子供部屋のあり方を考える(巣立ち編)
今回は子ども部屋のあり方について解説します。
子ども部屋の話なんですが、子どもの巣立ちも絡めて考えていけたらと思っています。
私の友人で谷澤さんという学習塾の先生がいらっしゃいます。彼は新潟で学習塾を経営されていて、勉強がうまくいかない子どもたちを預かって勉強させて、地元の有名な進学校に行かせることに尽力している、すごく人間味あふれる塾の先生です。彼が「勉強部屋って良くないんです」「子どもにとって残酷なんです」と私に言ったことがあります。彼はどうやったら子どもが学習意欲を高めて学力をつけていくかということをすごく突き詰めて考えた方です。「そもそも勉強の基本って分かります?」と聞かれました。良い歳して勉強の基本と言われてもって感じだったんですけど、私は勉強できなかったから余計に悩みました。
ポイントは2つほどあるそうです。まず最も大事なポイントが「集中力の維持」とおっしゃっていました。そりゃそうだなと思いましたが、小学校の低学年ぐらいの子どもはじっと椅子に座って机の前にいること自体が難しいんです。何かを読むとか暗記することの前に、机に一定時間座れるように癖づけしていくことを工夫してやらなければなりません。どう集中させるかということが大事なんです。
谷澤さんの学習塾の様子を見たことがありますが、九州のラーメン屋さんのように「味に没頭せよ」という感じで仕切りがありました。そして子どもが並んでいるんですけど、私語一切なしでカリカリとドリルをやっています。それで谷澤先生が回っていて、質問をしたかったらする感じです。谷澤先生はとにかくグルグル回っているんです。その結果、谷澤先生は全然教えてないと気がつきました。教えなくても子どもは集中させることができれば自ずと学んでいくらしいです。
家づくりとあまり関係ない余談ですが、谷澤先生は集中力ができた次に必要なものはスケジューリングだと言っていました。勉強のスケジュールを組めない子はなかなか学力は上がらないそうです。
「集中力の維持」の概念がなく、子ども部屋を考えたらアカンと思います。私が子どもの頃の1970年代は日本が高度経済成長期でいい時代だったと思います。当時父親が家を建てて「誉樹、お前の勉強部屋作っちゃるでな」と言われた時は嬉しかったです。それまでは広い部屋に弟と2人だったので、私にも勉強部屋ができるんだという感じでした。でもほぼ勉強したことはありませんでしたが、それぐらい勉強部屋という言葉に引っ張られて、居心地の良い部屋にしたら集中して勉強できると言っていました。しかし、集中は居心地の良さと関係ないと思わないとアカンです。子どもを勉強させるのにはどんな環境がいいのかというと、自宅学習は初期としては完全な個室を与えるより、曖昧なところに置いてある方がいいそうです。
キッチンの横に机があって、そこで勉強する。キッチンで料理を作ったりしていい匂いがしてきて夕ご飯なんだろうと思うようなところでやる方が、子どものためにも親のためにも良いと言っていました。勉強ができる子で、ながら勉強ができる子はすごく多いそうです。中学生とか高校生ぐらいになっても自分の部屋ではなくリビングの角で勉強しています。うちの娘もテレビの前に座って勉強していたので「勉強できるの?」って聞いたら「全然大丈夫」と言っていました。真面目に勉強できていたのでそういうものだろうと改めて思います。
子ども部屋は作ってあげたいと思いますが、作るとしたら何が必要なのかを考える必要があると思います。広さがどうかと言う前に子ども部屋の肝は何か、というところです。その問いを大島健二先生が素晴らしい教えをまとめていらっしゃいました。子どもはせいぜい10〜18歳までのことを言うので、10歳未満の子は幼児みたいなものです。反対に18歳になったら子どもではなく大人です。高校3年生が終わったら子ども部屋は個室になります。そうすると子ども部屋ではなく、居心地のいい個室を作ることを親としては考えておかなアカンと思うとおっしゃっていました。
私は何回も言っていますが、娘2人を溺愛しているバカな父親です。娘にずっとそばに居てほしいんですけど、最近相次いで長女は嫁ぐかもしれないとか、次女は自立するからと家を出てしまってめちゃめちゃ寂しいです。愚痴を女房にいつも言ってなだめられているバカな父親です。でも、そういう寂しさを置いておいて子どもの人生を考えたら「父さんお母さん今まで育ててくれてありがとう。これから一人でしっかり頑張っていくね。でも時々帰ってくるからその時はよろしくね」と言ってくれる方が良いですよね。子どもが気がついたら30歳過ぎてもニートとか言われたら心配ですよね。
なので早く世の中で一人前になって出ていって、大人になってもらうのが親の理想だと思います。そして本人もそれを希望するなら、居心地がただ良い部屋もどうなのかと思います。つまり子どもの巣立ちをどう考えるかということも大切です。
大島先生と自分の考えを織り交ぜて言うと、均等な個室群を作るのがいいと思います。喧嘩しないようにするために2階の個室って多いですよね。ある種、独房みたいな感じです。これを大島先生は、例えばピクチャーウィンドウがあって景色が素敵な部屋と、秘密基地みたいなロフトがある部屋と天井がR状になっていて堀ごたつがあるまったりする部屋と分けた方が個室群としては多様性が生まれて良いとおっしゃっています。
子ども部屋と限定すると窮屈になりますが、個室群として考えたら必要なものは多様性だと言い切られているのを聞いた時に、なんて清々しい言い切りだと思いました。子ども部屋は、わずかな期間で個室群になっていくので、多様性を持つ視点で考えたらもっと選択肢やこだわりが少なく作れると思いました。
例えば子ども部屋の複数を考えて、スペースが限られる問題があるとします。子どもの頃、私と弟は2段ベッドで寝ていましたが、プライバシーもへったくれもないです。中学生になったら2段ベッドを分解してそれぞれの部屋で寝ていました。
例えば乙型作りつけベッドというロフトみたいな感じの部屋もあります。ロフトほど高くないですが、部屋の階段から半分ぐらいのところにベッドがあって、そこにプロジェクターをつけたら映画やゲーム好きの子は嬉しいですよね。下にはベッドを置いて穴蔵みたいな感じになってそこで寝ると、籠った感じで安心して寝られます。この作りつけベッドは、ほどほどの狭さとほどほどの子守り感を与えて個性ある個室群の方向性に持っていける感じです。それから大島先生は、初めはワンルーム状だけど2つに分けて各部屋にできるということも書かれていました。
一方で私の師匠の飯塚先生は男兄弟の弟なんですけど、「なぜ俺は兄貴と同じ部屋なの」とすごく小さい頃から思ってたそうです。それは「親のエゴです」とおっしゃっていました。どんな小さい弟でも個室はほしいんです。確かに私は兄貴なので一番最初に個室をもらえましたが、本当はみんな最初からバラバラでいたかったかもしれないです。こんな形で個室群を考えてほしいです。
最後に巣立ちが終わった後は、ホテルライクな部屋にするんです。ホテルのシングルルームみたいな部屋にしたり、スペースがあればソファーを置いたらいいですよね。私の娘はとっくに巣立っていますが、たまに帰ってきてくれます。「今日は泊まらへんの?」と聞いて「今日は帰る、明日仕事やから」とか、「今日は泊まるよ」「パパ、ゆっくりお酒飲んだるわ」「それは嬉しいな、飲んでくれ」というような会話をしています。
ホテルライクな部屋は、子どもが気軽に帰ってきてくれるスペースにもなります。友人でもそうですよね。たまに私も女房に怒られて一人寂しくホテルライクな部屋に寝る選択があるかもしれません。それは冗談としても、子ども部屋がいつか巣立っていくためのステージであるならば、親は子供を立派に育てたいというのは親の自己実現です。その先の自己実現の一つが、時々子どもや孫が「今日はじいじのところにばあばと一緒に泊まる」とか言ってくることだと個人的には思います。そういうことまで考えて子ども部屋のあり方を考えたら面白くないですか? 長いスパンで考えなくても、「今がとりあえずなんです」という気持ちは、私もそうやって生きてきたからわかります。
でも子ども部屋は勉強部屋という括りならもっとコンパクトな一畳ぐらいの学習ブースを作った方が集中します。それより子ども部屋は彼がゆっくりしたり個人のプライバシーを発揮する場所というところでは、例えば3人兄弟だったら3人で半年に1回部屋を入れ替えてもいいかもしれません。来週からロフトの部屋になるとか、掘りごたつラッキー! みたいな感じです。そんな風に作ってもらうと、子ども部屋の広がりが出てくると思います。ぜひ参考にしてみてください。