50年以上持つ家とは?(スケルトン・インフィル編)
今日は50年持つ家という視点から「スケルトン・インフィル」という言葉に焦点をあててお話したいと思います。
家を建てる際に、長期間(50年以上)安心して住めて、かつ、資産価値が長く続く家が欲しいというのは多くの方が思われることだと思います。これらは、いわゆる“耐久性要件”という名前で表現されるようなことです。
大切なことですが、そういうこと以上に考えてほしい内容もあります。
まず「長期間(50年以上)安心して住める」ことの前段部分をお伝えしますね。
例えば家の壁や屋根、構造が50年持つかどうかということは、建てられるみなさまが気にさえれますし、工務店さんやハウスメーカーさんが日々努力して研究している内容でもあります。実際、家づくりの現場を見ていても、いろんな技術が進んでいて、家の部材の品質は向上していますし、構成の耐用年数は年々伸びています。
一方で、耐久性というのは物理的・テクニカルなこと以外でも左右されています。ここで出てくるのが今回のテーマとなる間取りです。
例えば家の壁の場合、古くなったら「じゃあ張り替えようか」となりますが、間取りというのは家が完成したあとだと、変えるのがなかなか難しくなります。
でも人間の一生にはいろんな変化がありますよね。例えば結婚して新婚時代があって、お子さんが1人、2人産まれて子育てする時代があって、子どもが成長して巣立っていく過程の時代もあるし、その後は再び夫婦2人暮らしの時代に戻る、というのがあると思います。今どの時期にいるかによって、生活にベストな間取りというのは変わります。
私の妻の場合、実家は2階建てです。2階は妻と、妻のお兄さんの2人が使う部屋になっているそうです。今はどちらも実家には住んでいないので、2階は全然使われていない場所になるんですね。なのでご両親からすると、使うつもりで2階に部屋を作ったのに、ある日から2階がいらなくなったということになります。なので、間取りというのは流動的なものなんですね。
こういった状況に対して、1つ世の中に出たアイデアがあります。それが「スケルトン・インフィル」という構造です。設計士と建築士が議論して作られたものです。
ここで言う“スケルトン”というのは、外壁とか屋根を指します。インフィルというのはインという文字通り、その中にある間仕切りみたいなものを指します。
ツーバイフォーの建物であっても、在来木造の建物であっても、多くの場合、構造を支えている屋根・壁・床とか間仕切りというのは兼用されています。なので将来、生活スタイルが変わって「この間仕切りいらないから取りたいな」となっても、この間仕切りを取ったら2階の床が抜けてしまう、屋根が落ちてくる、ということが発生します。
スケルトン・インフィルは、こういったことがないように構造は構造で側が成り立っていて、中の間仕切りは割と自由に変えられる仕組みになっています。
スケルトン・インフィル構造の例を描いてみました。東北芸術工科大学の教授で「みかんぐみ」というグループの代表をされてる竹内昌義先生が発表されていた間取りになります。
これを見た時「さすがやなぁ。すごいよく考えてあるなぁ」と思った間取りなので、ぜひみなさんにも見ていただきたいです。
よくある4間角(8P×8P)の間取りを例に解説していきます。
シンプルな正方形のプランに見えますが、実は真ん中に2本の通し柱があります。極端な話をすると、これ以外の壁を取ったら、がらんどうにできるという構造なんです。(※実際は一部、耐力壁が要ります)
特に見ていただきたいのが2階部分。点線で「こんな風に間取りを切れますよ」という表現をしました。極端に言うと間仕切りは入れず、ホールのように広い形で使うこともできる間取りなんです。こういうものが「スケルトン・インフィル構造」というものになります。
これのスケルトン・インフィル構造はすごく良いです。
例えば家を建てた当初は、子どもが小さいので家族みんなで一緒に眠れるように、寝室を大きく取るとします。数年後、子どもが大きくなったら、寝室にしていた部屋の半分はそのまま寝室として使って、もう半分をウォークインクローゼットに変えることもできます。
あとは合いているスペースに間仕切りを入れて子ども部屋を2つ作ったり、間仕切りの配置によっては3つの部屋を取って、主寝室+納戸というような使い方もできます。自由に使えるわけです。
ということは、先程の話のように新婚時代から子育て、子どもの独立から夫婦2人暮らしになるまで、その期間に合わせて間取りを最適化できるということになります。
竹内先生がこのプランを発表された時に「自分が目指したのは住宅の価値が毀損しない、すごくシンプルで、かつプレーンなプランというのを考えた」とおっしゃっていました。プレーンなプランってかっこいいなと、僕は個人的にすごくシビレました。
住宅の価値自体が長期間にわたって損なわれないというのは、どういうことかと言うと、将来この家は住み継いでもらいやすいということに繋がります。
例えば、お父さんとお母さんが亡くなられて、お子さんたちが継ぐという使い方もありますよね。あるいは子どもたちはみんな巣立って例えば東京とか九州の方に住んでいるのであれば、自分たちの家を家族でない方にも住み継いでもらうことができるということです。
インフィルに可変性(フレキシビリティ)があれば、いろんな人に自由にフィットします。
竹内先生によるこのプランのポイントとしては、HEAT20 G2以上の省エネ性能に耐震等級3という、しっかりした基本性能を前提にして、間取りの自由度が高い家を作るということになります。そうすることで将来も、誰かに住み継いでいただける家というのが実現できます。
50年以上持つ高耐久の家を考えると、「タイル貼りにしたら高耐久になるかな?」とか「特殊な防振ダンパーを付けたら地震に強くなるからいいかな?」とか、部材や構造に目が行きがちです。でも一方で、長い期間住むのであれば、間取りの可変性というのも重要な要素になります。将来、自分たちが歳を取って家を別の方にお譲りすることを考えたとき、その人にとって受け入れてもらえるようなものかどうかを判断するうえでも大切なポイントになります。
ですから「自分たちが建てる家の間取りって、可変性はどういう風に担保しているんだろう?」というのも、ぜひ考えていただければなと思っています。