地震に負けない家づくり「制振装置の本当の意味」
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今回は制振装置ついて解説します。
まず、「制震」に似た言葉で「耐震」「免震」という言葉があります。意味が少し変わるのでそれぞれ説明します。
耐震は振動に耐えることで、地震の揺れに耐えることを言います。一般的に、耐力壁や耐震壁と言われる壁をもって、構造体を守ることが耐震です。
免震はビルに多いです。地面に土台の基礎のようなものがあり、その上に建物の構造が乗りますが、その間にゴムのコイルのようなものを介して、揺れを吸収し建物を揺らさない仕組みです。揺れを免れるから「免震」と言います。
制震は、建物の揺れを耐力壁の中に仕込んだダンパーで吸収し、地震のエネルギーを熱エネルギーに変換して建物を守る仕組みです。
耐震は建物に関しては絶対に必要です。これをゼロにすることはないと思います。
免震はコイルで揺れを逃がすので、まず建物自体を大きな皿で受ける必要があります。そしてそのお皿は、相当頑丈なものが必要です。また、その下にも、揺れもジョイントで保持するので、大きな基礎が必要でお金もかかります。
なので一般的には、耐震を保持した後、制震で建物の揺れを吸収するやり方が、住宅では使われることが多いと思います。
では制振装置について考えていきます。多くの方がご存知ないですが、制振装置は2つの考え方に分かれていて、速度依存型と変位依存型の2つがあります。
速度依存型はオイルダンパーという油圧式のものを使っているものです。バンッと揺れるような強い地震の時にはスピードが発生するのですが、その速度に反応する制振装置です。
変位依存型は、金属やゴムのような粘りのあるものを介して揺れを吸収していくものです。変位依存型は、建物が揺れた時に傾いた変位を感知して揺れを吸収しようとする装置です。
これら以外にも特徴があります。まず速度依存型はダンパーが入っている壁は、耐震壁としてカウントできません。地震に耐えているというより、揺れそのものを吸収するだけの機能だからです。一方で変位依存型は、装置そのものが耐震壁としてカウントできます。耐力壁の代わりも兼ねています。
そうすると、どちらが良いのかわからなくなると思います。私が考える、制振装置の意味を考えるときに大事なことは、日本の住宅を作っていく構造の歴史の中で、何が重要な問題提起をしたかだと思います。
1つ目は私の中で地震に対して大きな教訓を与えた、1995年に起きた阪神淡路大震災です。私が子どもの頃は、地震は関東のもので関西にはほぼ来ないと思っていました。しかし、震度7の強烈な揺れが来ました。
この時に、さらに耐震レベルを上げないと人の命は守れないということで、建築基準法を最低レベル以上に丈夫にしていく考え方が出てきて、「耐震が重要だ」と言うようになったんです。
2つ目が2016年に起きた熊本県益城町の地震です。この地震は震度7かつ群発地震(1週間ほどの間に大きな地震が何回も起きること)でした。
この時に、構造を丈夫にしておくことと同時に、繰り返される地震に対しても考えなければいけない機運が高まりました。それまでは「耐震等級2ぐらいの家でも良い」という感じでしたが、学会や建築仕事の人の中では「それでは群発地震に耐えられないから、耐震等級3であるべきだ」という話になった経緯があります。
3つ目が今年の元日の、能登半島地震です。ここで出た新たな課題は、長い期間で繰り返す地震です。能登半島の地震はこれまで何年かの間にも大きな地震が何度かありました。それまでは建物が何とか耐えていたけど傷みが蓄積され、元日の大きな地震でどうにもならなくて倒れた感じです。ここで、建物の蓄積したダメージについてが問題になったんです。
建物の損傷はこの絵をみてください。耐力パネルは構造面材という板で壁を張って、たくさんの釘で打ったり、金物で止めて粘りを持たせています。ただ、すごく揺れると釘が緩んだり金物が緩んだりします。これが構造体の傷みです。
これを食い止めることができたら安心だという考えが、耐震等級3にプラスして制振装置を考える機運になったと思っています。
速度依存型は早い揺れが起きた時に吸収しようとするので、耐震等級2、耐震等級3のような耐震性にプラスして、耐震壁の緩みを防止する力が強いです。建物が揺れにくいから中に居る人も危害が少ないし、何よりも命を守る家そのものを器として保護する意味合いが強いのが速度依存型です。
変位依存型は建物の変形を吸収するので、大きな揺れはある程度吸収してくれます。考え方はどちらかというと、用意された耐震壁に対してこれもつけたらさらに壁量が増える、耐震性をプラスアルファしていくようなイメージです。
制振装置を考える時は、自分の価値観や考え方によって、速度依存型と変位依存型どちらを選ぶかが重要です。最もアカンのが、「制振装置をつけているから耐震性もクリアしている」という考えです。どちらもある程度の耐震性がある上でプラスするものだと思います。
まとめとして、どちらの形を選んでもいいですが、まずは許容応力度計算で耐震等級3になっているのか家の耐震性を評価してください。これが大前提です。その上で、繰り返される地震に対しても長期間耐震性が維持する視点で、制振装置をつけるのがいいと思います。その方法が、速度依存型なのか、変位依存型なのかということです。
これは技術者のいろんな考えがあるので私一個人の技術者の意見だと理解してください。地震は建物が大きく変位した時点で、ある程度ダメージを受けることが予想されるので、大きな変位の前に揺れを吸収してくれる速度依存型に、今は私は魅力を感じます。今回の能登の地震を見ててもそう感じました。
何でもかんでもつけろということではなく、耐震等級3を構造計算に基づいてやってください。その上で、ここ10年で考えたら大きい地震が続いていた方や、活断層のところに家が建っているという方は、制振装置をどちらかの価値観で選ぶことが最も賢明なやり方だと思います。ぜひ参考にしてください。
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