軒(のき)と庇(ひさし)の役割を考える
▼YouTubeチャンネルはこちら
https://bit.ly/m-athome
————-
今日のテーマは「軒(のき)と庇(ひさし)の役割」についてです。
最近日差しが強くなっていますし、もう少しすれば梅雨に入りますよね。軒と庇は、この日差しと雨の両方に関わるものです。
また、最近とある会合に行ったとき、若い人から「軒と庇の違いがよくわからない」という話が出てきたんですね。そのときに説明をしながら、これはみなさんにもシェアしたいなと思ったことがあったので解説をしたいと思います。
僕の板書を見てください。1軒の家があるとします。どんな家でも屋根がありますよね。屋根があって外壁との取り合いで出ているところ、これを通称、軒と言います。「軒先を借りる」という言葉がありますよね。あの軒先は、この部分のことを言います。庇は屋根に関係なく、太陽の日差しをカットする、雨から守るという意味でできているものです。
大きい屋根に掛かっているのが軒で、小さい屋根に掛かっているのが庇と思っていただくとわかりやすいです。
繰り返しになりますが、軒と庇には役割があります。その1つが雨を防ぐというものです。たった50〜60cmだとしても雨を防いでくれます。
2つ目の役割は汚れも防いでくれることです。雨というのは純粋な水ではないですよね。大気圏から降りてきますので、ホコリや花粉などいろんな物を含んで落ちてきます。雨が屋根から流れて壁に落ちようとするとき、軒や庇があれば、屋根に付着したゴミが壁にも付いてしまうのを防ぐことができます。
3つ目の役割は、日差しを防ぐことです。これは昨今の家づくりにおいて、あまり重要視されなくなっています。でも、この5月、6月というとは1年の中でも一番、太陽高度が高いです。太陽高度というのは高ければ高いほど、日差しが強くなります。なので、今の時期から夏が終わるまでは、太陽の日差しを防御することがすごく重要です。
気温は、まだそこまで高くないですが、これから梅雨を経て夏に入っていくとジリジリ上がっていきますよね。6月も日によっては暑い日が出てきます。この際に日差しをどうやってカットするかのカギとなるのが、庇と、日が入ってくる窓の
開口部の比率になります。
窓の高さ10に対して庇が3だとします。この比率だと夏場の太陽の日差しは、概ねカットできます。
太陽光の入射角は緯度によって強くなったり弱くなったりします。「自分が住んでいる地域はどうだろう?」と思われた方は、“太陽入射角”と調べてみてください。地域によって若干の違いがありますが、本州周辺ならば10:3で、ほぼカバーできると言われています。
ただし、この比率は家が真南に向いている時の最適値になります。敷地が45°とか振れていると、同じ太陽高度でも、家には斜めから日差しが差し込みますので、日差しをカットしようと考えるなら、庇を伸ばす必要があります。
この軒と庇というものは、日本の家屋において大事にしてきたものでした。一方で最近はフラットルーフと言われるものが増えています。スケッチに描いたように壁が伸びて、ルーフの勾配を利用して水が流れていくようになっています。4方がパラペットで真ん中にドレーンみたいなものがあって、水を流すようなものもあります。
こういったフラットな建物は、いま流行でもありますよね。でも軒や庇がないので、雨や汚れ、日差しから家を守ることができないです。
ちなみに、たった50cm・60cm・90cmの軒に、どれくらいの効果があるのかをお伝えします。例えば大きな総二階の家があったとして、軒が90cm出ていたとします。その軒の下には犬走りというものができます。犬走りというのは、建物の周辺にコンクリートなどで土間を作って石を並べるようなものです。文字どおり、建物の縁を犬が走って行けるようなところなので「犬走り」と言います。
この犬走りに雨がほとんど掛かりません。最近だと「ここにも芝を貼って庭一面を芝生にしたい」という希望をいただくことがあるのですが、まめに水を撒かないと枯れてしまいます。しょっちゅう水を撒いたらいいかもしれませんが、結構おっくうですよね。なかなか気が付かなくて、あるときに見たら枯れてしまったということがあるくらい、犬走りには雨がかからないんですね。
庭のできるだけいっぱいに芝を植えたいという場合でも、犬走りにはかからないようにするのをおすすめします。軒下は土間を打つ、ホームセンターに売っているような30cm角のコンクリートの平板などを並べるというのがいいと思います。
フラットな家は外壁が汚れる傾向があります。例えばサイディングで“○○コート”というような光触媒みたいなもので汚れを浮かして雨水で流すという物がありますが、塗り壁の材質によってはホコリが付着すると黒カビのように見えてしまいます。つまり軒や庇というものは、雨や汚れから家を守ることに対して、大きな働きがあるということです。
フラットな屋根を取り入れた建物というのはヨーロッパなどでよく見かけます。あのあたりは組積と言われるような、ブロックや石垣といった石を積んでいくような造りの建物が多いです。ああいう建物は、外壁より10〜20cm凹んだところに窓が付いているんですね。
一方で日本の家屋にサッシを付ける場合、外付け・半外付けと表現することがあります。窓を壁面側からパコっとはめ込むようなイメージです。なので、壁面より窓が出っ張る収まりになっています。
ですから、ヨーロッパにある家はフラットな外観でも、外壁の一番表面から内側に10〜20cm凹んだところに窓が付いていますから、庇と似た効果があって、雨や汚れの防止はできているんですね。日本のフラットルーフの建物とは機能が若干違います。
また美観の点で見ても、箱のようなものにペタッと窓が付いている家と、組積のようなもので形成されていて窓がグッと入っているような家とでは、絶対に後者のほうがかっこいいです。
私の師匠である松尾和也先生が設計されたフラットルーフの建物だと、今お伝えしたような内容がすごく周到に考えられています。凹んだ部分にシャッターボックスを入れたり、サンシェードを入れることで日差しをカットすることもカバーされていて、すごく感心しました。
改めて、軒と庇の役割というのを知っていただいて、頭に置いておいていただきたいです。
何がいいかと言うと、外壁が汚れにくくなるので、家がみすぼらしくなるのを軽減できます。また、日射遮蔽ができるから夏涼しく暮らせます。
日射遮蔽は家づくりを考えるうえで、とても大きい要素です。高性能の家というのはすごく増えましたが、日射遮蔽を全然考えてない家がものすごく多いです。
例えば「北海道仕様の〇〇」とか「高気密・高断熱」と謳われている家でも、西側に庇もなくサンシェードもなく、大きい窓が取り付けられているのを見ます。これだと夏場、太陽の光が家の中にどんどん入ってきます。しっかり対策をしていただかないと、夏快適に暮らせる家にはならないです。
ちなみに軒の長さは総二階の家だと、普通は90cmくらいが多いと思います。1m20cmとか1m50cmまで伸ばしている家を見ると、これまでだったら「やりすぎかな」と思っていましたが、最近は軒の下にいい空間があるな、と思うようにもなりました。それはここで言ういい感じの空間というのは、このところ何度も言っている中間領域のことです。内側でも外側でもない曖昧な空間ですね。
——————–
ホームページはこちらです。
https://www.m-athome.co.jp/
新しいモデルハウスはこちらです。
https://www.m-athome.co.jp/modelhouse/miyamae/