幸せのかたちからキッチンを考える
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今日は、幸せのかたちから考えるキッチンをテーマにお話しします。「住まいの解剖図鑑」という本は、僕らの業界では有名なバイブル本です。それを書かれた増田奏先生が、「そもそもこうだよ住宅設計」という本を出されています。この本の中で、幸せのかたちとキッチンの関係性について論じられている部分があります。それを読んでとても共感をしたので、ぜひみなさんと分かち合いたいと思い、喋ることにしました。
先生は「キッチンにはいろんなタイプがあるから、まずはその確認をしよう」と提案されています。形で言えばI型・L型・U型・パラレル型がありますが、そういったレイアウトのことを言っているわけではありません。「食事という人の営みに思いを寄せて、キッチンのタイプを考えてみよう」という提案なんです。その上で、「調理した本人もご飯を食べるキッチンか?」という命題が掲げられています。
レストランに食事に行くことを考えたら、「食事とは舞台である」と先生はおっしゃっています。どういうことかと言うと、調理する人・できた物をサーブする人・食べる人・片付けする人・そしてそれを洗ってしまう人です。作る・出す・食べる・下げる・洗う、この5役が、食事という営みの舞台なんだということをおっしゃっています。
具体的なキッチンの種類は、5つあります。クローズドキッチン・オープンキッチン・ダイニングキッチン・アイランドキッチン・カウンターキッチンです。レストランでは5役に分かれていても、家庭においては5役を全部1人でやることがあります。家事と料理の担い手が奥さんだったら奥さん、お父さんだったらお父さんがやることが多いですよね。増田先生は、これを踏まえて選ぶキッチンは分かれるとおっしゃっています。
クローズドキッチンというのは、言ったら裏舞台。作ること自体が裏側なんです。そこで料理を作って順番に出していって、出し切ったらエプロンを外して、じゃあ私もご飯を食べようと出ていくようなキッチンです。私の時代のお母さんたちは、そういう美意識の方が多かったのではないでしょうか。要は台所・厨房に男性を入らせない。ここは私の管理場所で、私が全部仕切るという感じです。
それに対してアンチテーゼみたいに始まったのが、オープンキッチンです。完全クローズドじゃなくて、料理を作っている人がダイニングにいる人とコミュニケーションができる。1段高いカウンターがあって、作業中の手元はあまり見えないけど、「そろそろ料理を出していい?」みたいな感じで会話ができるキッチンです。作る人がひとりぼっちにならないので、これはすごく好まれました。
次がダイニングキッチンです。これは、言ったら全てが裏です。キッチンもダイニングも全部裏側というか、寝室に相当するぐらいのプライベート空間。このキッチンを改めて思い返すと、サザエさんの家がそうです。壁際にキッチンがL型にあって、真ん中にテーブルもあって、食事を作って配膳してそのままそこで食べる。料理を作ってはいどうぞと出せるので、合理的と言えば合理的です。それから、アメリカ映画で多く見ますよね。キッチンがあってそこにテーブルもあって、朝食なんかもそこで食べる姿があります。そしてそこに入ってくる人は、ものすごく親しい友だちです。朝、家に迎えに行ったら「○○も朝食を食べて行きなよ」「コーヒーでもどう?」と。そこに招かれると、「あなたのことを信頼しているよ」みたいな感じになるキッチンです。
次にオープンキッチンの拡大版として出たのが、アイランドキッチンです。オープンキッチンは作る所がガチャガチャするから隠すけど、アイランドキッチンはおいしい料理を作っているのだからどんどん見せようというコンセプトのキッチンです。料理研究家とか料理評論家みたいな人が使うキッチン、というイメージがあります。料理を作るプロセスまでデモンストレーションする感じで、ある面ですごく緊張感のあるキッチンです。そういうことが大好きなご夫婦もよくいらっしゃいますよね。そういう家庭に、これは向いています。さっきのダイニングキッチンが全て裏だとしたら、これは全て表舞台みたいなものです。
そして最後にカウンターキッチンです。ちょっとしたカウンターのある料理屋さんみたいな感じで、前のカウンターにどんどんご飯を出していくタイプのキッチンです。例えば共働きのお家にもいいですよね。シニア夫婦2人だったら、料理を作って「はいどうぞ」「おいしいね」と向かい合ってやるような。料理を作り終わって、カウンターに並んで座ってワインを酌み交わす、みたいなイメージだと思います。さっきのアイランドキッチンほどではありませんが、「たまには俺が料理番をやっちゃうよ」みたいな時は、キッチンスタジアムみたいな趣もあります。ズラーッと4〜5人が並んで森田監督の家族ゲームのような感じではなく、少人数で利用するのに向いています。
このように種類がある中で、どうやって決めていけばいいのでしょうか。家族構成や働き方、料理を作る方の好みや美意識はそれぞれあります。その美意識とは、すなわち人間の幸せと密接なことだから、幸せのかたちから考えたら自ずとキッチンの型が決まるよね。だからキッチンって面白いんだ、と増田先生はおっしゃっているんです。要は調理した本人が、食事を食べることに対してどういう関わりを持っていくかというところで、キッチンの形は決まるということです。今、基本設計を進めている方にも、こういう視点で「うちの家は何がいいかな?」と考えてもらえたらと思います。
増田先生の本を読んでいいなと思ったのもありますが、今回喋りたいと思ったきっかけは、あるお施主さんの奥様との会話でした。「私はオープンキッチンがやりたいんです」「でもオープンキッチンってT字型(キッチンの前にテーブルがあり対面になる形)で、作った人が食べる番になると、ぐるっと回らないといけないですよね」「だから横にテーブルを置きたいんですけど、森下さんはどう思います?」と聞かれました。奥さん、とても素敵な考え方ですよね。パッと行けるということは動線が軽やかになるし、食べる時にみんなで一緒に食べたいというメッセージにもなるからいいと思います。設計する立場で言うと、T型のオープンキッチンの方が、スペースが少なく済むからやりやすいんです。サイド型のオープンキッチンは、それだけ面積を取ってしまう。でも、今回はその奥様が思われる幸せのかたちが形になってるやり方なので、実現する価値があると思います。そういうことを考えることがとても大事だし素敵なことだなと思ったので、これをみなさんと共有したかったんです。
最後に、増田先生は「キッチンを考えることはすなわちダイニングを考えること」とおっしゃっています。ダイニングの1つの姿として、例えば鍋を囲むとか、ホットプレートを囲むとか、焼肉の七輪を囲むとか、みんなで囲んでダイニングで食べるってすごく楽しくていいですよね。先生はこうおっしゃっています。「つまりみんなで一緒に食べることが幸福なんだ」と。「調理をしたものをすぐに食べる」というのが喜びなんだと。この言葉にグッときちゃいました。調理をしてすぐに食べる、みんなで調理しながら食べるみたいなことが
、すごく楽しい幸せな瞬間ということなんだと思います。もちろん普段は働いていて忙しいから、みんなが揃うことがそんなにないという時であっても、それをどんな風に作っていくかは大切です。
暮らしには必ずハレの日とケと言われる日常があります。キッチンではハレとケをどう過ごすかということが、すごく絡み合ってくるんじゃないかと思います。近頃は、そうやってみんなで食事することの方が稀で、みんな空いた時間でご飯を食べるんじゃないでしょうか。だから冷凍食品も発達してるし、冷蔵庫・電子レンジ・保存用の機械がいっぱいある。食事の時間をタイムシフトするようなことも、すごくやりやすくなっていますよね。それはケ、日常です。
でもハレも必ずあるんです。それはなぜかと言うと、みんなで一緒に食べるのが幸せだから。その時は、普段調理している人だけじゃなくて、他の人も手伝ったりできるといいですね。いつもはお母さんが調理担当だったら、たまにはお父さんが頑張る。お父さんが料理が得意だったら、さらに得意料理を発揮してやってもらえるようなキッチン・ダイニングというのが、とても幸せなものになるのかなと思います。
今回は、自分の好きなテーマなので熱くなりました。こんな感じで家づくりを考えてもらうと楽しいかなと思います。参考にしてみてください。
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