平屋で小屋裏エアコンはむずかしい?そのポイントを考える
今回は平屋で小屋裏エアコンを設置する時に気を付けることについて解説します。
最近は少し暑くなってきました。こういうシーズンになってくると、小屋裏エアコンを冷房で活用することが多いです。小屋裏エアコンの相談を受ける中で聞いた話では、どなたがおっしゃったのかはわからないんですけど「平屋で小屋裏エアコンは難しい」「平屋で小屋裏エアコンはよくない」とおっしゃる方が多いそうです。
そこで、平屋で小屋裏エアコンを設置する時にどんなことを気にしながらやったらいいかという話ができればと思います。
まず「平屋」「2階建て」という以前の話として、小屋裏エアコンがうまくいかない方がやりがちな失敗が、4つぐらいあると思っています。
1つ目が屋根断熱が不十分ということです。小屋裏エアコンはその名の通り、屋根裏(天井裏)にエアコンを設えた空調室を作ります。この辺りの断熱は、一般的には天井断熱と言って、天井部分で断熱をとっているケースが多いのです。しかし空調室が天井裏にある場合では、断熱は屋根で取らないと意味がないんです。私の友人で小屋裏エアコンを設置しようと思っているちゃんとした建築士の方も、屋根の断熱が不十分なケースが多いとおっしゃっています。
最近は外皮計算などでUA値を出したりします。UA値はU値のアベレージなので、家全体として0.6とか0.5などの数値がでますが、個別の場所ごとに、屋根や壁に対してどんなバランスにするかは建築士の判断に委ねられます。この時に、小屋裏エアコンをやる場合には、トータルでUA値はクリアしていても、絶対に屋根断熱が優位になっていないといけないんです。簡単に言うと、厚い断熱をしないといけないということです。屋根は一番熱を受けるところなので、屋根断熱が不足していると小屋裏エアコンは効きにくいです。一般的にはグラスウールやセルロースで200mmぐらいの厚みが必要です。高性能なフェノール系であれば半分(100mm)にしてもいいとは思いますが、それだけの断熱がないと、小屋裏エアコンは失敗しがちになります。
2つ目は日射遮蔽が不十分ということです。小屋裏エアコンが効かないというお家をよく見ると、太陽の光が窓からガンガン入っていることが多いです。そういうお家は普通のルームエアコンでも冷えにくくなるので、日射をシャットアウトする必要があります。日射遮蔽はどんな家でもできます。敷地条件が悪くても、窓がすごく大きくても、庇をきっちり出したり、日除けをしっかり下げるなどをすれば、100%日射遮蔽することも可能です。
3つ目がリターン開口が小さい・狭い・場所が悪いことです。ルームエアコンの冷やされる前の冷気を吸う箇所を「リターン」と言います。ルームエアコンのリターンはエアコンの機械として成立しているからいいんですけど、小屋裏エアコンが入っているスペースも、次に冷やすべき暖かい空気を入れる必要があります。それを、リターン開口を開けて吸うんですけど、このリターン開口が開いてるんだけど小さい・狭い・場所が悪いことが多いです。
4つ目が小屋裏エアコンの送風のルートで、廊下・水回りを忘れていることです。水回りや廊下は北側になっていることが多いので、そこまで冷たい空気を直接供給しなくてもなんとなく涼しくなることはあります。でも、例えばビシッと締め切っているところだと、一定のルートを確保していないとうまく冷えないです。
だいたいこの4つがやりがちな失敗です。
そういう基本を踏まえた上でも、小屋裏エアコンの難しいポイントとして「小屋裏エアコンの冷気を各部屋に分配していくのが難しい」「分配しても設定温度通りにコントロールしにくい」「夏型結露が心配」と言われています。夏型結露に関しては、違う動画で解説しているので、そちらを見てください。
小屋裏エアコンを各部屋に分配していくのが難しいのは、送る風量の問題が大きいのではないかと思います。初期の小屋裏エアコンをやってきた方たちは「エアパスファン」という、間仕切りがある中で緩やかに送っていくような送風設備を選ばれていることが多かったです。エアパスファンを使用すると、送る風量が弱いと感じる方も多いと思います。なのでしっかりした流量が送れるファンを選ぶことが大切です。これを適正に選んで、小屋裏を中心にして各部屋に分配すると、そんなに難しくないと思います。この時のポイントは、ダクトの長さを短くすることです。ダクトが長くなるとそれだけロスも起きやすくなります。
次に設定温度をコントロールしにくい問題は、送風ルートのスイッチが強と弱の2段階で切り替えできたらいいと思います。また、小屋裏エアコンはルームエアコンのように、暑いから2度下げるとか寒いから2度上げるということをすぐできないです。どちらかというと、空調を24時間運用に近い形にしてもらって、室温だけでなく壁・天井・床の表面温度も一定にしていくべきです。室温が何度になっているかより、自分が心地良い温度になっていることが重要なので、冷気の振り方・塩梅がとても大切です。
居住スペースを心地良い室温にするには、できるだけ限りなく空間をワンルーム化することと、小屋裏エアコンの空調スペースから各部屋に送るルートを短くするということで、かなり改善ができると思います。例えば好き放題勝手な平屋を作って、L型の変形で伸びたところに部屋があるような形だと、小屋裏エアコンは難しいと思うし、力技も必要になってくると思います。平屋で小屋裏エアコンをうまく使うためには、プランの配置で8割ぐらいの勝負が決まってしまうことを知ってほしいです。
最後に、昨今は地球の気候変動の影響で、すごく湿気が多くなっています。私たちも1つ研究課題として思っているのですが、湿気が多くなってきた現代の日本では、想定していたより夏型結露が助長されています。小屋裏エアコンでどこが夏型結露しやすいかというと、屋根断熱と小屋裏の境目のところです。
設定温度をすごく下げて、風量もビューッと出して小屋裏エアコンを使わないと気が済まないお施主さんもいらっしゃいますが、そういう場合は夏型結露が起こりやすいです。なぜかというと、強い冷気がどこかの面にずっと当たり続けると、そこの表面温度はすごく下がるからです。なので小屋裏の断熱と小屋裏空間との間の、一般的に気密ライン(ベーパーバリアのライン)と言われるところに、可変性の透湿気密シートを使うことを絶対おすすめします。
可変型というのは、簡単に言うとスキーウェアのゴアテックスみたいなものです。ゴアテックスは、雨水は入れないけど、人間が運動してかく汗(湿気の水蒸気)は外に出してくれます。でも冷たい雨や雪は中に入れないような性能があり、そういう素材の建築版が可変性の透湿気密シートです。夏型結露が起きるまでには、外気から侵入した水蒸気が表面で冷たい温度に冷やされて、結露して水に変わっていくんですけど、それまでは水蒸気の状態です。水蒸気の段階であればそのシートは通っていけます。でも気密は保持されるという、不思議な性能のシートがあるので、これを使っていただいたらと思います。「VCLスマート」という商品など、いろんなメーカーさんでいろんな種類が出されています。「可変性の透湿気密シート」と検索したら出てくると思います。
合わせて1つ思うのは、可変シートに冷たい風が直接当たらないように薄い断熱材などで小屋裏空間を囲うと、夏型結露に関してはかなり防ぐことができると思います。例えば石膏ボードのような不燃材や、EPSでもいいと思います。
こういうところを押さえて平屋で小屋裏エアコンをやっていただいたら、すごく快適な平屋が夏場に向けて完成していくと思いますので、ぜひ参考にしてみてください。