木造の家をリノベーションする時の考え方(構造編)
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今日は木造住宅のリノベーションについて、大事な考え方を解説していきたいと思います。
最近の値上がりなどによる先行きの不透明感から、初めて家を求められる時に「新築ではなくリノベーションもいいかな」と考える方はとても増えてきました。日本の環境を考えたら、これからはリノベーションが選択肢の1つになっていく気もしますので、その辺を踏まえて解説していきたいと思います。
木造住宅のリノベーションについては、師匠の松尾先生が構造塾の佐藤先生とセミナーをされた時の備忘録に、これはみんなとシェアしたいと思うことが書いてありました。私が解説するのもおこがましいですが、私なりの解釈も含めて説明していきたいと思います。
まずはおさらいですが、 リノベーションの類似の言葉にリフォームという言葉があります。これらは何が違うのか。諸説ありますが、私が考える1つの定義は、リフォームとは新築当時の状況に戻す修理する・直すみたいなイメージです。一方リノベーションは、新築の時よりさらに性能や中身を良くすることだと理解しています。性能面の向上が、リノベの1つの柱になるということです。
その方向性は2つあると思います。1つが構造の補強です。古い家は昔の基準で建っていて老朽化しているため、補強をした方がいいと思います。できれば、新築当時よりも丈夫にしたいです。もう1つが、その家の断熱性能と気密性能、いわゆる居住性の改善になります。今日は構造の補強に絞ったお話なので、断熱・気密の改修はまたの機会に解説しますね。
さて、構造の補強について、7つのステップで順番に考えていきましょう。ステップ1は、リノベーションする家を決める際、その建物が西暦2000年以前に建ったのか、それ以降に建ったのかを確認することです。日本は1995年に阪神淡路大震災を経験して、その反省から木造の家の強度を上げることになりました。画期的に強度が上がったのは、外壁に構造用合板やダイライトなどの面材を張って、筋交いだけでなく面で強度を上げるようになってからです。床も、昔は大引きや梁の上に根太を組んで、その上に床の下地板やコンパネを張っていました。それを、厚物の24mmぐらいの直接梁に打ち留めるやり方に変えたのです。これはいわゆる剛床化と言います。こうした工法ならその建物は安全だと考えられるし、仮に補強することになっても、お金を掛けなくても充分に丈夫になると言えます。
2つ目のステップは私たちにとって耳の痛い話になりますが、2000年以前の建物の中で地場の工務店さんが建てた家は品質に強弱があるので、気を付けなければなりません。例えば、大手ハウスメーカーさんやツーバイフォーの家は比較的、構造的に大きな瑕疵がないと言います。しかし、地場の工務店さんが建てられた家の中には、工法が古かったり施工の精度が曖昧なものがあるため注意が必要です。
つまり中古住宅を買う場合は、2000年がポイントになります。例えば立地がいいなと思っても、2000年より前の建物だったら補強にお金が必要だということがある。反対に、2000年以降の建物であれば補強にお金が掛からないからお買い得だな、と判断できますよね。これを1つ目安にしてください。
そしてステップ3が、屋根を軽くすることです。建物をリノベーションをする時に一番効果の高いものは、屋根を軽くすることだと言われています。なぜかと言うと、頭が重いと地震の横揺れによる地震力が大きくなり、倒壊の危険性が高まるためです。反対に軽くすれば揺れも小さくなるため、屋根を軽くするだけで簡単に家を強くすることができます。日本は瓦屋根信仰で瓦屋根を使う家が多いですが、例えば軽量の瓦・金属屋根・コロニアルにすると重量が減るので、選択肢に入れるのがいいでしょう。
4つ目のステップは、今いる家に住みながらリノベーションする場合に確認が必要です。2階に荷物がやたら多い家ってあると思います。例えば子ども部屋が残っていて、もう巣立っているのに子どもの本が積んであるとか、弾かないピアノを置いているとか。そういう重たい物が2階以上の階にあるなら、それを下に降ろしたり処分したりすることも、非常に重要です。これは家自体の改修策ではありませんが、とても効果が大きいと言われています。
そしてステップ5です。この辺りから建築にまつわる話になっていきます。2階と続きになっている1階の外壁を丈夫にしないと、家は脆くなるという話です。危ない間取りみたいな話を以前にしたことがあります。
▼流行りだけど危ない間取り
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結構な方に観ていただいてるようですが、一番問題が起きやすいのは下屋という所だと説明しました。ここには壁がないことが多いんです。だけどここに何らかのことをしないと、家を強くすることは難しい。昔の筋交い中心の建物は外周に面材を張っていないことが多いけど、費用の問題もあって、めくるというわけにはいかないじゃないですか。そんな時は、この下屋の部分を何とかすることも非常に有効ということになります。
6番目は小難しい話になってしまいますが、壁の強さを表わす1つの尺度に壁倍率というのがあります。同じ壁に見えて2倍の強度があるものを、壁倍率が2倍の壁と言います。よく人情で「壁を増やしたくないから、強い壁をあまりたくさん作らずに家を作ったらいい」と思う人が多いです。しかし、これはなかなか危険を伴うということを知っておいてください。壁を補強する時は、高い倍率の壁を少なく配置するよりも、弱い倍率の壁をある程度たくさん配置する方が望ましいのです。それが構造的にバランスが取れていることになります。
古い家の大きな問題は、どんな基礎なのかわからないという点です。今は鉄筋が入ってホールダウンアンカーがあるのは当たり前ですが、昔だと無筋のコンクリートしかないような基礎もあります。基礎自体が非常に弱いことで何が問題かと言うと、2倍の壁の時は地震力が横から掛かると2倍の引き抜きが掛かるのです。壁を強くしたと言っても、引き抜きに対抗しようとする力が発生するので、その時に基礎としっかり結びついてなかったらコテッと倒れる恐れがあります。それが4倍の壁だと、強度が4倍なので引き抜きも4倍になります。下手をすると、少々のアンカーボルトだと引きちぎれたり抜けてしまうのです。せっかく壁を強くしても、地震の時に本末転倒になることがあり得ます。
昔、とあるお客様の家づくりの最中、「息子の家が心配だ」と言ってお施主さんのお父さんが見に来られたことがあります。「しっかり作ってくれているとわかるけど、筋交いを入れられるだけ入れてやってくれないか」と言われました。それは人情でわかりますが、筋交いをたくさん入れるほど、場合によっては家のバランスが崩れて偏心・重心が崩れたり、そこを強化することでものすごく強い力が掛かって却って不利ということがある。「ちゃんと構造計算をして建っている建物なので、親心はよくわかるけど安心してください」と一生懸命説明して安心してもらいました。丈夫な壁にすれば家は安心だと思われると思いますが、それらは連鎖するものです。単純に数を多くするだけでは総合的に家が強くならないということを、1つ頭に置いておいてください。
そして最後にステップ7。これは構造塾の佐藤先生がおっしゃったようです。さっきも言いましたように、基礎が健全かどうかわからないような建物もあります。そんな時は、そもそも無筋レベルの基礎という前提で考えようということです。例えば接合部はN値という数値を見ますが、それも期待しないということになります。
接合部に関しては、どこかの訪問販売さんが「引き抜きを強化する金物を付ければ家が強くなりますよ」みたいな感じで、よくわからない物を強引に営業されているのを過去に見たことがあります。そんなことをしなくても、それ以外で安全性を担保するという構造的アプローチがあるのです。そんなに大げさな金物を作らないで壁を小さく改良していく形なので、意外とお金が掛からないことだってケースによってはあります。
以上のステップで木造の家のリノベーションを考えてもらうと、構造強化がとても楽かなと思います。少し専門的かもしれませんが、ぜひ参考にしてみてください。
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