この10年で家づくりが変わったなと思うこと
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今日は、「家づくりを本格的に始めようかな」と思っている方に向けて四方山話をお話ししたいと思います。
それは、この10年間ぐらいの間に、ずいぶん家づくりに対する考え方が変化したというところです。そういうことについて今日は喋っていきます。
昔話で恐縮ですが、30年以上前、日本の家づくりを考える時に呪いの言葉があったと思うんです。欧米の方が日本に来て、日本人の暮らしを見て揶揄した「うさぎ小屋」という言葉です。年長者の人は聞いたことがあると思いますが、最近の若い人はわからないですかね。「日本の家はうさぎ小屋みたいだね」とバカにされたような感じがありました。
ちょうど日本が怒涛のように成長していたから、世界から「Japan as No.1」とか「おお!」と言われていました。ただ一方で、「ちょっと変なんじゃない?」と思われる感じもあったんです。そうして揚げ足を取るような形で、そんなことを言われた時代がありました。
業界全体というか、日本人の意識の中で「くそー!」みたいな感じだったのでしょうか。僕は大手ハウスメーカーに勤めていたことがありますが、大学生の時もそうでした。
住宅設計するにあたって、1人あたりに必要な面積の目安を先輩から教えてもらえるんです。その先輩たちが言っていたのは、1家族のうち1人あたり9〜10坪ぐらいの広さを見ると、「うさぎ小屋」みたいにバカにされない家になると。それを頭に置いて、プランニングの全体のボリューム感を出してください、みたいな話がありました。
1人9坪ぐらいだと、4人家族だったら36〜40坪で計画する感じです。40坪と聞いたら結構大きいですよね。5人家族に至っては、お子さんが3人いらっしゃる家なら45〜50坪ぐらいの家がいいと僕たちは若い頃に解釈していました。
実際に約30年前、現場の最前線にいたハウスメーカーの営業マンさんが「お客様にウケたプラン」と言っていたのは、4人家族で36坪のプランが多かったです。
一方で、30年ぐらい前の日本の家には、高気密・高断熱の家もありました(パッシブ設計のOMソーラーさんとかも学生の頃に憧れました)。しかし、ああいうものは一部の尖ったマニアの人が好むもの、みたいな感じがその頃の家づくりにはあったのです。
考えてみると、ローコスト住宅が登場したのは1995〜2000年ぐらいでした。ローコスト住宅には売りがあったものの、営業現場では「同じ値段なら大手のハウスメーカーさんより大きな家ができますよ」とか、「同じ面積だったらコストが安くなる」というフレーズが使われていました。
ローコスト住宅時代もうさぎ小屋への反発があったのかわかりませんが、「家はある程度規模が必要だ」と言って、大手ハウスメーカーさんはどんどん仕様が良くなって装備が充実して、高くなっていったようです。彼らは上場企業ですから、売上を右肩上がりに上げていかなければならないのもあったと思いますが、それがスタンダードで実に良いものだという空気感がありました。
翻って言うと、うさぎ小屋以前の日本の家屋に対する考え方は極端でした。昔の長屋に暮らしていた人たちは、玄関を開けたらすぐ土間があって奥には一間があって、そこで家族が寝たり起きたりして、炊事場は共同の井戸でした。井戸端会議なんて言葉がありますが、炊事場を長屋の中の一角に中央に寄せて作っていた頃からの風習ではないかと思います。
その頃の暮らしはある面は超合理的で、その一間で家族が起きたり寝たりして、朝ごはんを食べたらちゃぶ台を畳んで、休みの日はゴロゴロするような感じでした。小さいけど結構すごい叡智だったと思います。
話は変わりますが、2009年に「シンプル族の反乱/三浦展」という本が出版されました。副題は「モノを買わない消費者の登場」です。この本によると、物を消費しない若い人たちが増え、手仕事や自然素材に回帰する傾向があるということです。
ちょうど僕もその頃から、家づくりをお手伝いするお客様の意識がガラッと変わったような印象を受けていました。例えば、小さな家で豊かに暮らそうという潮流です。もっと言うと、うさぎ小屋に反発して大きくしたけど、小ささの中に豊かさがあるんだということに気づいた瞬間でした。
小さな家にすると何がいいかと言うと、小さくした分コストが減るじゃないですか。総額を抑えるという意味もありますが、ちょっと絞れた分だけ質の良いものにできますよね。断熱性能や省エネ性能を高めて、光熱費を抑えながら人間も快適に、冬は暖かく夏は涼しく住む。こんなことを考える人が多くなってきました。
ローコスト住宅を支えたものに新建材の発達があったのですが、これが自然素材に回帰していきました。また、同じ敷地でも小さい家にしたら、スペースが空くから庭が作れます。家自体が小さくなるので、壁・屋根の面積も小さくなり、メンテナンス費用も抑えられますよね。
何より一番は、面積が小さいと物が広がらないから掃除とか片付けがラクだということです。こういう風に家づくりが変わっていきました。
具体的には、例えば同じ約8.5mぐらいの宅地でも、間口が狭い場合は小さな家を建てて、庭を作るスペースを確保するなどの工夫ができます。小さな家であっても、光を取り込みやすく、植栽やウッドデッキを取り入れることで、豊かな空間を実現できます。
先ほど36坪と言いましたが、比較的面積を絞れば、今の4人家族なら最大32坪でも十分だと思うぐらいの広さはあると思います。もっと言うと、断捨離に絞った感じでやれば、26坪や22坪ぐらいまで絞ることもできるはずです。
面積を絞る時、大胆に言えば玄関が必要かどうか、ということも考えられます。一般的に「いきなりリビング」と言って、外国の家のようにドアを開けたらリビングが現れるというものがあります。
みなさんが一番好むのは、廊下をなくすことです。廊下がない家では、廊下分だけ家を小さくできますよね。また、昔は空調設備が効きにくかったため、家を小さく区切って採暖する方法がありました。ワンルーム使いで広々と、家中どこでも温度を一定で使うことができました。
最近は、囲まれた空間のウッドデッキや植栽などを使って、家と庭の中間領域みたいなものを作ることがよくあります。これとコンパクトにすることを組み合わせて、吹き抜けやロフトを使って、床面積を減らせます。いつも使わないロフトや吹き抜けを使って光を取り入れるなど、小さくなる中でも工夫次第で家を豊かにできます。
最初は、あまり考えずに広い方が良いという考え方が広がっていたのかもしれません。それに対して、アンチとして家が小さくなることに取り組むようになったのでしょうか。もしかすると、これは一種の集団無意識なのかもしれませんね。
最近はウッドショックがあったり、コンクリートや住設機器の値段が上がったりしていますが、家を小さくすることで総コストを抑え、それが安上がりにつながることもあります。総額が変わらなくても、なんとか手に入る値段を粘り強く維持できるというイメージもあります。
この10年で一番変わったことは、本質的な価値に回帰し、家を小さく考えることに取り組むことです。ただし、ちょっと田舎の方や郊外に行ったり、2世帯住宅などでシニアの方が絡んでくると、未だに家を大きくすることが美徳だとか、夢の実現だとかいう考え方があるようです。
法事をやるために二間続きの広い和室など、今は必要ではないスペースが必要だと言う人もいるようですが、実際にはどうでしょうか。法事などは家で行うのでしょうか。昔はお葬式も家で行うところが多かったですが、今は葬儀会館で行うことが一般的になってきました。つまり、広いスペースは必須ではなく、自分たちが本当に豊かに暮らすために間取りを考えればいいと思います。
今日は四方山話として、このような話をご紹介させていただきました。若い人には釈迦に説法かもしれませんが、まだこの考え方に慣れていない人もいるかもしれません。これからの家づくりを考える上で、このような視点を持っていただけると嬉しいです。ぜひ参考にしてみてください。
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