安心して子どもを育てる家についての四方山話
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今回は、安心して子どもを育てられる家にまつわる四方山話を話していきたいと思います。
若いご夫婦が家づくりについて相談される時、「子どもを安心して育てられる家ってどんな家ですか?」みたいなご相談をよく受けます。それを聞いた時に私がパッと思い浮かべるのが、ボウルビィ博士のアタッチメント理論です。1970年代初頭ぐらいに日本でよく言われて、当時の教育者や育児を考える方たちが影響を受けた本だと思います。簡単に説明すると、ボウルビィ博士のアタッチメントとは日本語で言うと愛着、つまり愛着理論です。赤ちゃんが生まれて、育てられる子には必ず養育者が現れます。多くの場合はお母さんですが、「赤ちゃんと養育者(お母さん)との関係においてこういうことがある」ということを言われる理論です。
赤ちゃんは生まれて3ヵ月ぐらいは誰が誰かを認知ができません。お母さんには一番反応すると思いますが、誰があやしてもニコニコ笑うみたいな感じですよね。これが6ヵ月ぐらいになってくると、養育者、つまりお母さんのことを強く意識するようになります。お母さんをずっと目で追うとか、お腹が減ったり具合が悪くなったりしたらお母さんを呼ぶみたいな感じです。そんな感じでお母さんと赤ちゃんの関係がある程度安定して、6ヵ月を超えて2歳ぐらいの間になると、お母さんと一緒にいる周辺は自分にとっての安全基地だと思うようになるのです。
それから3歳ぐらいまでかけてお母さんとくっついていた子どもも、時々ちょっと離れて冒険してみたりするようになります。そしてお母さんと双方向でコミュニケーションができるようになったり、お母さん・お父さんのお手伝いもしていく感じになっていくという、子どもの成長のプロセスがあるのです。
子どもを育てることの大前提として「あなたの家庭が安全基地かどうかがとても大切だ」ということを、ボウルビィ博士はアタッチメント理論の中でおっしゃっています。子どもから見て安心できる家とは即ち、安全基地ということです。これは今回、子育てを考える家に関する話のキーワードに使ってもらってもいいのかなということで、ご紹介したかった言葉です。
私はこれまで、1,500棟ぐらいの家づくりに何らかの形で関わらせていただきました。その中で、子どもさんが明るくて伸び伸び育っているとか素敵な家族だなと思う家庭は、ご夫婦の仲がいいことが多いです。つまり仲の良いご夫婦というのが、安全基地ということの1つのヒントになるのかなということなんです。それはもちろん家を建てたいという人たちだから、仲が悪いわけがありません。大体2人で頑張って子どもを育てていこう、あるいはこれから産もうと思っているでしょう。そういう方たちの仲はいいに決まっていますが、暮らしていく中でお互いの気持ちが変遷していくことも多いにあります。その中でとても大事なのが、重要な局面におけるお互いの関わり合いのプロセスではないかなと思います。
安心して子どもを育てられる家って、すごい設計とかすごい器があって、これがポンと手に入ったらいいんだという風に思われるかもしれません。ですが、現場を預かっている身としては、完成品の家そのものよりはそれを作り上げていくプロセスに全てがある気がします。
家づくりを始める時、最初に前振りとしてよく問いかけるのが、「いつまでに建てたいですか?」あるいは「何のために建てるんですか?」ということです。これらは大きな質問と言われる、無茶な質問です。これをまず投げかけて、お2人に言葉にしてもらいます。正解なんかはありません。何か感じたことを言ってもらうことから始めるのです。そうすると、実はお互いの本音があって、円満に過ごすためにお互いがお互いで少しずつ遠慮していることがわかります。もちろん遠慮のないカップルもいますが、深いところでは遠慮しているのです。
1つの例で言うと、例えば双方のご両親の住んでいる場所についてです。どこに家を建てるのかと言うと、どっちかの両親の家の近くにするか、その真ん中にするかの選択しかないじゃないですか。そこに本質的な本音とか希望が隠れている可能性があります。例えば旦那さんが長男だから、親の側にいる方がいいのかなとか。あるいは奥さんは、育児の時に自分のお父さん・お母さんだったら気軽に言えるから、近い方がいいみたいなのがありますよね。本当はそう思ってるのにお互いに本心を言えないみたいな、そんなことです。
これに関して一番やってはいけないのは、お互いの気持ちにフタをすることだと思います。ここから始めていかなければ、どんなデザインとかどんな性能とか言っても、安心して子どもを育てる方に向かっていかないような気がするのです。そうなると次に出てくるのは、どうしても資金の問題になってきます。資金の問題は、もっとお互いの価値観のぶつかり合いです。
それが、「人生の優先順位」といういつも私が言っている話に繋がります。家は建てたいけど、同時にお金を掛けることは家以外にもいっぱいありますよね。2人で稼ぐお金の天井が決まっている以上、どこにどう配分をするかはとても大事です。
その時にお2人に経験してほしいことは、一緒に諦めるということです。何もかもを満たした家を作れる人は、限られています。自分たちの優先順位の中で、何かを諦めなければいけないのです。奥さんだけ・旦那さんだけが諦めるんじゃなくて、一緒に諦めてほしい。同時に、一緒に覚悟してほしいです。みんな我慢するのは嫌だし、負荷が掛かるのは嫌じゃないですか。そういう、お互いの共有する経験とか思いがあって、初めて協同になるのです。
最近は減りましたが、私より少し上ぐらいの男の人って「ゆっくりできる家がいい」「お風呂・リビングが広い方がいい」「ゴロゴロできる所が欲しい」と言います。そんなのを取っていたら家が大きくなって値段も高くなりますよね。そんなことよりも奥さんは家事がサクッと終わるとか、子どもの世話が負担なくできるとか、パートもフルで働きたいから効率的にやりたいと。ひいては、家は職場としての機能性も必要ということがあります。
これからは絶対そうですが、助け合っていかなければなりません。その助け合うということが具体的に何なのかということも、家づくりのプロセスの中で確認が必要です。最近の若い男の人には本当に関心します。洗濯もちゃんと手伝うし育児もやるし、私は昭和のおじさんなので聞いていていつも胸がチクチクします。それでも、育ち方の中で様々な価値観があるので、すり合わせがないと大変です。
そういうことを通じて、ご夫婦の関係性がすごく深まっていって、すごくいい顔になってきます。ここまで来たら、何を決めてもらってもOK。もうそれは2人の家だから、好きに行きましょうという感じになってくるのです。まだ家は完成していないけれど、2人がそこに深い愛着を持つことになる。まさにアタッチメントですよね。そういうことを基盤にしてやると、そこは安全基地になるんじゃないかなと思うのです。その安全基地は、何も子どもだけではありません。お母さんも感情の起伏も少なくて安心できるし、旦那さんも仕事の疲れを癒したり奥さん・子どものことを気遣ったりできるみたいな、そんな空間じゃないのかと思います。
最後に、私が今回この四方山話をしたかったのは、実は例によってある本との出会いがあったことがきっかけです。「ボールのようなことば。」という糸井重里さんの書かれたエッセイ集です。この中のある部分にとてもグッと来たので、最後にこれだけご紹介させてもらって締めくくりにしたいと思います。
それはそうと、ちょっとマジメな話なんだけれど、
ぼくは、ほとんどすべてのこどもの「願い」を、
とっくの昔から、よく知っています。
時代が変ろうが、どこの家のこどもだろうが、
それはみんな同じです。
おもちゃがほしいでも、
おいしいものが食べたいでも、
強くなりたいでも、うんとモテたいでもないです。
「おとうさんとおかあさんが仲よくいられますように」
なのです、断言します。
それ以外のどんな願いも、
その願いの上に積み上げるものです。
おとうさんとおかあさんが、
それを知っていたからって、
仲よくできるわけじゃないんですけどね。
それでも、知っていたほうがいいとは思うんです。
両親が、それを知っていてくれるというだけで、
だいぶん、こどもの気持ちは救われます。
仲のいい家族は、それだけですべてです。
(糸井重里 著「ボールのようなことば。」 )
こんな文章も味わってもらいながら、これから子育てをする家を考えていただけたらと思い、ご紹介しました。60歳のオヤジの説教がましい、上からの話に聞こえたら本当に許してほしいです。そんなことも頭に置いてもらって、子育てが安心できる家づくりを考えてみてください。
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