玄関土間の仕上げを考える
今日は玄関の土間について解説をしていきたいと思います。
玄関土間には、ポーチも含めて30cm角の大きなサイズのタイルを貼られているのが主流かなと思います。大手ハウスメーカーや、ローコスト住宅と言われるものも含めて、大体そういう仕様になっていることが多いです。
ある若いお施主さんとのやり取りで、こういうことを言われました。「タイル貼りって今はどうなんですかね?玄関土間ってもっとノーブルというかシンプルな方がカッコいいんじゃないかなと思うのですが」みたいな質問です。
その話を聞いて、ごもっともだと思いました。と言うのも、私の師匠の松尾先生など、家のディテールやデザインにこだわりを持つ建築家は「玄関がタイル貼りじゃなくてモルタル仕上げになっている方が、デザイン的に優れているケースが増えたよね」「家を見る時の1つのバロメーターだね」なんておっしゃるぐらいだからです。
玄関土間とはどういうことかをまずお話しします。字をよく見ると土の間と書くじゃないですか。でも今時、玄関が土の家ってありませんよね。いわゆる土足で上がれる間という意味みたいに、土間という言葉が独り歩きしてる状態だと思います。
昔の日本の家屋は、玄関から入った所は土の間でした。3つの和の土と書く三和土(たたき)と通称で呼ばれています。赤土・砂利・石灰・にがりなど、ブレンド方法は地方でそれぞれにあります。
石灰が入っているとセメントに近いので、水和と言って、締まっていく・硬化していく性能があるのです。そうすると、土だけど締められて硬くなって使い勝手が良くなります。
昔の台所は土間が延長されていて、おくどさん(かまど)が並んでいました。火の粉が飛んでも土の間だから何ともなかったし、井戸水と一緒で土そのものなので意外と温度が一定でした。夏はひんやりして、冬は意外と暖かい。そういうこともあって、土間って非常になかなかいいものだったのです。
一方で、土間はそのまま湿気が上がってくるから、それがどうなのかみたいなこともあって、徐々に廃れてきたところだと思います。
土間の話を最初に持ってきたのは、昔の言葉で「お前はうちの敷居は跨がせない」という言葉があるじゃないですか。お城の門を見ると、必ず1段敷居が入っていました。結界というか、外と内を敷居で分けられています。その敷居を跨がせないというのは、うちの家には入れないという意味だったのです。
そのため玄関土間を考える時は、土間の入り口である玄関扉周りの成り立ちも同時に知っておいていただけるといいのかなと思いました。長い前置きになりましたが、まずはそこから解説していきたいと思います。
玄関の建具(たてぐ)、つまり扉は多くの場合は必ず縦枠と上枠の三方で保持されています。最も多いパターンは、縦枠が下の土間まで突き刺さるものです。そして、土間の床のラインから1段上がる所に、上がり框(がまち)があります。玄関の上がり口にある大きな角材みたいなものです。
これまでの多くの家の上がり框は、10cm・12cmぐらいの厚みがあるものでした。この厚みで、外壁周りに框の延長みたいな感じでぐるりとフチが付いていたりするのです。これを付け巾木と言い、それより下が土間になります。デザイン的には付け巾木とかタイル見切り大という言い方をします。付け巾木の上には、床の上の延長で巾木も通っていました。これがスタンダードな納まりだと思います。
土間からの立ち上がりに関しては、タイルが貼られたりしていました。左官仕事でモルタルが塗ってあったり、洗い出しがしてあったりもします。外にある玄関は、階段状にステップが切られているものが多かったと思います。
また、今は昔のように敷居は入っていません。入っていてもフラットです。水返しの分の何mmかは上がってると思いますが、昔で言う敷居を跨ぐ感覚はやや薄れていると思います。
松尾先生と話をした時に、デザイン的に従来の量産型の家がやっているような納まりに比べてスッキリしていて、なおかつ納まりがいいと思った土間の特徴をご紹介します。
1つは、付け巾木と言われていた部分がタイル見切り小ということで小さくなっています。最近は高気密・高断熱で、玄関の中も暖かい家が増えました。そうすると、玄関土間の巾木の立ち上がりは真裏が基礎で外気に面していることが多いため、冬場に結露しやすいという問題があるのです。そのため、内側に断熱材を入れた形をオススメしています。その際、付け巾木だとゴツくなって重苦しくなるから、小さなもので納めるといいです。
建具の縦枠は基本的に土間に突き刺してありますが、私は見切りの部分で切って、下はモルタルとかタイルで巻き込むような形をオススメします。というのも、土間はたまには水洗いしたい時があるじゃないですか。湿気は地面から上がってくるので、縦枠は腐りやすいのです。ここからシロアリが来たりすることもあるので、今は見切りの部分で切った形の納まりが有効だと思います。
本来の和風の玄関の枠の納まりで言うと、ひょっとしたら古い大工さんからは邪道だと怒られるかもしれませんが、私はこういうのがいいと思っています。
松尾先生たちいわく、「見切りをスマートにして、上にある巾木はなくてもいいぐらいだし、ごく小さなものでやると玄関周りが非常にスッキリしてカッコよくなるよ」とおっしゃっています。
玄関土間を考えるにあたっては、こういうところをどういう風に納めていくかをまず思ってほしいです。冒頭のお施主さんは、玄関土間の仕上がりだけを聞きたかったのかもしれませんが、そういう部分の中でどう納めるかも重要になってきます。
土間に関しては、一般的にモルタル仕上げというセメントと砂と水を混ぜたもので綺麗に押さえていきますが、大きく言うと3つの仕上げ方があります。1番が一番馴染みのいい、モルタルの金ゴテ押さえというやつです。
最初は水でジャブジャブやる感じですが、3回ぐらい押さえていくとだんだん表面の凸凹が小さくなってきます。最後は鏡面に近いぐらいツルツルに仕上がっていくのです。見た目もすっきりするし、掃除もラクにできます。
多くの場合はセメントそのものの色ですが、これに例えば炭や紅殻を入れたりして、黒や赤っぽいとか着色もできます。今は他の色もあると思います。黒でやると最初はまっ黒ですが、時間が経って硬化が進んでくると、ちょっと色が薄れてブルーグレーみたいな感じになるのです。意匠的に面白くて好きな人もいらっしゃると思います。
もう1つは、洗い出し仕上げです。モルタルはセメントと骨材(砂)を入れていきますが、洗い出しでは目が粗く粒粒がハッキリしている砂利を入れます。砂利を入れて押さえていくと、だんだんセメントのノロみたいな表面ができてくるので、ある程度硬化したら砂利が敷き詰められたような感じで固定するのです。
乾ききらないうちに、ジョウロ状の物でサーッと流していって、わざと砂利のキメを出していきます。これにはいろいろやり方があって、生コンに細かい砂利を入れたジャミコンを使って仕上げるパターンや、ある程度モルタルを押さえてから砂利をまいてやる方法。また、砂利が入ったネットみたいなものをタイルみたいに並べるパターンや、水で流すか薬品の力で剥離するかの違いもあります。デザイン的に表情が豊かというか、割れも目立ちにくいです。
モルタルは金ゴテ押さえだと割れやすく、真心を込めて施工しても絶対に割れないとは言えません。もし割れが気になるような方は、洗い出し仕上げもオススメです。割れないわけではありませんが、目立ちにくいです。
3つ目が刷毛引き仕上げです。ほうきの掃き目を付けるとか、ハケの刷毛目という意味もあります。モルタルを押さえてある程度洗い出しした段階で、ハケでシューッと思い切りよく左官屋さんがやっていくのですが、横で見ていると楽しいです。
洗い出しほど表情は付きませんが、モルタル仕上げに比べるとマットな仕上がりで滑りにくくなるので、車庫・スロープみたいな所に向きます。玄関の中はやってもいいですが、比較的キメがあって泥を流しにくかったりするので、好みで選んでもらえたらと思います。
刷毛引きをやる時、面を全部ハケでやるのではなく、最後に金ゴテで四角の際だけフチ取る感じで塗って押さえてもらうと、綺麗です。入隅の際って物が挟まりやすかったりするので、それがあると掃除もしやすいし見た目も綺麗になります。
車庫でよくコンクリートの一発押さえのモルタル仕上げをすることがありますが、意外とタイヤの跡が付きます。新築してすぐに何回か乗り入れしたら、黒くタイヤの跡が付くのですが、刷毛引き仕上げなら意外と付きません。刷毛引きは筋が入っているから汚れが付きそうに感じますが、意外と目立たないのです。これは玄関というより土間として考えた時にオススメではあります。
あとはモルタル仕上げは割れるのが宿命なので、それを和らげる意味でシビ切りという目地を入れてもらうといいです。大工さんが定規を当ててピュッと一発でやりますが、あれをやってもらうと割れますが、割れをそこに逃していくので、見た目に目立ちません。補修も簡単です。
あとは目地棒と言って、真鍮とか樹脂の棒を見切りに入れて、そこで肌分かれさせて割れを吸収するやり方もあります。
玄関のステップの先にもシビを切っておいてもらうと、割れがそこで止まるしノンスリップの代わりにもなるので、足掛けする時に滑りにくくなります。金ゴテ押さえはツルッとしていて滑りやすいので、それもオススメです。
最後にステップのやり方もご紹介します。コンクリートの一発押さえで作る時、ステップの蹴上げの部分をわざと凹ませるのです。これも綺麗ですよ。
玄関土間の仕上げの話として、広くお話ししました。土間の仕上げでモルタル等をされる方は、玄関の敷居や扉周りの納まりと合わせてどういう仕上げにするか選んでもらえたら、面白いものになると思います。ぜひ参考にしてみてください。