歴史をひも解くと理想の外壁が見えてくる
今回のテーマは外壁です。外壁の歴史と変遷について解説をしていきます。
僕のスケッチを見てください。
僕のおじいちゃん・ひいじいちゃんたちの時代だと「壁はやっぱり土を使わないといけない」という時代がありました。それがスケッチの左側にある小舞壁(こまいかべ)というものです。
壁は昔から本当にいろんな種類があります。ピンからキリまであって、一番簡単な壁は薄板を打ち付けただけのものになります。その中にもグレードがあって、小舞壁というのは最高級の壁でした。
どんな物かと言うと、スケッチに描いたように柱があるとしたら、ヌキとか胴縁があって、柱の断面の横に15mmほどの薄い木を渡しています。そこに細い竹を網目に組んで縄で縛った竹のメッシュみたいなのを入れます。その竹のメッシュに、赤土のような粘りのある土に藁を混ぜて捏ねてつくったものをつけるんですね。この土が乾いていくと水分が飛んでいきますよね。中には藁も入っているので、適度に空隙がある土の壁ができます。これは荒壁と言います。
下塗りとか中塗りとか、仕上げの上塗りみたいな感じでやったり、外にも下塗り・中塗りがあって、上塗りというのは最後に漆喰をやることになります。大体は漆喰ですが、そうでなければ杉板とか焼き板とかを貼るという感じでした。
中は最後に仕上げの聚楽(じゅらく)を塗ったり、繊維壁というキラキラ光るような物を塗るっていました。繊維壁は昔は綿壁と呼ばれていました。
小舞壁の中でも、今お伝えしたようなものは「和風新壁」という言葉で表されています。
僕がまだ社会人になりたての頃だと、当時の町の大工さんは「やっぱり家をつくるなら小舞を編んで土壁やろ」「土壁をやってる家とやってへん家はすごい違いがあるんじゃ」と言っていました。歳を取った棟梁とかだと特にそうでしたね。
小舞壁って今は廃れてしまいましたが、土なので耐火性があるんですね。それからヌキというのも今は廃れてしまいました。木造の耐力壁と聞くと、今は筋交いが頭に浮かびます。でも、いろんな振動試験を実施している構造の先生によると、貫をしっかり入れていて網で組んでいた壁は、耐震性にも力があるとおっしゃっています。
先程も言いましたが、土を使っていて、さらに藁が入ったりして空隙があるので、調湿性があるのも特徴です。例えば蔵の壁がまさにそうでしたが、蔵の中に入るとひんやりするんですね。これは壁に土が使われていて遮熱性とか断熱性能があるからです。
遮音性があるのも特徴ですね。
昔は悪さをしたら、おじいちゃんやおばあちゃんに「お前みたいな悪い子は入れておく!」って蔵に入れられたことがありました。入ったら真っ暗でシーンとして怖かったです。音が全然入って来ないからですね。
というようなことで、小舞壁の土壁というのは、昔は最高級だし理想の外壁でした。
その後、世の中に左官屋さんとか職人さんが減ってきたことや、作るのにかなりの手間が掛かることから、高度経済成長の時代から日本に別の壁が登場してきました。モルタル大壁というやつです。
モルタル大壁がどういうものかと言うと、和風新壁の断面図をシンプルにした感じです。
柱があって、柱の外側にはバラ板とかラス地と言われる薄い板をペタペタと貼って、それにフェルトとかルーフィングという防水紙を貼っていました。モルタルを付けるための網も張って、タッカーという大きなホッチキスのような道具でバチンバチンと留めるんですね。そこに下塗りのモルタルを塗って壁を作っていました。
がらんどうの壁も多かったですが、気の利いた人だと薄い断熱材を入れたり、内側に使う壁も、壁でなく石膏ボードにしていました。
これが「モルタル大壁」ということで和風新壁から進歩しました。
ただモルタル大壁には問題がありました。結露です。
ルーフィングというのは、雨水が入らないように、防水のためにするものです。ルーフィングは雨水も入れないけど、湿気も外に出してくれないんですね。
人間が家に住んでいると、水分がでます。呼吸とかでも出ます。人間1人で10リットルぐらい水分が出るという人もいます。さらに室内では料理などもしますから、すごい水分が出ています。
そういった活動で湿気が壁に入ってきた時に、断熱材がちゃんと効いていなかったり、断熱材の下に気流止めをして隙間風が入らないようにしていないと、冬場に結露が発生します。
結露というのはすぐに被害や影響が出ないのが、また怖いところです。10年ぐらい経過したモルタル大壁をめくってみたら、中が腐っていたということが多発したんですね。
そういったこともあって、長い間、小舞壁をよしとしてきたおじいちゃんたちは僕に「土壁にせなアカン」と言っていた、というのもあります。
一方でモルタル大壁は、小舞壁と比べて左官の工数も減るし、材料も少なく済むので、シンプルにできるという面があります。
モルタル大壁の結露について、やきもきした時代って長かったと思います。
室内でストーブを使っていて、やかんを置く習慣があった家だと、モルタル大壁が悪さしたことがありますし、モルタルも割れることがありますから、水が入ってしまうとうまいこと抜けなかったという話も聞いています。そういった状況に、左官屋さんもどんどん減ってきた時代背景も加わって、次に登場したのが「大壁通気工法」というものになります。
「大壁通気工法」の断面は過去の動画でも度々登場してきました。なので「何回も観たよ」と言われると思いますが、もう1度説明をしておきます。
柱に対して、バラ板ではなく面材というものを貼ります。これが耐力面材というもので、針葉樹の合板からMDFやダイライト・モイス・あんしん・ハイベストウッドなど、いろいろな種類があります。
それを貼って、その上に「透湿防水シート」というものを貼ります。
昔はルーフィングでしたが、大壁通気工法ということを考案された時に「透湿防水シート」というのが登場しました。これは防水もするけど、内側の湿気も吐き出してくれるものです。
防寒着のスキーウェアで、ゴアテックスという素材がありますよね。雨は通さないけど、湿気は通すというものです。昔の雨具は湿気も通さなかったので、着ていると蒸れ蒸れになっていました。ゴアテックスは自分の体から出る水蒸気を、外に出してくれるような素材になっています。「透湿防水シート」は住宅版のゴアテックスみたいなものです。
「透湿防水シート」というものが登場したので、出された水蒸気を外に吐き出すための通気層も必要になります。いわゆる縦胴縁・横胴縁というもので、通気層を確保して、その上に表面の外壁を貼るという工法が確立しました。
「大壁通気工法」は何が利点かと言うと、断熱性能が高まります。柱の間ぜんぶに断熱材を入れられるようになったからです。
話した内容をまとめていきます。
「大壁通気工法」は、今説明したものに耐力面材を貼り、内装側の方にも気密シートという気密を高めるシートを入れることができるようになりました。さらに湿気が入りにくくなり、建物の気密が高まり、気流止めもやりやすくなりました。こういった付加価値が付くようになりました。
ここまでの歴史を振り返ると、昔は高級品だった和風新壁の小舞壁が持っていた利点が、今の「大壁通気工法」にアジャストしているんですね。
例えば外壁材に面材を貼るので、耐火性が高まりました。サイディングボードとか、それに見合うものとか、面材にもダイライトとかタイガーEXボードのようなものだと、燃えない性能があります。なので耐火性が高まりました。
さらに、この面材によって耐震性が高まりました。
和風新壁というのは柱とかが露出していました。
柱が枠のようになっていて、その間が壁という構造でした。それが大壁という防水性のある物で柱を囲めるようになったので、構造用集成材が使えるようになったんですね。
構造用集成材を嫌う人がいますが、あれがなぜ嫌われるかというと、もし水に濡れたら接着剤が切れちゃって強度が落ちるという心配があるからです。でも防水性のあるものでくるっと囲めば、さすがに構造用集成材が剥離して、構造が著しく損傷されるほどに傷むことは、確率が非常に少なくなりました。
さらに集成材も使えるようになったので、コストコントロールとか構造コントロールがしやすくなりました。
調湿性に関しては、どちらかと言うと室内の表面に珪藻土を塗ったり調湿効果のあるクロスを貼ったりすることによって、一定の調湿はできるようになりました。(昔の荒壁並みとではないかもしれませんが。)
さらに今は高気密・高断熱が可能になって、空調による調湿も可能になったので、壁で調湿しなくてもよくなっています。
それから断熱材を入れることができるので断熱性能が高まりました。
面材・断熱材・気密材とか全部を合わせて気密が高まったというのもあります。気密が高まると音が入って来なくなりますよね。音というのは壁を突っ切るだけでなく、隙間から入ってくることの方が多いです。気密の高い家に住んでいると実感しますが、とても静かです。昔求められていた遮音性も担保できるようになりました。昔の小舞壁に比べたら手間が減るし、価格もリーズナブルです。
この話は、昔の壁を悪く言うためではありません。人間の良き発明だというのをお伝えしたくてお話ししました。
僕が今回伝えたことを知っていただくと、今の時代にポピュラーな壁は、長い歴史で考えたら理想の外壁になっているんだということがわかると思います。
僕は年寄りで昔の家づくりも知っていますので、今回長々と解説をしました。今回の話を知っていただいて、ポイントを押さえていただきながら、安心して家づくりを進めていただければと思います。