「歳を取ったら顔をよく洗わなアカンよ!」「どんどんシミが深まってシワが増えるよ」と言われました。それで真面目に顔を洗うようになったのですが、その時に思ったのが、洗面台の高さって結構微妙だなということです。
洗面台の使い勝手のいい高さの公式も、飯塚先生が教えてくれています。身長×0.45です。男性の平均身長で言うと772mm(77cm)で、女性では71cmになるので、微妙に差がありますよね。
もちろん洗面台はお互いに使うことが多いと思います。許してもらえるかどうかわかりませんが、背の高い旦那さんに合わせて高めに作って、奥さんのためにステップを作るのもいいのではないでしょうか。洗面台の下にスペースを作って、奥さんが使う時はヒョイッと出して終わったら入れるみたいな感じです。小さなお子さんだったら、2段ステップみたいなのを作ってもいいかもしれませんよね。
そして多いのが、デスクワークしやすい机と椅子の高さの基準です。これも公式がありまして、椅子の座面の高さは身長×0.23がいいと言われています。机の高さに関しては0.41。平均身長が171.5cmの男性は座面が395mm、机の面が703mmで70cmになります。大体の椅子は400mmの高さで、机は700mmが多いです。それは日本人男性の平均身長、男性基準で決められています。例えばお家で業務される女性は、身長が低い方だったらそれに合わせて座面や机の高さを設定した方が、ストレスがないかもしれないですね。
私も椅子を買いに行って座ってみた瞬間に、「いい感じだな」と思う時と「高い!」と思う時があります。「高い!」と思うのは大体海外製です。特に今は北欧の家具が流行っていますよね。直輸入で日本人サイズにアレンジされていなかったりします。「自分みたいに足が短いからアカンのかな?」と思ったりしますが、まさに人間の感覚値はそこら辺に収斂されてくるのです。いろんな高さを決めるためには、これを知っておいてもらうといいんじゃないかと思います。
最後にこれは私からの余分なお節介ですが、食卓テーブルを選ぶ時にも公式があります。座面とテーブルの天板との間の高さで大事なことは、差尺です。なぜこれが大事かというと、人が座ったら天板の下に太ももを入れるじゃないですか。差尺が低すぎたら太ももが引っ掛かるから不快なのです。
特にダイニングテーブルは補強のためにステーが入ったりしています。長辺側、つまり人が座る方にも付いていることがあるので、差尺問題は特に影響があるのです。これはどういう風に考えるかというと、身長×0.55。重心の公式と同じですね。これを置き換えると、人間の座高になります。この座高を3つに割って、クリアランスを2〜3cm見た高さが一番適切な差尺と言われています。
身長が160cmの女性の適切な差尺は、26.3cmです。身長が170cmの男性の差尺は29.1cmになるから、4cmも差があります。そのため、食卓テーブルの1つの選び方としては、一番背の高い人に合わせることが一般的なのです。
うちの母はそんなに身長が高くないため、彼女が座ると椅子が高すぎて足がブラブラするのです。長い時間みんなで喋っていたら、足がそんな状態になっているのは苦痛みたいです。なので、おばあちゃんには下にステップを置いておいてあげた方がいいと思います。お年寄りはそういうこともあるので、人間の体の摂理ってそういうものなのだということを知っておいてください。
基本は、テーブルやデスクを共用で使うなら、高い人に合わせること。あとはステップで調整していくのが合理的です。優しい旦那さんだったら、「俺のことはいいから女房や子どもたちに合わせる」と言って合わせていただければ、家族からの点数も上がるのではないでしょうか。これは余談ですが、そんなことを思っていただいて、高さを押さえる基準の参考にしてみてください。