のぼりやすくなる階段を解説します
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今日のテーマは階段です。
階段は間取りを考える際、なかなか厄介な存在です。僕がまだ大学生で、間取りを作る課題を出された時、一番最初の難関は階段でした。
「すごくいい間取りできた!」と思って先生に見せたら「階段どこにあるの?」と言われて。実作業では忘れやすい存在なんですね。しかも、いい間取りというのは、階段のことを考えなければ簡単にできやすいという面もあります。この話は、建築関係の方できたら「そうそう」と共感していただける内容かなと思います。
でも家づくりの経験を重ねていくと、階段というのは絶対に外すことはできないけど、工夫のしどころがある面白いものに変わっていきます。
みなさんが階段を考える時、知っておいてほしい寸法がいくつかあります。実際、建てるときは「登りやすい階段つくってください」という言い方でいいと思うのですが、やっぱり知識や関心があると、形にしやすいと思います。
1つ目の寸法は「階高」です。
階高というのは、1階の床面から2階の床面までの高低差です。
2つ目は階高の下の寸法。「天井高」と呼ばれるものです。
2階建ての家の場合、2階の床のすぐ下は1階の天井にはなりません。「懐」と言って梁や電線を通すためのスペースが必ずあります。なので2階の床面から懐を引いた高さが、天井高になります。「階高」と「天井高」に階段というのは大きく左右されます。
次に知っていただきたいのが「蹴上げ(けあげ)寸法」です。階段1段分の高さと思ってください。
次が足をのせる面。建築業界では「踏面(ふみづら)寸法」とか「踏面」と呼びます。踏面の広さも、階段ののぼりやすさを左右します。
もう1つ重要な寸法が「蹴込み(けこみ)寸法」です。
階段は、蹴上げの立ち上がりのところが若干内側に入っています。ここの寸法を「蹴込み寸法」と言います。この蹴込み寸法が無い階段というのは、すごくのぼりにくい階段です。
「階高」と「天井高」というものがあって、その中で「蹴上げ寸法」「踏面寸法」「蹴込み寸法」を、どう上手く設定するかがのぼりやすい階段を実現するポイントになります。
家づくりで階段のことを考える時、「のぼりやすい階段を作ってください」と言ってお願いされる方が多いです。もちろん、そうした言い方で問題はありません。
ただ、設計する側は先程のような知識を持って一生懸命説明するけど、分かりにくいからスルーされてしまったりとか、完成した後に「あのときの説明が足りなかった」と言われてしまうこともあるんですね。こちらの力不足もありますが、建てる人が、こうした知識や話に少しだけでも関心を持ってくださると、お互い満足度の高いものができるので、ぜひ聞いていただきたいです。
また階段の寸法の話に戻ります。もう1つ重要な寸法で「階段幅」というのがあります。階段幅が広いと、2階から下りてくる人と1階からあがってくる人が行き来しやすくなります。
一般的に図面はモジュールと言って、畳一畳くらいの中心寸法を使って作成します。この時点では91cmぐらいあるのですが、実際の有効寸法ととなると約75cm〜78cm位に変わります。なので、一般的な階段幅は約75cm〜78cmが多いです。
メーターモジュールと言って、モジュール寸法1mのもので考えられているときは、有効寸法が85cm〜87cmくらいになります。この場合は少しゆとりのある階段幅になります。廊下が85cm〜87cmの幅だと車椅子も通りやすくなります。
僕たちが基本プランで階段を考える場合、段数は13段が基本になります。モリシタ以外のところでも13段の階段は結構よく見かけますね。
今回、この動画を見ているみなさんに、取り組んでみてほしいことがあります。ぜひ今の家の階段が一体何段あるのか数えて見てください。それから1段が何cmくらいなのかも知ってもらえたらと思います。
例えば、階高3mの少し背が高い家に、13段の階段があるとします。1段分は大体23cm位になります。ここから階高を約7cm低くすると 1段21cmになります。
23cm、21cmと数字を聞くだけでは、あまり違いが分かりませんよね。でも実際にのぼっていただくと、人によって感じ方が違います。おそらく23cmは、1段が高いと感じる方が多いと思います。特に子どもさんやお年寄りの方、小柄な方はのぼりにくいかもしれません。
僕が理想とする1段分の高さは20cmです。実際に反映するのはなかなか難しいです。でも天井高を一般的な2400mm から2800mmまでに上げて、段数を14階段にできれば可能です。
建築科の先生や空間の意匠にこだわりがある方は、天井高を2100mmで希望されることが多いです。その場合はは階高2600mmにして13階段にすると実現できます。
のぼりやすい階段というのには、こういう寸法感があると言うことを知っていただきたいです。「ウチの家は1段何cmかなぁ」と測ってみたり、例えば住宅会社さんのモデルハウスに行ったら「ここは何cmかな?」と測ってみてください。
「俺は20cmじゃないとヤな感じする」とか「あ、全然23cmでもオッケー」みたいに、快適な寸法というのが分かってくるはずです。
階段には、バリアフリー階段と言って、お年寄りでも子どもでもみんなに優しい階段というものがあります。これには定義があります。
蹴上寸法A 、踏面寸法Bとしたとき、
(Aの寸法×2)+(Bの寸法)=55cm〜65cm
となればバリアフリー階段になります。勾配に換算すると6/7以上というのも知っておいてくださいね。
この話をした上で、登りやすい階段を考える際に、とっても重要なものが3つあります。
1つ目が「転倒防止」です。当たり前のことではありますが。人は、1段分の高さがルール内に収まっていても安心してのぼれないことがあります。だから手すりが必要になったりします。
2つ目が「ノンスリップ」。
よく小学校に行くと、踏面の端にゴムが張ってありますよね。ツルッと滑らないようにするのがノンスリップです。これがあると登りやすくはなりますが、足があまり上がらない人は、転倒の原因になることがあります。なので年齢や足の状態に合わせて考えるようにしてください。
3つ目が踊り場です。
踊り場があるかかどうかで、階段ののぼりやすさは大きく変わります。
階段は大きく言うと3つに分けられます。
1つが直階段。まっすぐにつくられた階段ですね。
2つ目がL型に曲がっているもの。上曲がりとか下曲がりなど、いろいろなバリエーションがあります。
3つ目がU階段です。
直階段は家のスペースが限られているときに、重宝します。一方でデメリットは、高いところで転んだら一気に下まで落ちる危険性があることです。それを防ごうと思ったら、途中に踊り場をつくる必要があります。
「階段なんて余分なものやから、できるだけ面積小さくしよう」と思われがちですが、踊り場を確保しておくと、のぼりやすくて快適な階段になります。
あとは、曲がっている部分を、こんな風に斜めにしたり、3つに切る方法もあります。人間というのは、どうしても近道をしたくなるんですね。なので、こんな感じにショートカットしようとします。そうすると踏面の面積が小さくなって、滑りやすくなります。だから、上曲がりでも下曲がりでもU階段でも、なるべく真四角の踊り場があると、滑りにくくなります。心理的にも快適になります。
別のアイデアで、こういうものもあります。例えば2階建ての家だけど、年を取ったときの生活を想定して、基本のことは1階で済む間取りにする。こういう計画なら、将来階段を使う機会は少なくなるので思い切って直階段にする、というのもありです。
一方で「階段はトレーニングになるから、将来も2階の寝室で寝る」という計画なら、安全面を考えて転倒対策をしっかりする、踊り場もつくる、というのをおすすめします。
都会で敷地が小さい時は、寝室が2階になりがちです。なので狭小地で家を建てる際は、踊り場をどれだけ上手につくるかというのが、快適な階段をつくる上で重要になってきます。また、子どもが小さい時にはケガのリスクを抑えることにつながりますので、そうしたことも頭に置いといてください。