デザイン系設計事務所に依頼する時の注意点
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今回は、デザイン系設計事務所に依頼する時の注意点について解説します。
先日、私の動画を見ていただいている方から質問をいただきました。内容は「カッコいいお家を建てたくて、設計士の人に設計してもらいたい。デザイン系の設計事務所さんに頼みたいんだけど、依頼する際の注意点があったら教えてほしい」ということでした。
デザイン系の設計事務所さんは、別名アトリエ系という言い方もします。アトリエ系・デザイン系の設計事務所は、個人の建築家の方が主催をする建築設計事務所のことを言う場合が多く、建築家の方のこだわり・価値観を強く反映しています。
このアトリエ系の設計事務所に対してちょっと違う括りのものが、組織系の設計事務所です。これは、たくさんの人数を抱えている事務所の総称である場合が多いです。デザイン・意匠・建築の構造・設備・それにかかるエンジニアリング・システムなど、そういうものを全部まとめてやるような設計事務所さんです。当然、工事監理もします。工事は大規模なものですから、一般的には個人の小さいものよりも中規模・大規模なものを設計されるイメージです。
なお、私たちが現場管理するという場合の漢字は「管理」ですが、同じ読みで「監理」という漢字があります。工事監理とは、設計図書の通りに現場がちゃんと施工されているかということを、法律の遵守を照らし合わせてきちんと確認して指導などをすることです。
また、個人の作家性が色濃く出るものと総合的な設計事務所が合わさった、ハイブリッド系の設計事務所もあります。例えば日本人の中で大巨匠と言われている安藤先生の事務所は、先生の作風が強烈に出ていながら、今やもう大所帯の事務所です。安藤先生は全体を統括されていると思うけど、担い手の方が細かく分かれてやられているんじゃないかと思います。
次に、建築士・設計士・建築家という言葉について説明します。これらはどれも似たような感じがするのですが、微妙に違いがあります。
まず建築士というのは、国家資格です。私もその1人ですけど、一級建築士・二級建築士・木造建築士などがあります。最近は一級建築士も細分化されて、一級設備建築士・構造(設計一級)建築士というように、高度化して分かれています。一方、設計士は資格がなくても名乗ることができます。建築士さんをアシストするような設計業務をやっている人が、設計士と呼ばれます。また、建築家というのも単なる呼称です。デザイン性や思想性が高いものを建てる方ですが、実際は国家資格を持たれている方がほとんどです。例えばデザイン系の設計事務所さんとなると、建築家であり建築士でもあるという感じだと思います。
設計事務所の先生に何をお願いすることになるかというと、まず1つ目が基本設計です。建物をどのような形で、どのように配置するのか、北・東・南のどこに寄せるのか、はたまた何m離すのか、そういうことを決めていきます。また、平面図、平たく言うと間取りも決めていきます。さらに、間取りが立ち上がってくる立面図や、高さの面に重きを置いた断面図なども、基本的な部分の設計といいます。
これを受けて、実施設計・詳細設計が描かれます。工事の世界では施工図と呼ばれるもので、矩計図・軸組図・基礎伏図など、いろいろな詳細図があります。平面図や立面図だけできても、家は建ちません。基礎はどれぐらいの大きさで、どんな鉄筋が配筋されていて、どんな風にアンカーをつけたらいいのか。こういったことも設計事務所さんにやっていただく形になります。
そしてもう1つが、さっき申し上げた、設計図書通りにきちんと工事が進んでいるかを確認する「監理」です。品質・法規に関してチェックをして、それに対して指導監督をしたり、行政への手続きもします。
さらに、なくてはならないのが構造計算です。いくらカッコいい家でも、地震に弱かったら困ります。構造計算して、強度が十分に担保されているかをチェックする必要があります。設計事務所には、この辺をやってもらう形になると思います。
デザイン系の設計事務所の先生にお願いする最大のメリットは何かというと、完全オーダーメイドの家が建てられることです。建築士の先生の価値観や作家性を色濃くできるので、その先生の好きなテイストを感じながら、みなさんにとってのベストプランを提供してもらいやすくなります。何より、基本設計を作る建築士の先生とお施主さんがダイレクトにお話しできることで、よき化学反応が起こる可能性もあります。全く自分たちでは予想もしなかったものが与えられることもあり、「世界観の提示」なんてカッコいい言い方をしたりします。こういうところが、醍醐味やメリットだと思います。
一方でデメリットもあります。まず、ハウスメーカーさんみたいに決まった形をセミオーダーするわけじゃないので、いろんなことを細かく決めていかなアカンです。そうすると、コストを弾くことに非常に時間がかかります。いつものやり慣れた形ならすぐに値段を出せるけど、尖った設計だと細かく工数を予想していくのは骨が折れますので、非常に時間がかかると思います。「これぐらいの設計だといくらぐらいするのか?」を考えた上で家を決めたい方は多いですが、このような場合は、最後にならないと詳細な金額は決まりません。場合によっては、詳細な金額がわかってもそこまで掛けられないとなったら、後から設計の見直しをするなんてこともあるかと思います。
また、土地探しや資金計画は、自分たちでやる必要があります。その辺りを支援してほしいと思っても、デザイン系の設計事務所の先生でそれをやられる方は、私の知る限りではあまりいらっしゃいません。土地探しは自分でやってください、土地が決まったら声をかけてください、ということになるので、土地を先に買わなアカンという問題が出てきます。ここで、住宅ローンは土地と建物を一体にして担保として、お金を貸してくれる低金利のシステムです。土地だけの場合は使えないので、先にキャッシュを用意したり、別の銀行のプロパーローンを借りる必要もあるかもしれません。
そうなってくると、設計料が気になってきます。これには結構幅があって、設計料は工事費の2〜3%が目安というところもあるし、20〜25%は見ておいてくださいという先生もいらっしゃいます。当然、巨匠レベルの人は素晴らしい価値観や美意識を提供できます。そこに関してお金を提示されることになります。
例えば、3000万円のお家を建てる時の設計料は、3%なら90万円、20%なら600万円になります。そういう意味では、全国的に名の売れた人気のあるデザイン系の設計事務所の方は、設計費用が500万円ぐらいかかることも普通にあると思います。逆に言うと、それぐらい価値があるということです。
依頼したい先生に心当たりがある場合はいいですが、デザイナーズ住宅を集めた本を見て、こんな家を建てたいと思う時もありますよね。そういう時の探し方で多いのは、住宅雑誌や専門誌です。インターネット検索や、SNSで素晴らしい家の事例が出てきた写真の下に◯◯事務所と書いてあることもあります。また、全国には建築士会というものがあり、兵庫や姫路にもあります。みなさんのお近くのそういう団体のホームページから調べることも多いかと思います。
設計事務所を探した上で注意すべきことの1つに、相性があります。その先生に完全に惚れ込んでいて「先生が思うように建ててください。私は一切口を出しません」という頼み方をされる人は、そう多くないと思います。ある程度は自分の希望も聞いて欲しいと思うのが普通だと思います。そうなると、お会いした時の第一印象とか、コミュニケーションのしやすさは大きいです。言いにくいことも言えないと困るので、話しやすい建築家の方がいいと思います。
私の師匠の松尾先生は、すごく大人気で大活躍中ですが、びっくりするぐらい話しやすい先生です。そう思ったので私もいろいろ教えていただくことができました。しかし中には、ちょっと気を遣う感じの先生もいます。そういうところも要素としてあると思います。
最後に、老婆心ながらみなさんに注意していただきたいと思うことがあります。例えば、一般的な軒が出ているごく普通のお家と、軒が出ていないエッジが効いた建物を比べた時に、デザイナーズ系を好む人は軒が出ていない方を選ぶ方が多いです。たしかにデザインはカッコいいです。ただ一方で私は、それが家としてホンマに成り立つかな、絵に描いた餅にならないかな、などと気になるわけです。
先ほど詳細設計の話をしましたが、ハウスメーカーさんがたくさんの家を短時間で建てていくための方法として、標準化があります。例えばこの絵は雨仕舞いの仕方に注目して描いたのですが、標準化ではこういうことが非常にきっちりと細かく決まっています。
壁や屋根は、しっかり通気・換気させたいんです。外に向かって開いていないと、通気・換気はできません。一方で、雨仕舞いに関しては、閉じている方が雨が入りません。一方は開いてないとアカン、もう一方は閉じてないとアカンとなり、対極なわけです。でも家を建てる時は、しっかり通気も雨仕舞いもできるというように、相反するものを統合するわけです。それを統合する手段が、詳細図を書くことです。
カッコいいデザインは詳細図ありきです。「デザインしたから後は現場で適当に考えてね」というようなデザイナーズ系の設計事務所さんに当たるとまずいです。それを工務店さんが投げられて考えても、どうやって納めていいかよくわからないような、極端にエッジの効いたデザインもあるからです。結局基本設計をした先生に「どういう矛盾点の克服があって、最終的にこのデザインはGOなんですか?」と確認しないと、お施主さんの不利益になります。カッコいい家はできても1年後に雨漏りしたり、できた時はカッコいいと思うかもしれないけどボロボロの家に住むなんて、よくないですよね。
さっき言った設計費用がいるというのも、特殊な尖ったデザインのためにたくさんの詳細を考えなアカンから、その作図費用がかかる、ということです。人間の考えをまとめるために、時間も手間賃もかかります。設計士さんも、時間に関してお金をチャージしていく職業です。
ですから、雨仕舞い・通気・換気・止水など、家の基本性能に関わるところをちゃんとやってくださる方がいいと思います。一見ちょっと高い気がする設計料も、そういうことがきちんと担保されていて、施工会社に対して指導・説明ができるのであれば、それは安いんです。しかし「僕は3%でいいです」という方に作ってもらった図面を持っていってやってくれる会社を探しても、「うちはできません」と言われたり「やってもいいけど長いですよ」と言われたら、結局安くは済みません。
デザイナーズ系・アトリエ系の設計事務所に依頼される時は、こういうところを気にして、きちんと相談しながら説明を受けることをオススメします。ぜひ参考にしてください。
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