階段のデザインを考える
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今回は階段のデザインについて解説します。
階段をどう考えるかは、すごく古くて新しいテーマです。昨今は建築の費用が上がってきているので、知恵を絞って家をコンパクトに作り、コストを圧縮していこうと真剣に考える方が増えてきています。その時に面積を絞ったために間取りの使い勝手が悪くなるのは嫌ですよね。この相反する問題を上手に解決していくためには、階段に関して知恵を絞るべきだなと思います。
まず、階段は間取りの中でどれぐらい重要かを考えます。私の尊敬する飯塚豊さんという設計の先生は「良い間取りを作るポイントの最も大きいものの1つに、玄関と階段をセットで考えることがあります。そして、玄関と階段をなるべく家の真ん中に置くということを考えてください。そうすることでグッと家の間取りはよくなります」ということを常々おっしゃっています。
飯塚先生が「玄関と階段を真ん中に置け」と言うのには理由があります。最近家づくりをする方と打ち合わせをしていると、廊下を嫌がる方が多いです。ゼロにはできませんが、廊下を少なくしたがる傾向があります。そうなった時に、玄関と階段が近いと、玄関ホールと階段の上がるホールは兼用になるのでコンパクトになります。
さらに階段を家の真ん中に置くとどういうことがあるかを説明します。例えば、階段を家の端につけるとしたら、階段を上がったら部屋になります。例えばそこがお兄ちゃんの部屋で、隣に妹さんの部屋があるとします。廊下がなかったら、妹の部屋へはお兄ちゃんの部屋を通って行かなければいけないですよね。年頃のお兄ちゃんだったら嫌だと思います。なので階段を端に作った場合、廊下を作らざるを得ないんです。しかし家の真ん中に階段があれば、階段を上がってすぐにお兄ちゃんの部屋と妹さんの部屋を両方作ることができますよね。そうすると廊下を最小限にできます。廊下分の面積をコンパクトにできるので、その分他の収納や書斎に使うこともできたり、スペースを活用しやすくなります。
ただ、1つ問題があり、それは階段下の利用です。これは常にテーマになる問題で、階段下収納をしている方でも効果的に使えていないケースが多いです。今日はその辺りに特化した話として聞いてもらえたらと思います。今回の話にはネタ元があります。新潟のサトウ工務店さんの佐藤社長が執筆された、エクスナレッジから出版されている「デザイナーズ工務店の木造住宅の納まり図鑑」という本です。これは僕にとってのすごい教科書の1つです。
この本は、私達プロしか読まないのではないかなと思う本ですが、佐藤さんの素晴らしいディティールが散りばめてあります。その中でも、階段を考えるということをものすごく突き詰めて書かれています。プロの方はもちろん、間取りについて悩んでいる人は、値段は少し高いですが、中身は何百万円もの値打ちがありますので、ぜひ読んでいただきたいです。
まず階段について説明すると、階段はいくつかバリエーションがあります。直階段・下曲り階段・上曲り階段・螺旋階段などです。
私の友人の小暮さんは、螺旋階段が自分のデスクの前にあるという、非常に変わった事務所で生活しています。カッコいいし省スペースなんですけど、結構危ないです。数年前には、小暮さんが1回滑って怪我をされたことがありました。なので少し気をつけて生活する必要があります。螺旋階段はいいところもありますが少し怖さもあります。
それから他では、U階段(日本語では折り返し階段)や、J階段とかL型階段(直角に曲がっている階段。かね折れ階段)があります。
形のバリエーションはいろいろありますが、構造としてはだいたい同じです。必ず階段には、基本構造として「踏み板」という段々のところがあります。それから踏み板が1段ずつ上がっていく高さの部分の「蹴上げ」という部分があります。そして、それを両方から支える「ささら桁」があり、これらで構成されています。
階段の上がりやすさは、3つの寸法によって左右されると言われています。1つ目が、段板の踏み面の広さです。踏み面が広いと、緩やかにはなりますが、1歩で次の段に行けないので上がりにくいです。2つ目が蹴上げ高さです。1段分が高すぎると上がりにくいですが、低いと上がりやすいけど段数が増えてしまいます。3つ目が踏み込み寸法(蹴込(けこみ)寸法)です。階段は直角に降りている場合もありますが、一段の中で踏み板部分が少し重なっているところもあります。これをどれくらい重ねるかというのが、踏み込み寸法です。人間は足先が先に行くので、ちょっと入っている方が上がりやすいんです。特に足の大きい方は引っかかりやすいので、少し踏み込み寸法が入っている方が上がりやすいんです。また、階段をコンパクトにしたい時は、蹴込寸法を上手に考えながら階段がスムーズに上がるように考えるのがいいです。
階段は基本的に「12段上がり」「13段上がり」「15段上がり」などと言いますが、これは1階の床から2階の床に上がってくるまでの高さを何段で割るかということになります。つまり、段数が少ない数ほど急になります。なので12段上がりはすごく急になるので、嫌われます。
標準的なのは13段上がりぐらいが多いです。高齢の方の場合は15段上がりにして、緩やかにすることもあります。この段数も、上がりやすさに関して重要になります。その反面、先ほどの話と矛盾していると思いますが、最近は段数が少ない方が上がりやすく感じることがあるんです。鍵は階高です。天井を高くしたら階高が上がるんです。階高を抑えたら、緩やかさは変わらず段数の数自体は減ります。1段でも数が少ない方が上がりやすいですよね。こういうところが階段の上がりやすさを左右すると思います。
階段の基本的な構造を理解した時にわかると思いますが、階段の下側のスペースを利用しにくくなる最大のポイントが両側のささら桁です。ささら桁があると、例えばこの写真のように玄関ホールのところからすぐ階段を上がる構造の時に、ささら桁があると下が若干低くなります。
それに対して佐藤さんが「片持ち階段」ができるとおっしゃっています。通常階段は、ささら桁という両側の斜めの桁で段板を保持しています。一方、「片持ち階段」はこの絵のように、壁から片持ちで踏み板ができるような納まりなんです。あるいは、段々の木材で上手に組み合わせて一体にし、両側を支えるのではなく片持ちで出している階段もあります。下がすっきりしている感じがしませんか? 例えばリビングに階段を持ってくると、少しリビングが狭くなったり、床面積は減らないけどささら桁のアクセントが強すぎて、その下に大画面のテレビが入らないなどの問題が発生します。でも片持ち階段ならスッキリするので階段の下の利用ができます。
例えばこの絵で言うと、玄関ホールの土間と階段下を一体にしています。玄関をコンパクトにすればいいという意見もありますが、玄関が狭苦しいのが好きではない方もいます。その場合、階段を玄関の上にかけて、玄関はある程度の高さが取れると、空間的には余裕ができるので玄関が広く感じます。ただしこれは、普通の大工さんに頼んでも「難しいのでできません」と言われてしまいます。
できないものをできるように考えたのが、サトウ工務店の佐藤さんのすごいところです。ものすごく凝ったことをせず、お金も掛けずに、かつ美的にもカッコよくするということを納まりで考えているので、私も興奮しているんです。
片持ち階段とは別のやり方で「半片持ち階段」というのもあります。これも佐藤さんは、実際の施工・設計も含めてされています。半片持ち階段は、階段を正面から見た時に踏み板がピュッピュと片持ちで出ていますが、その半分まで壁を作るんです。この絵のように半分だけは段板が出ますが、奥の半分には壁がある感じです。
佐藤さんがすごいのは、そこに小さな扉を付けて収納にしてることです。これは「おぉ!」と思いました。階段は概ね80cmを超えるぐらいの幅が多いので、その半分というと40cm強ぐらいじゃないですか。そうすると収納するのにちょうどいいんです。90cmの奥行きは、収納量はあるんですけど、奥に行ったものが取りにくかったり、ごちゃごちゃになったりして死蔵品ができやすかったりします。40~45cmぐらいの奥行きなら、置いている物がわかるし、無駄なものが溜まりにくいので、ここを利用するのはいいなと思います。階段の半分をホール・廊下の空間に共有して、もう半分を物入れのスペースにするという、デザイン的にもとてもすっきりしていると思います。
コンパクトな床面積の中で面白い間取りを考える時に、階段デザインの中で「片持ち階段」「半片持ち階段」という立体的な組み方のバリエーションで、新たな空間創出ができるということを知っておいてもらうと、家づくりの設計が面白くなると思い、紹介させていただきました。
本当を言うと、もっと細かいのを見ていただきたいのですが、佐藤さんの著作権の問題もありますのでこれくらいにさせていただきます。でもこれを本として公開されているので太っ腹だと思います。「真似してもいいよ」ということだと思うので、気になった方はぜひ買ってみてください。
これから家づくりをされる方は「工務店さんできませんか」という相談もできますし、工務店の方ならそういう相談があったら勉強されてもいいと思うのでぜひ活用してください。
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