施主支給したい時に気をつけるポイント
今回のテーマは「施主支給」です。
これまでいろいろ経験してきて、お施主様に注意していただいた方がいいと思う点がありますので解説しようと思います。
まず施主支給というのには2つのパターンがあります。
1つ目が「施主支給品」。お品物を支給したいという考え方です。2つ目が「施主支給工事」。材料だけじゃなくて材工まで入るものです。
施主支給工事だと「知り合いに基礎工事をやっている人がいて、その人にお願いしてもいいですか?」とか「親戚に大工さんがいるので〜」というのがありました。
基本的に建物を請け負うメーカーさんとか工務店さんには、長期保証や品質の保持・管理というのがあります。なので施主支給工事、つまり工事を伴うときは、材料だけの支給と違って、現場としては受け入れにくいことがあります。
最近の電気工事を例に挙げます。モリシタが担当する電気工事には、皆さんがイメージされる電気工事に加えて、断熱・気密工事の処理もあります。そのことにも知識がある方ならいいのですが、そうでないと工事がうまく進まなくなってしまう可能性があります。
お施主さんのお知り合いに「これは知らないのですか?」なんて、そんな失礼なことは言えないです。どこまで突っ込んだ話をできるのか、というのもあります。“外構だけ”とかなら「いいですよ」となりますが、断熱や気密などにも関わってくるものだと、こちらとしても気を遣うところがあります。なので施主支給工事をするのであれば、かなりしっかり考えないといけないです。
一方でお施主様からご相談いただく施主支給の多くは「施主支給品」の意味だと思います。
工務店の立場で言うと、自分たち側が提供する物に対しては、標準の商品を決めていることが多いです。トイレはこれ、キッチンはこれ、枠はこれというような感じですね。
なぜ標準仕様を決めているかというと、最大の利点は、物を収める前後にも時間とお金がかかるからです。
僕たちは工事屋なので、物を納めて終わりという仕事はほとんどありません。自分たちで用意した物を使って工事をして、仕上げまでを担当します。施工準備と言って、どんなものが必要かお施主様や仕入れ先の方と打ち合わせや、現場までの手配することも自分たちの仕事になります。
お施主様側からだとわかりにくいですが、施工準備にも時間やお金が掛かっています。なので“標準仕様”として、よく使う物というものを決めておけば、作り手としては仕事がしやすいです。1つのパターンを作っておけば、いろいろな現場で活用できる可能性もありますしミスも減らせます。
もう1つの理由として、お値打ち価格で仕入れしたいというのもあります。
仕入れ先のメーカーさんに対して、例えば「普通はこの価格かもしれませんが、5台〜10台買うのでもう少し安くできませんか?」と交渉することができますし、「それならこの価格でいいですよ」とおっしゃっていただけることもあります。
ちなみに「お値打ち価格で仕入れしたい」というのには2つの意味があります。
僕たちの立場で言うと利益を上げたい。お客様の立場で言うと、よりお手軽に良い物が買える。どちらにしても、ある程度の値段でいいものが購入できる環境を作りたいという理由で使っています。なので工務店側にこういった前提があるというのを、お施主様にも知っていただきたいんですね。
最近はネット社会ですから、価格.comで検索したら最安値はすぐにわかります。僕たち工務店がその値段で買えているかと言うと、そんなこともないわけです。だから自分たちで安く仕入れたのを使ってコストダウンを叶えたい、というお施主様の気持ちもわかります。
お施主様には、もう1つの理由があると思います。好きなものを使いたい、というこだわりです。特にインテリアなどでは、知る人ぞ知る作家さんの1点物とかありますよね。「これをうちの家にぜひ使いたい!」という思いがあるはずです。
この2つの欲求も把握した上で、お伝えしたいことがあります。
まずコストダウンについてです。建築コストの中身について理解していただきたい、という気持ちがあります。
1つ目が品物代です。これはお施主様もすごく気にされている内容だと思います。
さっきも言いましたが、なぜ工務店とかハウスメーカーさんが標準品という物を決めているのかと言うと、打ち合わせもコストだからです。施工準備というのは施工図や手配書、工程表を作るのも仕事になります。一番大きな仕事は運搬です。ただ単に持っていけばいい、というものではないです。タイミング良く用意する必要があります。
メーカー直送ならいいですが、一時保管が必要な場合もあります。これが普通の流れから外れてしまうと、ものすごくコストアップになるし時間も掛かります。施工費と言って、取り付けのコストも発生します。
僕たちが仕入れた物をお客様にお渡しする限りは、その価格に僕たちの工務店の利益も含まれています。機械ならいつかは壊れてしまうリスクもあるし、品質の異常もありますので、保証代も含めてコストと捉えています。たかが品物の1品に見えますが、その背景には、それだけのものが含まれているんですね。
なので、標準仕様というのは、ただ単に物を安く仕入れるためにあるわけではないです。物を支給していただいたとしても、それとは別で保証代などが掛かってくるということを知ってほしいです。
お客様にデメリットがあるとしたら、工務店側で品質保証できないことがあるということです。
最安値の物を買えたけれど、それはお客様のルートで入れた物になりますよね。もし品物に異常があった場合、工務店としては「ごめんなさい。僕たちには何ともできないです」と言わざるを得ないことがあります。
工事の宿命として、異常の原因が、品物なのか施工なのか線引きするのが難しいという現実があります。工務店側が用意したものを使う場合は、そういった代金もいただいていますので「工務店の責任です」といって作業ができるので非常に仕事がしやすいです。メーカーとの交渉も僕たち工務店の仕事として進めることができます。
施主支給品だと、メーカーとの交渉もお施主様自身で対応していただかなくてはいけないケースもあります。この交渉が負担になったり、大きな損が出たりするというのもデメリットになると思います。このとき、もう1つ気になるのが運搬です。運搬は運搬費だけでなく、荷受けコストも掛かります。
例えば、現場に物を入れる時に誰が立ち会うの?という問題があります。お施主様から「工務店の人が行ってください」「立ち会うぐらい行ってください」と言われることもあります。でも現場の場所や状況によっては、半日〜1日ぐらい時間が取られますし、待っても待っても届かないときは、その場から離れるに離れられないということもあります。結果的にコストが掛かってしまい「すみません、ご請求させてもらいます」となるケースもあり得ます。
安くしようと思って実行したのに、自分たちの想定していないところで費用が余分に掛かったら意味がないですよね。なので、コストの中身を知ったうえで、考えたり決めたりしてほしいです。
ただ「好きな物を使いたい」ということに関しては、話が別かなと思う気持ちもあります。
例えば「これはおじいちゃんが使っていたもので、新しく建てた家で使いたいんです」という話はすごく共感しますし、僕自身もすごく使いたい派です。
お客さんからそうやって相談されたら「ホンマに実現してあげたい」「なんとか組み込みたい」と思ってしまいます。なので、そういうことは相談してほしいです。
ここまでいろいろ言いましたが、もし施主支給を検討されているなら、なるべく早く相談してください。
一番困るのは工事の間際、間際どころか進んでしまった後に相談されることです。これは実現が難しくなるので、お互いすごく困ってしまいます。
2番目に気をつけてほしいのが、どれくらい強い要望なのかです。
お客さんの要望なので、僕たちからすると、どれくらい強い気持ちなのか把握できないこともあります。施主支給は工務店とかメーカーさんの担当者からすると、なかなか手間の掛かることでもあるので、本当にそれをしたいのかどうか、優先順位はどれくらいなのかを自分たちで確認した上で伝えてほしいなと思います。
業者都合で申し訳ないですが、スムーズに進めるためにもぜひお願いします。
3番目に気をつけてほしいのが、品物を最安値で確保できたとしても、それ以外のところでコストが掛かるということを理解してください、ということです。
うちの若い子たちが昔体験したことで、お客さんから施主支給の相談を受けたときに「その場合はこういった金額がかかりますよ」というのを説明したら、すごく怒られたという話がありました。おそらく管理経費みたいな言い方で説明したのだと思います。
お施主様からすると、安くなると思って相談したことなのに…と怒る気持ちもわかります。一方で工事する側からすると、予定になかった手間や時間が掛かるのは事実なので、どうしてもお金をいただかないとできないこともあります。ここはお施主様にも理解していただかないと、現場がギクシャクしてしまいます。
4つ目に、偉そうで恐縮ですが工務店にもポリシーがあって、「こういう商品は使えない」とか「使うべきではない」という判断をすることがあります。
お施主さんが良かれと思って入れた物でも、受け入れられないことが稀にあると思いますお断りすることがあるというのも、知っておいてください。
蛇足になりますが、「おじいちゃん思い出の物を使いたい」気持ちと同じで、塗装工事とか左官工事などを家族でやってみたいと考えている方もいらっしゃいますよね。
僕自身は家づくりで思い出を作ってほしいと思うので、これも早めに相談してほしいと思います。業者さんによっては「森下そんなこと言うな」という人もいるかもしれませんが。
(ただ、内容によっては難しいこともあると思います。こういった判断もあるので、早めに相談していただけるとうれしいです。)
例えば材料に色を塗りたいという内容なら、塗るための場所を確保しなくてはいけない時があります。現場でできればいいですが、現場の状態によってはできないこともあります。場所の確保とか運搬経費のこともあります。工事の人たちや職人さんは、日曜・祝日は休みです。お施主さんも日曜日・祭日が休みのことが多いので、この日に実行したいかもしれません。でも、職人さんたちにわざわざ出てきてもらうということになると、可能なときもあるけど、都合がある日もあるので、少し配慮していただきたいということがあります。
コストダウンしたい、こだわりを実現したいという気持ちは、僕も本当によくわかります。一方で家づくりは共同プロジェクトなので、人と人の繋がりの連携とか、お互いに思いやりを持つことも大事にしていただきたいです。これがクリアできれば施主支給はうまくいくと思いますので、ぜひ頭に置いていただけたらと思います。