値上がり時代の家づくりについて考える
今回のテーマは値上がり時代における家づくりです。大仰なテーマにはなりますが喋っていきたいと思います。
僕のスケッチを見てください。
昨年は「ウッドショック」というものが起きて私たちのような家づくり業界もすごく困りました。1軒のお家の仕入れ単価が、どんどん上がっていったんですね。
建物というのは「いま欲しい!」と言われても、「はい。どうぞ」 という風にお渡しはできないですよね。大抵は「家づくりを任せます」と言われてから、完成までに数ヵ月〜1年掛かります。完成までにタイムラグがあるので、ウッドショックのような想定外のことが発生しても「じゃあお金ください」とは言えないです。契約自体はウッドショックが発生する前にしてますのでね。
契約の中には“物価上昇に対する特別事項”という形で、急激な値上がりが起きた場合は、お施主さんもご負担願いますという法律が反映されていることがあります。でも、お施主さんもお金のやりくりがあるので、作り手も住み手もなかなか苦労しました。
また、ウッドショックの次はアイアンショックが発生したり、ここのところニュースではずっと半導体不足がクローズアップされていますよね。例えば車ができないとか、僕ら住宅業界で言うと食洗機やIHヒーター、エコキュートなどができないという影響があります。
今の住設機器って、ほとんどのものに半導体が入ってます。むしろ入ってない物のほうが少ないです。たった1個でも、出来上がらないとか手に入れられないとなると、家が完成しないということになってしまいます。これも本当に困りものです。
それから値上げ圧力もあります。こういった特殊な状況でなければ僕たちも仕入れの時に「いくらか安くできる?」と相談します。ですが、今は物が無い状況なので、「今あるものでいいから確保しないと」となって「その値段でお願いします」ということにならざるを得ないです。なのでコスト圧縮もできないんですね。
昨年から家づくりを待っている人ですと、「今年はちょっと落ち着くかな」って期待されているかもしれません。でも今の状況は、このまま持続されるか、もしくはまだ上がっていくかのどちらかになると思っています。現在はこういう局面を迎えています。
それから日本の景気を見ると、コロナショックもあって結構苦しいですよね。一方でアメリカはすごく景気がいいです。アメリカのFRB(中央銀行)は「景気がどんどん良くなってきたから利上げをして、少し冷静になりましょう」という風に進めています。
となると、これから家づくりをされる方は住宅ローンで借り入れをされますよね。ですので物価の上昇と金利の上昇というダブルパンチをくらう状態になります。
今現在(※2022年1月中旬)はまだ日本の金利は割と低めの水準です。でも日本も世界経済の中で生きてますから、どこかの国が利上げをすると、お金はそちらに流れていきます。
同じお金を利上げした国に預けるほうが、いっぱい利子が付くので、そちらに預けますよね。そういうことで言うと日本もいつまで低金利が続けられるのかな、となります。
こういったことが発生していますので、家づくりの環境というのは、この1年でものすごく大きく変わりました。徐々に変わってきてはいましたが、パチンとスイッチが入ったように変わりました。これからも、そういった変化はどんどん続いていくはずです。
ということは、もはや値段を抑えた家づくりというのはなかなかに実現が難しいです。すでにイニシャルコストのアップがかなり定着したんじゃないかなと思います。
それからもう1つ嫌な出来事があります。エネルギーショックです。
中国がCO2削減のために、石炭を炊くのをやめて石油や天然ガスを使う方向に進んでいます。経済力がすごくある国が使うとなると、これも世界との綱引きになるので、日本は相対的に言うと国力が落ちてますから、綱引きに負けちゃいます。
なのでエネルギー・資源の値段に関しても、どんどん上がっていくという兆候が強く出てます。
怖い話を言うと、食料も家づくりとは直接関係ないですが、世界の備蓄量の半分以上を中国がキープしてるような時代ですから、日本はいろんなことが先行き不安な時代になってると思います。
エネルギーショックに話を戻すと、電気代はこの半年ぐらいで数パーセント上がってますよね。なので光熱費も、これからはどんどん掛かっていく時代になります。つまりランニングコストもアップするという時代です。
悲観的な話が続きましたが、そういった状況で家づくりを実現させるには、イニシャルコストをどういう風に捉えるかということと、エネルギーのリスク管理がすごく大切になっています。
家づくりに関して、スケッチを使いながら説明します。
約10年前ぐらいまでは「子育てをするために新しい家が欲しい」という方が、とても多かったです。これがだんだんと少子化の問題などで変わってきて、人生100年時代に突入しました。人生において子育ての期間よりも、それ以降の期間のほうが長くなりました。つまり家づくりは子育てライフ中心だったのが、子育てライフからシニアライフまでを担保する必要がある、ということになったんですね。
そのためには基本性能と言われてる断熱性・気密性、それから光熱費が掛からない省エネ性、耐震性・耐風性というものが長く担保される家でないといけないです。
またシニアライフを考えた時に僕が思うのは、家事のしやすさが大切だと思います。この“家事のしやすさ”は子育ての時にしやすいという意味もありますが、それ以上に歳を取っていくなかで、自分の面倒は死ぬまで自分で見られるようにする、という意味のほうが強いです。そういう機能が備わっている家づくりでなければ、これからの時代には意味がないと考えています。
▼巨匠がつくった究極の平屋を解説します
https://www.m-athome.co.jp/movie/kyukyoku_hiraya
▼【理想の終の棲家とは】親の家問題を考える
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逆に子育ての期間のことしか考えられていない家づくりは、これだけ値段が上がってきた時代において、資産としてのバランスが悪いのではないかと思います。
例えば現金で貯金してる資産があれば、それが現金である限りはいろんなものに使っていけるから良いですよね。でも現金のような流動資産ではなく、固定資産というものを持つ場合、固定資産の比重が高まると人生がにっちもさっちも行かなくなります。建てる前から「そんな高い家ってもう無理やん」ということにもなってしまうんですね。
なので、これから建てるみなさんには、シニアライフもそうですし、シニアライフの先も考えてほしいと思います。それは自分たちの人生がピリオドを打った時に、どうなるかということです。
子どもたちが相続することもありますし、そうでない場合もあります。
ご夫婦であれば、どちらかが先に逝かれた時に残されたパートナーのことを考える必要があります。その家はもういらないから賃貸で暮らす、という選択肢もありますし、どこかの施設に入ることを考えた時には家を売って現金化して、誰かにお譲りして住み継いでもらう可能性もあります。
こういうバトンタッチもライフサイクルに入れた上で、全体のイニシャルコストを薄めていくことや、間取りの流動性を高めていくようなことが絶対に必要だと僕は思っているんですね。
エネルギーのリスク管理という視点では、エネルギーショックを見越した計画が必要になります。これまで太陽光発電は“損する・得する”みたいな議論をしていました。でも、これからはリスク管理の視点で考えると付けざるを得ないことになっていくと思います。
また先程、誰かにお譲りして住み継いでもらうという話をしました。以前、別の動画でも解説していますが、家というのはプレーンなプランで建てないといけないということになるんじゃないかなと思っています。
▼50年以上持つ家とは?(スケルトン・インフィル編)
https://www.m-athome.co.jp/movie/50nen_skeleton_infill
プレーンなプランというのは、間仕切りの柔軟性があって、住む人がどんなライフサイクルで、どんな好みを持っていても、自由に変えながら暮らしていけるというものです。
50年以上を超えると水道・電気・ガスみたいな生活インフラというのも老朽化していきますので、これの更新がしやすいというのも大切です。躯体が立派でも生活インフラが更新できなかったら住み継げないですからね。こういうメンテナンス性・可変性が充分に担保された家が必要になってくるんじゃないかと思います。
自分のこだわりを詰め込むものいいことですが、そのことが住み継いでいってもらう上で障壁になってしまうのは良くないです。誰かにバトンタッチする時に「これは森下さんスペシャルですね。僕には合わないわ」となって住み継いでくれなかったら、その家は極端な言い方をするとゴミになってしまうんです。
住み継いでいける家になれば、それは資産であり資源になります。これを考えていくと家づくりの値段が高くなっても、ある程度の勇気というか決断をもって、家づくりを進めることができます。
自分たちも人生100年時代に向けて長く住んでいけるし、海外であれば100年建ってるような家の方が値打ちがあるという話をよく聞きますよね。イギリスのような文化度というか習慣性が日本にも定着していくと思います。むしろそうならないと、これからの時代アカンのちゃうかな、と考えています。
たかが小さな工務店の社長風情が言うことではない、大きなテーマに聞こえたかもしれませんが、今後の家づくりは必ずこういった方向に行くと思っています。
なので、みなさんにはぜひ、住み継がれていく家という視点とリスク管理という視点をもって家について考えていただけたらなと思います。
目先の損得とか、予算に合う・合わないということを超えて、こういった視点があれば、家づくりだけでなく、家が完成したあとの人生もいい方向に行くんじゃないかなと感じていますので、今日は力説させていただきました。