巨匠が生涯の拠り所とした「生活最小限住宅」
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今日は、僕の大好きなル・コルビュジエさんという巨匠が作った建物の話をしたいと思います。
先日ある方に、「家づくりを考えるにあたって最小限の家(部屋の寸法)について知りたいので、よかったら解説してほしい」というリクエストをいただいたんです。
これはヘビーというか、「僕に喋れるかな?」みたいなテーマだったので躊躇していたのですが、ふとコルビュジエさんが休暇小屋という小さな小屋を設計されていたことを思い出しまして、それを問いかけの答えとして解説させていただきたいと思います。
久しぶりに思い出してネットでいろいろ見ていたら、なんと最近このような素晴らしい本が出ていました。『図解 世界遺産 ル・コルビュジエの小屋ができるまで』という本です。
まさにコルビュジエの休暇小屋を解説したもので、マニアックな建築の関係者の方が実物を見に行って1個1個寸法を測って分析したことが、網羅的に書かれています。
僕の話では大したことは言えないと思うので、もし本当に興味を持ってもらったら、この本を買ってみて読んでも損はないと思います。僕が宣伝する必要はないんですけど、好きなのでオススメしておきます。
コルビュジエさんの小屋は、本当に「小屋」という感じです。世間で言うタイニーハウスぐらいの寸法で、どれぐらいの寸法かというと、長辺方向は4486mmでざっくり4.5m、短辺方向が3758mmで3.75mとなっています。
一般的に日本人の感覚で10畳ぐらいの広さの小屋だと思っていただいたらいいと思います。10畳というコンパクトな世界に、コルビュジエさんは何を突っ込んだかというのを解説していきます。
まず玄関が内開きなんです。これだけで一息に喋れるんですけど、日本の玄関ドアって外開きじゃないですか。でもヨーロッパとかに行くと、内開きなんです。
これは諸説ありますが、外敵が来た時に中から押さえて重たいものを置いたり、人間が突っ張って入らないようにしたりして、防御に関しては合理的という考えなんです。
でも一方で日本はどうでしょう。そういう感覚もあるんですが、どっちかと言うと雨風に対しての建具を考えたら外開きの方が合理的みたいな考えですよね。
そんなうんちくは置いておいて、玄関を入っていただいたら廊下部分というか前室があります。ここは72.8cmの広さで、正面に可愛いコート掛けがあります。そこから入ると居間が展開されるという造りになっています。
外見はすごく地味なんですけど、中は独特の極彩色のカラーリングにしてあってパッと華やかな感じです。
「コルビュジエって派手だったんだな」と、学生の頃カラー写真を見た時に思いましたが、後で聞いたら理由がわかりました。
この小屋は実はコルビュジエが自分の愛する奥さんに誕生日のプレゼントで贈った家だそうです。だから外見は地味な設えで、中に入ったらパッと華やかな驚きがあって、愛する女性を喜ばせたかったのかなと思いました。
どんどん説明していくと、1m65cmのワイド(幅)で奥行きが57cm、高さが1475mmのクローゼットがあって、テーブルがあります。テーブルの長さはざっと1m40cmで70cm弱の幅のフニッと曲がった角度は、初めて見た時にすごくそそられました。
そのテーブルを使うのに、ごくごくシンプルなスツールが2つあります。ミシンの前の小さい箱みたいなイスです。そして飾り棚があって本棚がある形になります。
そして一定の空間があって奥の方にベッドがあり、ベッドボードでゆるやかに区分された場所にトイレがあります。なんと、有効寸法が85cmで横が67cmぐらいです。こんなところで用を足せるのかというイメージだと思います。
コルビュジエさんはフランスの方ですから体格がよくて180cmぐらいあるような人で、晩年の写真を見たらお腹もポンと出ていたから、そこそこの体格だったんじゃないでしょうか。でもここで奥さんもできたしコルビュジエもできたぐらいだから、これで用を足せるんですよね。ベッドは幅70cm、長さは1m90cmちょっとで、高さが75cmの簡単なものです。
大抵の人はパッと見たら「寸法的に狭くない? 」「ホンマ小屋やね」と思われると思います。「1日2日のキャンプだったらいいかもしれないけど」みたいな。
生活最小限住宅としてなぜこれを出したかというと、この建物は実はコルビュジエにとっての終の住処だったんです。さっきも言いましたが、コルビュジエの奥さんはイヴォンヌさんという方で、目鼻立ちのはっきりしたお綺麗な方です。
コルビュジエさんは奥さんのことをとても愛していたんです。自分にとっての女神、ミューズだと、結婚してから終生暮らされていました。一方で、コルビュジエさんの独占欲なんでしょうか。お綺麗な奥さんを籠の中の鳥のように、あまり外界と接せないように大事に囲い込んでいたみたいです。ある面でイヴォンヌさんはちょっと辛いところもあったのかなと思います。
この愛する彼女に対して、カップマルタンというところの土地に休暇小屋というものを建てて、CABANONというネーミングで誕生日のプレゼントにしました。ここでは結構な頻度で2人で過ごされたそうです。「2人でここでどうやって暮らしたのかな?」と思いますが…。
逆に言うと、暮らしのあらゆるものを削ぎ取って、もうこれ以上削りようのないぐらいのシンプルな空間で、5年間ぐらいに渡ってお2人が楽しく利用されたということみたいです。
なので、僕たちが思う以上に人間ってこれぐらいの空間で十分暮らせるし、この小さな空間が実はすごい世界になっているということなんじゃないかなと思います。
僕も写真でしか見たことがありませんが、実は日本にはこれを再現したレプリカがあります。死ぬまでに僕も本物というか、レプリカで原寸大を見て味わいたいなと思っています。
最小限寸法について聞きたい人の気持ちって、2つあると思うんです。1つはコルビュジエのように1つの物事を探求して極めていこうとする人が知りたいというベクトルと、もう1つは最近建築費が高くなってるから「コンパクトな家にせなアカン」という気持ちの中で、一体どこまでコンパクトにするべきか加減がわからないという人です。
どちらにおいても、この小屋はすごく意味のあるものだと思っています。なぜかというと、コルビュジエのように歴史に残るほど考え抜いた人が、1つ究極にして個人所有したものだからです。オーナーのためにやったのではなく、自分と愛する人のために作って、自分も終の住処にした事実があります。
今回この本を読んで初めて知ったことがあります。イヴォンヌさんは1957年に亡くなりますが、その3年後の1960年、お母さんのマリーさんが100歳で亡くなったそうなんです。
愛する奥さんを1957年に亡くして、1960年に愛するお母さんを亡くして、コルビュジエは一人ぼっちになりました。そしてコルビュジエは1965年の8月に亡くなります。
聞くところによると、コルビュジエは「俺はここに死ぬまで暮らす」と友人に書簡で送っていたようです。ここが最後を括るにふさわしい広さだったんだなと。学者として極めて予想した数値と、実際に暮らして自分の愛する家族が関わって愛着を深めた空間なので、ここには強い力みたいなものがあるんじゃないかなと思います。
なぜコルビュジエがテーブルをまっすぐじゃなくて斜めに作ったのかとか、なぜこういう形のトイレを設えたのかとか、なぜ狭い空間にわざわざ前室を設けてコート掛けを作ったのか、というところに、小さな家を考える時のヒントがあふれていると思っています。
ネットで「コルビュジエの休暇小屋」と検索してもらったら様々なサイトとかいろんな解説が出てくるので、ぜひ見てみてください。
コルビュジエの日本人弟子の筆頭と言えば前川國男先生ですが、前川先生が言うには、「これは単なる最小限住宅ということじゃないんだ」ということです。これを1つのユニット・核にして展開していくことによって、大きな空間を作っていくことを目指しているとおっしゃっています。
今、平屋の小さなお家を考えられているシニア夫婦なんかも、例えばこの小屋を最小限住宅としてここから展開していくという形のネタとして使っていただいても非常に面白いかなと思いました。
僕の話でどこまで伝わったか自信はないのですが、こういうものがあるということを知っていただいて、みなさんの家づくりやリフォームに活かしていただけたらと思います。ぜひ参考にしてみてください。
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