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いつか一人になるための家の持ち方・住まい方

今回は「いつか一人になるための家の持ち方・住まい方」という本をテーマにして解説します。

この本は、井形慶子さんというイギリスに関する知識や愛着が深い専門家が書いた本です。また、雑誌編集者であり作家でもあります。井形さんの著書には『古くて豊かなイギリスの家』『便利で貧しい日本の家』というものがあります。タイトルからしてドキッとしますよね。この本でもイギリス流の家づくりがいかに深いものかを語られており、住まいに関する造詣の深さを感じます。

今回の本は2018年4月に出版されていますが、その中で井形さんは「2022年には日本は一人暮らし社会になっている」と述べています。実際、2024年の現在、その通りになっていると感じます。まるで予言であり、彼女の見通しの正確さに驚かされます。

井形さんは本書の中で、特に「40~50代のうちに家を見直すべき」と主張されています。その理由は、気力や体力が充実しているうちに対策しておくことが将来の安心につながるからです。そして、家を見直す際には次の「3つのポイント」に注目するよう提案されています。それは、「身の安全」「お金の安心」「心の平和」の3つを軸に家を見直すべきだという主張です。これには深い意味があり、とても参考になる考え方だと感じました。さらに井形さんは、「新築の立派な家を建てる」というよりも、中古住宅に目を向けるべきだと述べています。「一人暮らしだから住まいにあまりお金をかけられない」と思う方でも、中古住宅に目を向ければ、負担を減らしつつ快適に暮らせる方策が見つかるという視点です。

また井形さんの考え方には、これからの時代に合った住宅流通の変化が背景にあるようです。例えば、アメリカでは住宅流通のうち90.3%、イギリスでも71%が中古住宅となっています。新築住宅の方がむしろ珍しいという状況です。一方、日本ではこの割合がわずか13.5%に過ぎません。これには、これまでの日本の家づくりの在り方や品質の問題も影響していると思いますが、2000年頃から日本の住宅の品質も飛躍的に向上してきています。これからは中古住宅が資産として流通する時代が到来するのではないかと考えています。井形さんの視点も、こうした背景を踏まえたものではないかと感じます。

この本の中で最もドキッとした言葉は、「誰もが最後は一人になる」という一節です。冒頭でお話ししたように、夫婦が助け合って人生を全うするという理想もありますが、現実には、いくら仲の良い夫婦でも同時に亡くなることはほぼありません。どちらかが先立ち、残された一方が一人で過ごす時間が訪れるのが一般的です。もちろん、どちらかが亡くなった後、後を追うように亡くなるという仲の良い夫婦もいらっしゃいます。しかし、多くの場合、一人になる時間は避けられません。
私自身も、「たぶん自分の方が先に亡くなり、妻が一人で暮らすことになるだろうな」と考えています。とはいえ、逆の可能性もあり得ます。ですから、残されたパートナーがどのように生活を続けられるか、そのために何ができるかを考える必要があると感じます。この言葉には、そうした現実を突きつけられ、深く考えさせられました。

井形さんは、雑誌編集長として活躍されるパワフルな女性で、イギリスを頻繁に訪れるなど、エネルギッシュな活動をされています。ただ、井形さん自身も20代で離婚を経験され、その後の人生で抱えた不安や葛藤をエッセイなどで語っています。特に40代頃から、高齢期に一人になったときのことを気にするようになり、「自分はどこに住み、どのように暮らすのだろう」と思い悩むことがあったそうです。

井形さんはその後、友人たちから住まいに関する相談をよく受けるようになります。「定年前に家を買い替えたい」「親の家を処分しておきたい」「気力があるうちにリフォームをしたい」といった内容です。しかし、多くの場合、話は「いずれ時期が来たら」で終わってしまい、多くの人が「尻切れとんぼ」(問題を先送りにしてしまう状態)になるので、それは良くないと思っています。

井形さんは、このような状況を踏まえ、「気力と体力がある40~50代のうちに家を見直すべき」と強く主張されています。特に一人暮らしを考えている人や、夫婦として暮らしている人がパートナーを失ったときのことを想定して、早めに行動を起こすことが大切だというのです。

井形さんの本は、大きく6つのテーマに分かれて住まいについて解説されています。中でも重要なのが、今回の命題である「いつか一人の住まいを考える」というテーマです。井形さんは、古い戸建て住宅や中古マンションといった選択肢についても詳しく触れています。

「身の安全」を考えたとき、シニアの方でマンションを選ぶ人が多いのは、セキュリティ面で安心感があるからだと述べています。ただ、井形さんご自身は戸建てを選択されました。その際、防犯対策としてすべての窓にシャッターを設置し、ドアフォンを整備するなどの工夫をされました。さらに、簡単なセキュリティ装置を導入するために80万~100万円程度の費用をかけたそうですが、30年という人生を考えれば、年2~3万円の負担で済むので決して高くはないと判断したそうです。また、お風呂も寒いタイル張りの浴室をそのまま使うのではなく、ユニットバスを新設して快適性を向上させたとのことです。古い浴室はそのまま残し、新しい浴室を別の場所に設置するという発想は、建築家から見ると驚きの発想でした。私たちはつい「古い部分を全てやりかえなければ」と考えてしまいますが、井形さんの本を読んで「そのまま置いておいてもいい」という発想もあるのだと気づかされました。

また、この本を読んでいる方の中には、将来住む予定のない実家をリフォームすべきかどうか悩んでいる方も多いと思います。特に長女や長男の方には、「実家に住まなければならない」というプレッシャーや、「古いけれど持ち続けるリスクが不安」という思いを抱えている方もいるでしょう。井形さんは、そうした呪縛から解放されてもよいと提案されています。実家を手放して住み替えるという選択肢も十分にあり得るという考え方です。

さらに、井形さんは理想的な住まいとして、「自然が近い街」や「都会に近い田舎」を挙げています。これは、イギリスの田舎での豊かな暮らしに影響を受けているようです。私自身、工務店として補足するなら、「安全」の観点から耐震補強をしっかり行うことをおすすめします。また、浴室を暖かいユニットバスに変えることや、窓などの断熱性能を強化するリフォームも重要です。たとえば、二階建ての家であれば、一階部分だけを使えるようにする「区分断熱」という考え方も、一人暮らしには合理的です。必要な面積に絞ることで、快適さを保ちながら効率的に暮らせます。

井形さんが提案する住まいの一例として、「大好きな街の40平米の古いマンションに住む」という選択があります。ここで重要なのは、「大好きな街」という視点です。井形さんは、人気のある街での暮らしを勧めています。東京なら神楽坂、中野、高円寺といったエリアが魅力的で、生活が楽しいと述べられています。古いマンションでも、そうした場所でリノベーションを行えば快適であり、将来的に貸し出すことも可能な資産になるかもしれません。また、「大好きな街で暮らす」利点の一つとして、「車がなくても生活できること」が挙げられています。年齢を重ねると、車は固定費の負担になるだけでなく、運転による事故のリスクも気になります。そのため、徒歩や公共交通機関で移動できる街で暮らせることは大きなメリットだと述べられています。

さらに、リノベーションの工夫として、「窓際に明るいキッチンを設ける」「寝室を小さく区切る」「読書に特化したコーナーを設ける」といったアイデアが紹介されています。古い住宅では水道管や排水管などの設備が老朽化しているため、30年先を見据えた交換を検討することも重要です。中古マンションを購入する際には、「立地」「耐震性」「管理状態」「価格」といった視点を慎重にチェックする必要があります。不動産の購入にはスピード感も重要ですが、必要な場合はプロにセカンドオピニオンを依頼することを、井形さんも勧めています。

また、井形さんの本では、「小さな商い」を始めることで生きがいを追求するアイデアも紹介されています。家の一角に6畳程度の店舗を構え、小さなビジネスを始めることで、人生に新たな目的を見出す提案です。たとえば、小さなお好み焼き屋や、共有スペースを兼ねたカフェのような場所を作ることで、地域とのつながりを楽しむこともできるでしょう。さらにリフォームの際には、「レトロな雰囲気を残す」「泊まれる屋根裏部屋を作る」「使いやすい外構を設ける」など、暮らしを豊かにする工夫が提案されています。特に、耐震や雨漏り対策についてはプロにチェックを依頼することが重要です。

リフォームやリノベーションは大きな投資ですが、井形さんは「まず100万円で何ができるかを考える」といった小さな一歩から始めることを提案しています。新築が買えないから中古を選ぶという消極的な理由ではなく、「少ない予算で住まいを作る」という積極的なマインドセットが重要だと強調されています。井形さんは、地元密着型の工務店を利用することを勧めており、口コミや紹介で評判の良い業者を選ぶことで、コストを抑えつつ信頼できるリフォームを実現できると述べています。また、施工が始まった後も現場を訪れて進捗を確認し、アフターケアの視点を持つことの大切さも指摘されています。

具体的なリフォーム事例も本書には数多く掲載されています。例えば、「リビングを寝室として使う」「太陽光を取り入れながら高断熱の家を作る」といった、快適でエコな住まいのアイデアが挙げられています。50~60代はリフォームの最適なタイミングとされており、30年先を見据えた住まいづくりが重要です。目先のリフォームだけにとどまらず、将来にわたる安心を見据えた質的な向上を図ることが大切だと井形さんは述べています。また、耐震補強や使いやすい間取りへの改修、区分断熱などのリフォームは「80代までの基盤を作るための投資」として捉えるべきであり、これらにどのようにお金を使うかがとても重要だと強調されています。

井形さんが繰り返し述べているのは、「40代までに不動産を購入することのメリット」です。元気なうちに基盤を整えることが重要で、定年間近になると老後への不安が増し、行動を起こせなくなる人が多いと指摘されています。よく耳にする「空き家が多いから最後は借りればいい」「簡単に借家に住めばいい」という意見も、現役世代で収入が安定しており保証人が立てやすい時期に限られた話です。高齢になり身寄りがない場合、家賃滞納や孤独死を懸念して借りることが難しくなる現実も指摘されています。

最後に、井形さんが繰り返すメッセージとして、「気力と体力がある40代~50代のうちに行動を起こすべき」ということがあります。80~90年時代を見据え、元気なうちに住まいや人生の基盤を整えることが重要です。もちろん70代や80代でもリフォームに挑む方はいますが、60代になると躊躇する人が増えるといいます。「今日やるべきことを先延ばしにし、気力が衰えたときに後悔しないように」と井形さんはエールを送っています。

私自身も60代となり、若いころのようにはいかなくなったと感じることが増えました。同世代の方々に向けて、エールを送りたい気持ちです。人生の最後は誰もが一人になります。夫婦で暮らしている方も、一人暮らしを予定している方も、自分のこれからの30~40年を満たすために住まいのあり方を考えてみてください。

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