勾配天井のメリット・デメリットを考える
今回は勾配天井のメリット・デメリットについて解説します。
最近、勾配天井をうまく取り入れた家を目にする機会が増えたり、お手伝いすることも多くなりました。勾配天井とは、屋根の勾配に合わせて設計・デザインされた天井を指します。平屋の一部や2階建て以上の屋根と吹き抜けを活用し、家の内装やデザイン性、快適性を高めることが目的です。
しかし、実際に住み始めてからデメリットを感じる方も少なくありません。デザイン・快適性・メンテナンスの3つの視点で、失敗と感じるケースがあるようです。デザイン面では、勾配天井のデザインが自分の好きなインテリアと合わない、天井が高すぎて落ち着かない、または低すぎて圧迫感を感じるといった意見が見られます。
快適性については、空調が効きにくいと感じる方が多いです。夏は天井に熱がこもり暑くなり、冬は暖かい空気が上に溜まってしまい、下が寒いといったことが起こりがちです。また、雨音が気になる、音が響きやすいといった問題を指摘する方もいます。
メンテナンス面では、シーリングファンの掃除が大変、勾配天井に設置した天窓が暑くて仕方がない・結露が生じるといった声もあります。勾配天井を支える水平の梁が目障りだったり、ホコリが溜まりやすく掃除が大変と感じる方もいるようです。
しかし、私は多くのデメリットは工夫次第で解消できると考えています。そこで、勾配天井のメリットについて4つの視点で整理してみました。それは、天井の配色・照明・家具・装飾(インテリア)です。
まず配色についてですが、低い天井の場合、明るめの色を取り入れると広がりを感じやすくなります。逆に高い天井には、少し暗めや濃いめの色を使うと空間が引き締まり、良いバランスが取れるようになります。勾配天井に木材を貼るなどの工夫も、こうした効果を狙ったものです。
照明に関しては、低い天井の場合、天井全体を下から上に照らすことで明るさをとると、天井面が明るくなり、空間が広く感じられます。高い天井の場合は、逆に上から下を照らす形が良いでしょう。もちろん、上を照らす照明も使えますが、下を照らす要素があると、空間のバランスが取れます。
家具については、低い天井には低めの家具を置くのがおすすめです。低い空間に背の高い家具を置くと不釣り合いですし、圧迫感も出やすいです。高い天井には、背の高い家具が似合い、空間が調和します。
装飾については、低い天井の場合、小さめの雑貨を散りばめると良い感じになります。一方で、高い天井には、大きな額縁やファブリック(布)タペストリーなどの装飾が映えるでしょう。ある人が「ギャベ」という敷物を壁掛けに使っていて、私も最初は驚きましたが、非常に素晴らしい雰囲気でした。こういった自由な発想で、勾配天井の楽しみを広げるのも素敵だと思います。
次に、空調の効きに関してですが、これは断熱性と気密性の問題です。勾配天井の断熱性能が低いと、夏は屋根から熱が伝わり、冬は暖気が逃げてしまいます。ですので、勾配天井の断熱性と気密性を高めることは非常に重要です。
最近、金属屋根の雨音が気になるという方もいます。雨音を抑えるためには、断熱層を厚くしたり、ガルバリウム鋼板の下に遮音・吸音効果のあるフェルトのような素材を敷くなどの工夫が必要です。勾配天井にするだけではなく、こうした点もトータルで考えることが重要です。
最後に天窓についてですが、少し費用がかかっても質の高いものを選ぶことをおすすめします。可能であれば開閉機能があるものが理想的です。私も以前は天窓を否定していましたが、広島の建築家、衣川さんの設計を見て考えが変わりました。広島市内では周りに高い建物が多いため、光が入りにくい環境が多いそうです。衣川さんは『天窓は暑くない』と言っていて、実際にその天窓は驚くほど暑さを感じませんでした。使用していたのは、日本ベルックスの製品で、光の熱が入りにくい設計で電動開閉も可能です。夏には熱気が一瞬で抜けるように設計されており、質の良いものを選べば天窓も非常に有用であると最近学びました。
シーリングファンや照明の設置に関しては、フロアから3m以内の高さに設置することをおすすめします。3mを超えると掃除が難しくなるため、掃除を前提に設置場所を工夫することが大切です。梁があると掃除がしづらいこともあるので、ほこりが溜まりやすい点も考慮しましょう。なお、高気密・高断熱の家で一種換気をしている場合、窓を開ける機会が少ないため、ほこりの問題が緩和されることもあります。また、脚立を収納できるスペースを用意すると便利です。
勾配天井の最大のメリットとして「抜け感」があります。建築家の飯塚豊先生は、建物の端から端まで見渡せる空間が「抜けがある空間」であると定義しています。端から端まで見渡せる先に窓があり、外の景色が見えると開放感が生まれます。高い位置に窓を設け、風通しが良くなるようにすることで、夏場には熱い空気が自然に抜けて快適です。
都市部の狭小地であっても、南側の隣家の影響を受けやすい場合、天窓を設けることで北側から自然光を取り入れることができます。また、地窓を設けて足元に植物を配置すれば、空間に緑が映えて爽やかな雰囲気になります。衣川さんが提唱するように、天窓を適切に配置すれば、光のラインが時間とともに変化し、空間がまるで「太陽の時計」のように動く美しさが生まれます。
また、勾配天井には構造上梁が入ることがありますが、この「あらわしの梁」を見せるデザインも一つの選択肢です。場合によっては梁なしの設計も可能で、最近ではモデルハウスに梁なしの勾配天井を採用し、広々とした印象を作りました。梁を見せる場合、勾配に合わせて梁を下部に設置する方法と、断熱を考慮して梁が勾配にめり込む方法があります。堀部先生や伊礼先生は「めり込む梁は美しくない」と考えていますが、断熱を優先する場合には必要な選択肢です。このように、デザインの美しさを追求するか、機能性を優先するか、楽しみながら勾配天井の魅力を引き出してもらえればと思います。ぜひ参考にしてみてください。