付加断熱はやる方がいいのか?
今日は、付加断熱をやった方がいいのかどうかの判断方法について、お話しします。
あるお客様から「断熱をしっかりやりたいんですけど、やっぱり付加断熱はやった方がいいですかね?」という質問を受けました。そのことについて解説していきたいと思います。
みなさん付加断熱ってご存知でしょうか。文字通りですが、付け加える断熱ということです。まず断熱には内断熱と外断熱があります。建物の柱とか梁のスペースに断熱を入れるのを、内断熱と言います。それに対して、柱とか梁の外側に断熱材を使うことを外断熱と呼んでいます。
簡単に言うと、付加断熱は内と外が一緒になったものみたいに捉えてもらってもいいんじゃないかなと思います。ベースは内断熱ですが、それに外断熱材を付加する。こういうことを付加断熱と言うのです。
付加断熱なんて専門的な言い回しなので、ダブル断熱と言う方がお客様にとってはピンと来るかもしれません。やる方が良いのか・悪いのかと言うと、それはやったに越したことはないです。断熱材が増えるわけですから。
また、いわゆる木地や柱とかの木材は、鉄とかアルミほどではありませんが、断熱材に比べると幾分かは熱を伝えやすいです。厳しい見方では、断熱に対してこういう所が熱橋になるとされます。
僕たちが思う熱橋は、耐震の金物なんかが貫通していて、その金属の所を熱が伝わってきてそこが結露しやすい、みたいなことを思います。しかし、こういう木材も熱橋になり得るとすると、外に断熱材を貼ってカバーするわけなので、熱の移動が防げるのです。
サーモグラフィーで見たら一目瞭然なんですけど、断熱材を貼る前に見たら、温度は厳密に言うと差があるので、柱の部分と断熱材の部分で色が変わる。でも外の付加断熱を付けると、これが途端に均一になります。なので、より良い。これは間違いがないんです。
冒頭の方の「やった方がいいですかね?」というのは、ただ良いか・悪いかという質問ではないと思います。例えば、付加断熱をやったらその分のお金が掛かりますよね。「お金をある程度掛けないと思う性能は出ないですか?」ということを心配されて、聞かれたのだと思うんです。
そうすると話は違ってきて、そもそも壁の評価はどうやってするのか、というところに戻らないといけません。壁の評価方法はいろいろあるんですけど、端的にわかるのは熱抵抗値だと思います。
例えばグラスウールよりネオマフォームの方が優秀だとか、セルロースファイバーと比べてグラスウールはどうだとか。こういうことを言う時、強弱を表すものに熱伝導率という言葉があります。これは文字通り、熱が伝わりやすい率を表わすものです。
それでいくと、物質のある厚さ単位あたりに対しては、グラスウールとネオマフォームを比べたら、ネオマフォームの方が優秀だということになります。また、セルロースファイバーとグラスウールの普通の16Kぐらいで比べたら、厳密に言うとちょっと差があるかもしれませんけど、ほぼ一緒みたいな評価になるのです。
でも、断熱の性能ということになると、熱伝導率ということだけでは評価ができないんです。なぜかと言うと、断熱材に厚みがあるからです。もちろん、薄いよりも分厚い方が良いに決まってますよね。
「◯◯という断熱材を使えば良い」と言うのは乱暴な話です。「何mmあるいは何cmの断熱材を使うんですか?」ということに左右されるからです。それを評価に置き換えたのが熱抵抗値という言葉になります。一般的に熱抵抗値は、断熱材の厚さを熱伝導率で割って出します。単位は㎡K/Wで、計算式は厚さ[m]÷熱伝導率[W/(m・K)]です。
例えば、一般的に使うことの多いグラスウール16Kの10cmだと、どうでしょう。10cmはmに置き換えたら0.1になりますから、0.1÷0.038(熱伝導率)で2.63ということになります。
また、さっき申し上げたネオマフォームはフェノール系断熱材です。外断熱に貼ってあるのは40mmのものが多い印象ですが、40mmだったら0.04÷0.02になります。グラスウールの熱伝導率0.038と比べたらネオマフォームは0.02だから、半分ぐらい熱が伝わりにくくて優秀ですよね。しかし、40mmしかなかったら1.18の熱抵抗値になります。
熱抵抗値というのは数が多いほど断熱性が高いことになるので、この比較で言うと、グラスウールがダメでフェノールがいいということにはなりません。もちろんフェノールを50mmにしたら2.5だから、ほぼ拮抗するんですけどね。
また、EPSという発泡スチロールみたいな物がありますが、我々の会社もこれを付加断熱で使っています。EPSにはいろいろ種類があるのですが、一応今回は熱伝導率0.038ということにしておきましょう。これが5cmだったら、熱抵抗値は1.31、2cm5mmだったら0.65になります。ということは、グラスウールの16Kを内断熱で使って、2cm5mmのEPSを使った場合、熱抵抗値は合計3.28になるのです。
例えば、内断熱でグラスウールを32Kタイプにして、柱の太さは大体105mmが多いので目一杯105mmを使うと、0.105から0.32になると3.28㎡K/Wになるんです。そうすると、先程の熱抵抗値と同じになりますよね。
こういう風に、内断熱にして付加断熱はなくてもいいという判断も、できないことはないです。もちろん厳密な外皮計算では、柱とか間柱の分の弱い部分のことも鑑みるから、完全に一緒にはなりません。ざっくり計算なので、あまり細かい話とは思わないでくださいね。
付加断熱をコストと両建てで、ある一定の性能を得たいと考えるなら、こういう風に熱抵抗値で押さえて、熱抵抗値あたりにコストがどうかというところで判断をしてほしいです。難しいかもしれませんが、プロの方に相談すればきちんと答えてくれると思うので、それを持ってご自分の家をどうするかを考えてみてください。
寒冷地では付加断熱をやっておいた方がいいかな、と僕も思います。しかし5地域・6地域なら、付加断熱をしなくてもある程度いけるという感触もあります。
熱抵抗値をはじめとする建物の断熱性能は大事ですが、もっと大事なことは窓の性能です。例えばEPSの50mmじゃなくて25mmで、HEAT20のG2と言われてるものをクリアしようとすると、窓は一部トリプルを使わないと難しいという印象があります。断熱性もそうですが、付加断熱したから全てがOKではなく、窓の性能も考えなければなりません。
外断熱みたいな話は、外付加と僕たちが呼んでいる、外に付加断熱をやるという方法が主流です。例えば、用途地域によって壁面後退の問題で付加断熱したら、1m取れないという問題があったりするじゃないですか。
それから、民法で言う50cmを切ってしまって、近隣の同意が必要になることもあります。隣の人と折り合いが悪くて取れない時であっても、付加断熱したい場合には、こういう方法もあります。内付加断熱と言われているものです。
建物は大体910mmのモジュールで割って構成されています。柱通りの外に外付加をやるんですけど、それが向かない時にはどうするかと言うと、内側に付加するんです。そういう方法もあります。
この時に1つ問題になるのが、部屋内が狭くなるという問題です。これは木造の建物に関する特権みたいなものですが、外側の外周に相当する所のグリッドだけ、少し広くするという面白いやり方があります。
そうすると、広くなった分が外に広がるので、内側に付加断熱してもトータルであまり部屋内の広さは変わらない。こうやると狭さから逃げられることもありますので、こんなことも設計の選択肢にはあるということを知っておいてください。
ここまで考えて僕が一番思うのは、お客様が本当に欲しいのは、冬は暖かくて夏は涼しい家ですよね。そう考えたら、付加断熱をやるかどうかより、日射コントロールをどうするかの方が、影響が大きいと思います。
冬場はしっかり日射取得をして、夏場はしっかり日射遮蔽をしないと、いくら断熱性能と言ったところであまり意味がないのです。これらの掛け算ということで、付加断熱は考えた方がいいと思います。これらは高度なバランスが必要です。何か端的に1つやったからいいとか、そういうことではありません。
大して知識がない住宅営業の営業マンが、会社のトレーニングで教えてもらったからといって、「付加断熱(ダブル断熱)をしてるからうちの家はいいですよ」と言い切っている人もいると思います。確かにそれでいい部分もあるけど、それより大事なこともあるということを覚えておかないと、画竜点睛を欠くという感じになる。そんな気もします。
加えて、僕は松尾先生の門下生なので、日射コントロールだけでなく空調法も掛け算に入ってきます。ここまで行って初めて快適な家で、コストバランスが良い家になるんじゃないかなと思います。付加断熱をやる時は、そんな視点を持っていただいて、判断いただけたらと思います。ぜひ参考にしてみてください。