雨仕舞から考える「台風に強い屋根の基本」
今日は雨仕舞という視点で考える台風に強い屋根について、解説をしていきたいと思います。
「雨仕舞」は、日本的な言い回しです。雨風を防ぐのに防水という言葉がありますが、それに対して日本人は雨仕舞という知恵で雨風をしのいできました。その1つのポイントとして屋根がカギになります。この屋根について、基本的なお話を振り返っていきましょう。
最近建っている新築の屋根の種類について、最初に説明しておきます。一番多いのが切妻という形の屋根で、約4割。次に片流れの屋根が3割。そして寄棟という屋根が13%です。この他にも種類はありますが、今回は使用比率が高い代表的な屋根3つを解説していきたいと思います。
まず、一番多い切妻の屋根についてです。妻側でパチンと切った屋根のことを切妻と言います。こんな家が多いですよね。家の絵を描いたら、こんな感じで描くことが多いと思います。次に多い片流れというのは、文字通り片方だけに流れるから片流れです。今これがすごく増えています。なぜかと言うと、太陽光発電がいっぱい載せられるからです。屋根の面積があったとしても、太陽の方を向いていないと効率が落ちるので、効率の良い面を片流れにするとたくさん載せられるというメリットがあります。
最後に、寄棟という屋根です。少し前まで多かったですが、最近少なくなってきました。ただ、大手ハウスメーカーは未だに多いと思います。勾配が4方から上がってくるやつです。棟が寄っているので寄棟と言います。
今、切妻と片流れに人気がありますが、少し注意しておいてほしいことがあります。それが風とか雨に対する対策です。まず、風が吹いた時にどの屋根が一番影響を受けにくいかと言うと、この3つで言うと寄棟になります。風は複合的に吹くとは言え、瞬間最大風速で言うと一方向にドーンと吹くことが多いですよね。寄棟は、屋根の全体面積に対して強い風を受ける所が限られてきます。受ける所が小さいということは、受ける力も弱いので、比較的被害が少なく済むのです。そういう意味で言うと、台風の風の被害に対しては寄棟が一番バランスが取りやすいと言えます。次に風を受けにくいのが切妻です。半分に割れているので、寄棟ほどではありませんが、風を直接受けることは少なくなります。
最後に、最も風の被害を受けるのが片流れと言われています。一方向に流れていて、そこに風の力を一度に受けるため、力をまともに受けることになるんです。船が帆で進む時、帆をなるべく広げて風の力を受けて推進するというように、大きく風の力を受けてしまいます。なので、台風に強い家を欲しいと考えた時には、片流れって意外と厳しいところがあるんだということを知っておいてほしいです。
そしてもう1つが雨の被害です。台風も、風ばかり吹くやつもあれば、雨を伴うものもあります。風が止んだ後に雨が降るとか、雨がバーッと降ってから風が吹くとか、いろんなパターンがあるじゃないですか。雨の被害で何がキツいかと言うと、ものすごい勢いで瞬間的に雨が降ってくるので、雨を受けているとゆ(雨樋)が受け切れなくなることです。受け切れなくなったら何がいけないのか、この後に説明します。
寄棟でしたら、4方にとゆが通ってますから、雨が分散されて満遍なく受けやすいです。そのため、一方向にオーバーフローして飛び散ってしまうということは少なくなります。
一方切妻に関しては、真半分にそれぞれ受けるという形になります。寄棟に比べたら少し多くなります。最も被害が大きいのが片流れです。大きい屋根で全部片方に流れていって、1ヵ所に集まってしまうから、濁流みたいになる時も瞬間的にはあるかもしれません。こういうところが、屋根が受ける影響についての基本的なポイントになります。
昨今、切妻とか片流れの家で多いのはゼロ軒というものです。軒が全くない屋根というのを、若い人はデザイン的に好みます。カッコよく見えるんでしょうか。しかし、風を受けた時や雨がガーッと来た時に、屋根のケラバに負荷が掛かりやすくなるというのが、ゼロ軒の問題になります。台風の強さだけを考えたら、寄棟を選ぶのが無難です。しかしそれ以外の要素、デザイン性や太陽光発電を載せるとか、屋根裏の換気などをするのも難しさがあるので、耐久性を考えた時は切妻と片流れに軍配が上がるところもあります。
そういう一長一短を含めて、雨仕舞という視点でどうやって台風の被害を緩和していくかになります。もし切妻や片流れを選ぶ時は、ケラバの水切りはしっかり考えて施工してもらわないといけません。水がバーッと屋根の上を通った際、水切りを飛び越えてケラバの裏に入った時に漏れるんです。これを漏らさないよう、水切りでしっかりガードするということが必要になります。片流れ屋根の上の部分は、軒ゼロになると棟の納まりがものすごく難しい。三角の棟というのは、頂点から水が切れていくんです。でも片流れだと、頂点の隙間から入りやすいです。L型の水切りを相当きっちり掛けなかったら、水が入ってきます。台風の時には吹き戻しがあるので、余計に入りやすくなるんです。片流れというのは、よほどここを上手にやらなければいけません。
片流れをゼロ軒で選ぶ人が多いのは、コストが安くなるためです。構造的な物とか屋根のシンプルさにおいてはコストが下がるところはありますが、リスクがあります。しっかりと雨仕舞が効いて、水が切れていくような特殊な金物をふんだんに使わなければ、本末転倒になるんです。安くできたけど雨漏りするということがあります。
こうした屋根の特性を考えて、切妻・片流れにする時は仕舞のしっかり効いた納まりを選ばなければ、強い屋根にならないということを知っておいていただきたいです。この辺の役物の選び方については、またの機会に解説します。台風被害に関しては、屋根の形状の特徴と、それに対する対策が必要だというシンプルなポイントを頭に置いて、ぜひ参考にしていただければと思います。