意外に大事な軒天(のきてん)のはたらき
今日は家づくりに重要な軒天(のきてん)のはたらきについてご説明します。
軒天はニッチワードというか、普通の人はあまり興味を持たれない言葉だと思います。あまりみんなは関心ないけれど、あえて知っておいてほしい軒天のはたらきを解説していきます。
軒天とはどういうところを言うかというと、軒が出ているところの裏側です。ぐるっと家の4方を囲む形で、屋根の裏側の天井を軒裏天井・軒天井と言うこともありますが、ここを軒天と言います。パッと見は地味ですが、実はすごく大きいはたらきがあるのです。
1つ目が、建物の美観を整える・作るという特性です。2つ目は、火事の延焼を防ぐことです。隣家が火事になった時に燃え移る時がありますが、この時に一番に火が伝わってくる所が軒天部分だと言われています。なので、この軒天をしっかり考えると火事の延焼を防ぐことができます。
3つ目が、雨水の侵入を防ぐことです。普通は、屋根や壁で家に雨が掛からないように考えると思います。しかし雨は上から下に降るだけではなく、吹き降ったり風で煽られたりするため、いろんな所から入ってくるのです。軒天があることによって、屋根や壁の中に対する雨水の侵入を防いでいる部分があります。
そして何より、建物の換気を良くする特性があります。軒天の造りによって外気を入れ、屋根裏(小屋裏)の換気を促進し、要らない水分をどんどん排気して換気を良くしているのです。この4つのはたらきは、どれも家を維持していくことにすごく重要なことですよね。なので、軒天は簡単には考えない方がいいと思います。
例えば、軒天の掛け方が変わるだけで、その家が和風に見えたり洋風に見えたりすることがあります。意外に建物の大きな様式というか、型に影響させるような要素なのです。屋根をどんな色にしようかというのは、みなさん考えると思います。でも、実際に建ってみたらわかると思いますが、壁は見えても屋根ってほとんど見えないんです。どちらかと言うと軒天が目に入ります。なのでカラーリング1つ取っても、屋根の色を決めるより、軒天の色の方が影響が大きいということになります。
例えば和風にする時は、大工だった祖父が昔よくやっていましたが、屋根の上の野地板の裏側をそのまま見せます。化粧野地板と言って、裏側を下から見るとかんなで掛けた垂木が見えて綺麗です。松の木の根元の、細かい渦があって粘りのある赤身の所を使ってやることもあります。おじいちゃんたちがそれを見て、「化粧野地板はやっぱりええのう」と言ってたばこを燻らせながら話をしていたものです。スーツにこだわる人は裏地に特殊な柄を持ってきて、誰にも見えないけど自分だけ気に入っているみたいな、好き者の世界があるじゃないですか。軒天の化粧野地板は、そういう部分と言えます。
ここには無垢材を使うこともあるし、ベニヤ合板やケイカル板などに化粧プリントで柄や色が付いているものもあります。また、石膏ボード系やエクセルボード、鉄の薄板やアルミのようなものを貼り付ける時もあります。
例えばケイカル板は不燃材です。隣の家から火事が出た時に、一番最初に軒天に火が行きます。これが焼け抜けて火が屋根で上がっていったり、ここから火が入っていったりするのです。一気に隣の火事をもらう形になるので、軒天に不燃材を張っておけば結構持ちます。
また、水切りとかシールとかで仕舞いをするとか、裏から防水紙をちゃんと回してくることを細かくやれば、台風の風が煽るような所でも防水を高められます。このように、軒天は家の防災機能的にも働きを持つものだということを知っておいてもらいたいです。
私たちもよくやるのが、化粧野地板に近い感じで野地板の裏側をそのまま素地で見せて塗装することです。そういう風にして木地が見えたら、カッコいいんです。隣棟間隔がある程度あるような建て方とか、草原の1軒家みたいなところだったら、それが生きてきます。町中の密集地ですぐそこに隣家の境界がある所だと、ケイカルみたいなものを張る方が家のためになるのです。
特にオススメなのは素材系です。木がいいですが、例えばケイカルもケイカル地そのまま使えばセメントの素材感を出せたりします。鉄板も、巻き方によっては素材感として使えるのです。無地や石の柄みたいな感じのやつの方が、長く安定して見えると思います。
最近、ケイカルやベニヤの上に明るいトーンで木目柄がプリントしてあるものが、よく使われていますよね。あれは一種のフェイクなので、長い目で見るとそれは今の流行でしかないのです。人間って不思議ですが、今は最新でカッコよく見える木の柄も、10年後には「10年前に流行った柄だな」と感じると思います。最近は精巧なものもあるので心配することもないかもしれませんが、フェイク柄を素材感として使う時は慎重にやっていただきたいです。でないと、何年か後に見た時、チープに見えると思います。
カラーリングにも気を付けてほしいです。色が増えれば増えるほど、センスが要求されます。特に私みたいな凡人であまりセンスのない人間は、1〜2色ぐらいでやる方がケガがありません。これを3色にしようとすると、組み合わせ方にセンスが必要です。
洋服なんかのコーディネートは、たくさんの色を上手に着こなしている人を見ると、さすがだなと思います。自分なんかは1〜2色でいっぱいいっぱいなので。3色だと野暮ったくなります。もし軒天に3色以上を使う時は、色使いに気を付けてください。でないと、すごく派手にも見えるし、地味さ・渋さもそこで決まってしまうことがあると思います。
軒天は侮れません。カッコいい家のデザイン・カラーリングをしたいのであれば、軒天にどんな色や素材を持ってくるかを少し考えてみてください。軒天の働きをうまく利用して家を作っていただくと、カッコよくて長持ちする家に繋がっていくと思います。ぜひ参考にしてみてください。