安全な浴室の手すりの高さを考える
今日は、安全で使いやすい浴室の手すりの高さについて、解説します。
先日、私の母親・父親と同世代のお客様とお話をする機会がありました。「今の既築の家も築年数が経ってきたけど、施設に入らず、なるべく奥さんと2人で協力しあって安全に住み続けたい」とご相談を受けたのです。自分の親を見ているような感じでした。
お子さんと一緒になって今の家を暮らしやすくするのは、とても幸せなことだなと思います。そんなことがあって、今回は急遽この話をしようと思いました。
さて、1616サイズ・1717サイズぐらいで、正面に洗い場・シャワーがある、よくあるスクエアな造りの浴室の手すりを考えるとしましょう。この時、付けるといい位置は5ヵ所ぐらいあります。
1番が入り口を入った所です。もう1つが洗い場に進んでいく所で、壁に寄りかかるための手すり。3つ目が洗い場の正面付近。4つ目が1の裏返しで、洗い場から浴槽に入る場所。そして洗い場に入った所の手すり。この5ヵ所が候補かなと思います。全部付けるのもいいし、組み合わせで必要な場所に付けるのもアリです。
順番に高さを押さえていきましょう。まず、入り口の横に手すりが付いていることが多いです。これはなぜ必要かというと、一般的にお風呂の洗い場って水返しで脱衣場からレベル(高さ)が高いケースが多いですよね。最近はバリアフリーでほぼ揃(ぞろ)ですが、昔のタイル張りのお風呂だと必ず7〜8cmから10cmぐらいの段差がありました。
ここに下りる時、タイルだから滑るじゃないですか。だからツルッとならないよう、持ちながら下りるために付いているといいのです。特に寒いと、体が硬直した感じで浴室に入っていくことも昔は多かったと思います。入り口で転ぶ事故が結構あったらしいので、付けるようになりました。
この手すりは、入り口の敷居から75cmぐらい上がった所から60cmほどあるといいと思います。人間ってよろけたらどこを触るかわからないので、握りしろが広いといいです。入り口の段差がフラットなら750mmでいいですが、もし1段低くなっているなら、その分は下げてください。
平均身長的に150〜165cmぐらいの方だと、床面から75cmぐらいのところで大体合うと思います。もっと小さいおばあちゃんとかだと、もう少し寸法を下げなければならないかもしれませんが、大体それが目安です。
そして2つ目、入り口から入って横にある、壁によりかかるように持つ手すりです。一旦洗い場の床面に下りてくると、大体床から75〜80cmぐらいあれば手頃かなと思いますちょっと高い方がぶら下がる感じで持ちやすい人もいらっしゃるので、ここはお好みです。
お風呂の入り方はいろいろありますよね。掛け湯をしたり、先に洗ってから浴槽に入る方もいると思います。そこであったら便利な手すりは、洗い場の正面です。洗い場の正面には、今は少なくなりましたが鏡を付けていることがあります。鏡をかわした横で、座って洗うことが多いですよね。
特に歳を取って洗う時に、座椅子がないとやりにくいので、しっかりした安定感のある座椅子は必須です。座椅子は40cmぐらいの高さが多いので、手すりとしては床面から60cm上がって80cmぐらいの長さがあると、座る時もそれを持ちながら座れるし、立つ時にそれを持ちながら立てるので安心です。
若い人は何を言っているかわからないと思うかもしれませんが、歳を取ってくると意外と座る瞬間・立つ瞬間にストレスや不安があるのです。こういう風にしていただくと、座って洗って立つ時にも非常にいい感じなので、こういう手すりも非常に有効だということを知っておいてください。
次にあるのが4番目ですが、1番目を兼ねる時もあると思います。湯船に入る時、洗い場と浴槽の底はできれば同レベルが一番危なくないです。でも少し低くなっていることが多いと思うので、15cm以内にしてもらってください。
昔のお風呂は、洗い場よりすごく深いお風呂がありました。あれは結構入りにくいです。跨ぐ時に、着地点のレベルが変わらないのがいいし、浴槽を跨ぐ高さはせいぜい40cmまでにした方がいいと思います。
それよりも高かったら跨ぐのに跨ぎにくいので、手すりを付ける以前に洗い場の高さの調整が必要になるかもしれません。そういう形でいくと、浴槽の底から80cmで、高さも80cmぐらいあると入る時にストレスがないです。安心感を持って、入りやすくなります。
最後に、手すりを持ちながら浴槽にゆっくり浸かっていきます。浸かってからは足を伸ばしていくので、そこから手すりを持ってぐっと起きて立ち上がっていく。ここには、L型の手すりを推奨します。
もちろん、底から70〜80cmぐらいの手すりを使って立てる方もいるかもしれませんが、縦に長い方が踏ん張りが効きます。寄りかかって持つよりも、引っ張る方がラクなのです。
ここで1つ注意していただきたいのが、浴槽はフタを閉めることがあるため、浴槽の高さスレスレで水平の手すりがあるとフタが閉めにくい問題が出てきます。個人的には、10cm以上は空けておいた方がいいのかなと思います。底から70〜80cm、そして高さは同じように80cmぐらいあると、非常に機能的には手すりがとても使いやすくなると思います。
冒頭のシニアのお客様の言葉に、とても感銘を受けました。「もちろん子どもの世話にもなると思うけど、できるだけ迷惑をかけず、自分のことは自分でしてケガせず健康で長生きしたい」「苦労をかけた女房と一緒に長く暮らしたい」とおっしゃるのです。人生の大先輩は、最後にそういう風に思われるんだなと思いました。
若い時には手すりなんてあまり考えませんでした。自分が安全にお風呂に入るというように、自分で自分の面倒を見るためには、美観は損なうかもしれませんがとても大切なことだと思います。
できればぜひみなさんも、新築時に安全な手すりの高さを考えていただいたり、ご実家のリフォームで後付けもできると思いますので、考えてみてください。こういうことを頭に置いて作ってもらえると、お父さんとお母さんも快適に過ごしてもらえると思います。ぜひ参考にしてください。