地震に負けない「耐力壁」を選ぶ時に注意すること
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今回は、以下の動画の続編として、耐力壁を選ぶ時に注意することについて解説します。
▼地震や台風に抗う「耐力壁」とは何か?
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上記の動画では、家づくりにおいて、地震や台風に強い家のポイントは耐力壁だという話をしました。今回はその耐力壁の選び方について解説します。少しマニアックな話になりますが、大事なことなのでぜひ聞いてください。
最初に、耐力壁にも強い・弱いがある中で、強い耐力壁とはどんなものかを知ってもらいたいです。私は、強い耐力壁を表すものには2つの指標があると思っています。1つが壁倍率という、壁そのものの強さで、もう1つが耐力壁の長さです。
まず壁倍率から説明します。例えばこの絵のように、約90cm〜1mぐらいの間隔で、2本の柱で立てられた壁があるとします。この壁に対して地震の横の力がかかってきた時に、それに対して倒れないように突っ張るのが、筋交いの役割です。筋交い自体は、基本の厚みが15mm、幅が9cmの板みたいなものです。筋交いが1本入っているだけで、壁は横からの力に対して強くなります。これを基準(1倍)として、ここから強さが何倍になるかを考えていきます。
次に、先ほどと同じ壁の筋交いの構成を、厚みを倍の3cm、幅を9cmにして、根元は金物で固定します。これを1.5倍とします。15mm × 9cmの筋交いより、地震に対する強さが1.5倍あるということになります。
さらに、厚みを4cm5mm(90mm角の柱だと半割)にして金物で止めたものは、15mm × 9cmの筋交いに対して2倍の強さになります。
さらに9cm角の筋交いをクロスにして上手に収めて、補強のプレートや、柱や土台の根元に金物を緊結した形にすると、5倍くらいの強さになります。この強さが壁倍率です。
ただ、壁は90cm幅だけではなくて、いろいろな幅がありますよね。その中でもう1つ強い耐力壁を表す評価が、壁の長さです。例えば90cmの幅で1倍の筋交いと比べて、壁の幅が倍の1m80cmの場合、使っている筋交いのサイズは同じでも倍の長さがあれば、倍の強さがあると見なしていいという考え方があります。※この絵では簡略化して、壁の幅は1mと2mで比較しています。
結論として、強い耐力壁を何で判断するかというのは、壁の量、すなわち壁量(かべりょう、へきりょう)で評価しようということになりました。公式でいうと「壁倍率 × 壁の長さ」です。
この理屈がわかってくると、多くの設計者・お施主さんが「高い倍率の耐力壁にして、壁の長さは短くすればいいのでは」と思う人が増えてくると思います。なぜかというと、幅が短い耐力壁がバランスよくできるといいことがあるからです。
例えば日当たりのいい家が欲しい場合、南に大きい窓を取りたいですよね。そのためには、耐力壁は最小にして窓ガラスが増えた方が、日当たりがよくなります。日当たり以外の側面でも、例えば間仕切りの壁は少ない方が、広々としたリビングになりますよね。
また、外周に耐力壁を作る場合、耐力壁の倍率を上げて、小さい幅にしておくと、将来リフォームや増改築で「ここの壁を抜きたいな」という時にやりやすくなります。
このように、高い倍率で長さが短い耐力壁を使えばメリットばかりだと思う方もいます。しかし、耐力壁を選ぶ時には注意してほしい重要なポイントがあります。
例えばこの絵のように、筋交いをクロスにするやり方で耐力壁が1mの幅の時に、壁量を計算すると壁倍率4×長さ1mで、4mになります。一方で、2mの幅で筋交いが1本の場合は、壁倍率2倍×長さ2mで、4mです。つまりどちらの壁も、地震に対する強さは一緒になります。壁倍率が同じなら、先ほどのように短い壁の方がメリットがあるように思いますが、、ここで注意が必要なことがあります。
この1m幅の狭い壁は、水平力いわゆる地震力(横からの力)を受けた時に、簡単に倒れやすいんです。1本足で立っている人間を押す時より、2本足で立っている人間を押す時の方が倒れにくいのと同じです。壁の長さが長い方が、踏ん張りやすいんです。壁倍率が一緒でも、壁の幅が長くなると倒れにくくなります。
これを構造の世界でいうと、次のようになります。 基礎と壁はアンカーボルトで外れないように緊結しています。壁が倒れる時には、筋交いが壁を維持しようとした結果、その緊結を引き抜いて倒れようとする力がかかります。
それに対しては、その引き抜きに負けないぐらいの大きいホールダウン金物をつければいいということになると思います。ただそれは、壁に無理をさせてしまっていることになるんです。
先回の耐力壁の解説時にも言いましたが、地震が繰り返されることを想定する時代では、構造体にはなるべく無理をさせないようにしたいんです。長い期間で考えて家族を守るという視点で考えると、丈夫な家で作るのはもちろんのこと、その丈夫さが無理なく長い期間維持されるということも重要です。
そういう視点を踏まえると、もし間取りに支障がないのであれば、長い壁にした方が、躯体そのものにあまり無理がかかりません。幅が短くて壁倍率が高い壁だと、金物を大きくしたり、アンカーボルトを丈夫にしたり、基礎も普通のだと不十分で厚みや鉄筋量を増やさないといけない、という結果になってしまう可能性もあります。そうなると、全体的にコストも上がってしまいます。
それから耐力壁に関しては、1階だけではなくて2階にも使うことがあります。この絵のように2階に耐力壁がある場合、横からの地震力を受けた時には下向きの力がかかるので、梁に力がかかります。
なので2階に耐力壁がある時は、太い梁にした方が良いです。しかしその分コストが余分にかかるし、建物自体も重くなってしまいます。太い梁は本当に重たいです。重たいということは、クリープという梁自体が長期間で歪んで変形してしまう現象が起こることもあります。
これを避けるためには、梁の下にもう1本柱を入れて、突っ張るような形にした方がいいです。もっと言うと、耐力壁を1階と2階で揃えて入れたら、力は非常にバランスよく、無理なく下に伝わります。
梁の下にもう1本柱を入れて突っ張るような形は、梁で受けた力を両側の柱に分散させているので、柱に負担がかかってしまいます。しかしこの絵のように耐力壁を1階と2階で連ねると、2階の高いところにかかる地震力はダイレクトに基礎にかかるので、すごく効率がいいです。なぜなら基礎が一番強いからです。
よく構造見学会で、大きい金物がついていたり、立派な梁がついていると、まだ経験が未熟な技術者の方や普通の人は「この家の構造はすごい」と思ってしまいます。しかし、本当に素晴らしい構造の建物は、梁せいがなくてもバランスよく耐力壁があったり、2階と1階の柱が一致したりしています。地震の水平の力がスムーズに耐力壁を伝ってしっかり基礎に逃げて、家に大きなダメージを受けないというのが、一番素晴らしい構造なんです。見た目に惑わされないでください。大きい梁がたくさんあるからといって、強いわけではありません。合理的な耐力壁の入り方をしている家が最も強いんです。なおかつ安くて、家に負担がかかりにくいんです。強くて、安くて、負担がかからない。三拍子揃っていますよね。こういう耐力壁を私は選ぶべきだと思います。
みなさんはすぐ大きな空間を作りたがります。しかし、今相談されてる設計士さんや工務店の方などは、いろいろなバランスを考えて良いプランを提案してくれているんです。それをわかっていただけると、より良い家づくりに繋がっていくと私は思います。
この理屈を知ってもらえると、お施主さんにとっての利益になると信じてますのでぜひ参考にしてみてください。
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