佐藤先生からの提言:建築基準法にまつわる「安全な家」の意味を知る
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今回は建築基準法にまつわる「安全な家」の意味について解説します。
2024年元旦に、能登半島で地震が発生いたしました。まずは被害を受けられた方に、心からお見舞いを申し上げます。また、被害に遭われた方が一刻も早く平常の生活に戻られて、一刻も早く復旧・復興ができますことをお祈り申し上げます。
本当に改めて思いましたが、地震というのは恐ろしいですね。この地震の被害を受けて、私の師匠の1人である、構造塾を主宰する佐藤先生から、矢継ぎ早にたくさんの提言がありました。そのことを踏まえて私なりの持論も入れながら、地震にまつわる家づくりについて解説をしていきたいと思います。
今回の地震は元旦の日に発生し、次の日には状況がわかり出して少しずつ報道がされてきました。被災をされた方の中には、家が倒壊してぺちゃんこになってしまったけど生き残られた親御さんがいました。しかし、帰省されたお子さんたちが被害に遭われて、待っていた親御さんが生き残られたそうです。その映像を見て、すごくやるせない気持ちになりました。
改めて、安全な家とは何なのかということについて、もう1回みなさんと確認しておいた方がいいなと強く思いましたので、今日はその辺の話をさせていただきます。
今回、佐藤先生から啓蒙するための資料をたくさんいただきました。それを使いながら説明していきます。
まず、安全な家というのはどなたでも欲しいものだと思います。国は何もしていないわけではなくて、安全な家をちゃんと供給しようとか、日本の家を安全にしようということを、すごく真剣に考えています。
住宅の耐震性に関する大きな節目としては、1981年があります。建築基準法の中の施行令の46条で、壁量計算をやれ、ということを決めました。壁量計算とは、壁の量の計算と書きます。
1軒の家の中には柱・梁・屋根などがあり、壁も必ずあります。この壁の量が十分にないと、家の耐震性能は著しく低くなります。これに関して規制をかけて、まずは一定以上の壁の量を確保しろ、ということになりました。
そして、「新耐震基準」という言葉があるぐらいですから、それまでの基準よりも随分と厳しくなり、より地震に強い家ができてきました。この建築基準法でいう基準は、今でしたら一般的に耐震等級1の家と思っていただいていいと思います。
この壁量のことを気にしろと言った後に、日本にエポックな出来事が起きました。それが1995年の阪神淡路大震災です。
僕は割と近くに住んでいるので、その時の衝撃というのは未だに強く思い出します。この時に、壁量を十分にとった家も倒れたりしました。これはどういうことだろう?と国が詳しく調べたところ、壁は十分にあったけどバランスに欠けていたということがありました。
また、柱頭柱脚から外れていたケースもありました。柱頭とは柱の頭、柱脚は柱の足元を指します。柱の根元と頭の部分がそれぞれ、下は土台に、上は梁に結ばれるわけですが、大きい地震の力がかかった時にここがポーンと外れてしまい、せっかく壁があったのに全く無力化してしまったということがあったそうです。
そこで、2000年には建築基準法がさらに改正されました。この時には、「四分割法」というやり方で、壁の数だけではなくバランスも見ようということを決めました。もう1つは「N値計算」といって、柱の頭と足の部分がしっかり固定されて、ちゃんと耐力壁が機能するかどうかの基準も設けられました。
こういうことがあって、主に日本の新築住宅の安全性が高まったという背景があります。
しかし、このように「ここまでが安全な家」と決まってきても、国が目指したものと一般的な人がイメージしているものとで、意識の乖離があったとすごく感じます。
この表を見てください。よく見られた方もいらっしゃるかもしれません。少し前に熊本で、阪神淡路大震災を上回る大きな地震がありました。さらに群発地震と言って、大きな地震が繰り返し襲ったという現象がありました。
この表は、この時の被災の状況を調べて分類したものです。建物の壊れ方を6つに分けています。
まず1つは、破壊・倒壊と言われる、壊れて潰れてしまった状態です。次に、似たような言葉ですが、大破・全壊です。ぺっちゃんこにはならなかったけど、かなりグシャッとしているような状態です。次に、中破と言って、そこまで壊れてはないけどもう少し深刻で、建物が傾いたような状態です。その次に、半壊・小破と言われる、少し壁が割れたりボロボロ取れたりした状態です。次に、軽微と言われる、被害はあるけど本当に小さくて、内装の壁に少しヒビが入ったような状態です。最後に無被害と言って、地震にあったけど被害はなかったという状態です。
この分類で、壊れた家を1軒ずつ調査しました。どういう風に比べたかというと、先ほど言った1981年以前の旧耐震基準で作った家の状況・1981年〜2000年の間の、四分割法・N値計算が導入されるまでの新耐震基準で作った家の状況・2000年に新たな改正を受けてさらに丈夫になった家の状況・その丈夫な家の中でも特に安全を確認して強度を高めた家の状況。この4つを調べました。
すると、旧耐震基準では、倒壊した家が214棟もあったことがわかりました。大破は133棟、小破も373棟で、古い家はかなりの痛手を受けたことがわかります。新耐震規準になるとグッと数が減り、倒壊は76棟、さらに改正されて厳しくなった規準では、その10%以下ほどの7棟になりました。
この有名な表を見た上で、もう1回みなさんに確認です。国がみなさんを守ろうとして決めている建築基準法で、安全な家の基準とは、「倒壊を免れる家」と定義づけているんです。倒壊と大破では何が違うのかというと、大破は、倒壊に比べたら少しマシです。家は住めるような状況ではないけど、命までは奪われなかった、という感じです。
要は、国が決める安全な家というのは「命だけは何とか助かる家」ということです。ちょっと意外ではないですか?
そして、新耐震基準になって、さらに法改正を受けて基準が強化された家は耐震等級1ですが、その中で2ランク上の耐震等級3の家の状況を調べると、驚くなかれ、倒壊・大破・中破に該当するお家は1軒もなかったそうです。そして、小破・一部破損・軽微の家が2軒、全くの無被害だった家が14軒もあったそうです。
表の上の数字と比べたらあまり変わらないかもしれませんが、比率で言うと明らかです。旧耐震基準では、無被害は5.1%ですが、耐震等級3という新耐震基準からさらに基準法が強化されたものでは、無被害は87.5%です。9割近いお家が無傷だったということです。
これをもって、耐震等級3の家づくりを推奨し、業界を挙げて進めていこうという動きに変わり、ユーザーの方もそういうことに関心が強くなってきました。
ここで僕は思いました。安全の基準として、国が出しているものと僕たちが施主・暮らし人の1人として思う安全のニュアンスが、少し違うということです。僕らが考える安全な家とは、人によっては無被害な家かもしれません。少し広く解釈をしても小破ぐらいの、修繕したら全然住めるような家が「安全な家」だと思いませんか?
新築の人はもちろんですが、既築の人であっても、自分は安全な家に住んでいると思っているはずです。自分の家というのは、心の拠り所みたいな側面があると思います。
しかしそこが、こんな大震災のようなあからさまに極限的なことに直面する事態になった時には、この本当の意味が浮かび上がってきます。
安全な家が欲しいということは、みなさん思われるはずです。まず、大地震で命が助かる家に住むこと。これは絶対です。命が助からないかもしれない家は本当にダメです。至急に真剣に、対応していただく必要があると思います。
具体的には、耐震補強をしたり、エリアや家の状況によっては住み替えも考えてもらわないといけないかもしれません。
この動画を見てる人の中には、僕らは年を取っていてあと何年も生きないから、と思っている人もいるかもしれません。うちはあまりお金もないし、そんなこと言われても困ると思っている人もいると思います。
しかし、僕が冒頭に申し上げたように、子どもたちが帰って来てくれたのに死なれて、親御さんが生き残ったというような、そんな目には絶対に遭ってほしくないし、そんな目に遭う必要もないです。ですから、お金が掛かってもやるべきだと思います。
もちろん気苦労も多いし、手間もかかると思います。でも、そこは絶対にクリアしてください。その上で、自分の愛着のある家・街・故郷で、長く住み続けていけるということが、本当に欲しいものではないかと僕は思います。
命の問題・経済的な問題も含めて、本当の意味で安全な家。国が法律で決めた解釈ではない安全な家の基準というものを、ユーザーのみなさんもしっかりと頭に刻んでいただいて、深く胸に受け止めていただきたいと思います。
今日は佐藤先生の話も受けて、絶対にみなさんにもう一度強くお伝えしたいと思って、お話をさせていただきました。ぜひこのことを頭に置いて、これからの生活を考えていただけたらと思います。
さらに、せっかくなので言いますと、みなさんも耐震等級3の家に興味が湧いてきたと思います。しかし、耐震等級3と言っても、一口では言えないようないろんな意味合いがあります。このことについても、続いての動画で解説していきます。ぜひお時間のある時に見てください。