ヒートショックについてどうしても知っておいてほしいこと
今日のテーマはヒートショックです。
これは自分にとって切実なテーマでして、ヒートショックを起こしやすい家について解説をしていきたいと思います。
やや暗い話になりますが、毎年この寒い時期が来ると思い出すことがあります。
それは冬のある寒い朝に私の父親が朝起きて、トイレに行って、そこで倒れまてそのまま亡くなりました。原因は脳死です。その引き金になったものがヒートショックということを後から先生に聞きました。
突然親父が亡くなったことに、ものすごいショックを受けて、このことを思い出してしまうんです。
今回はこのヒートショックが、一体どういうメカニズムで起こるかということを最初にお伝えして、典型的な間取りの話と合わせて、その問題点というのを解説していきます。
僕のスケッチを見てください。
みなさん布団に入って寝ますよね。ある程度築年数が経った家に住んでいるというのを前提にして話をしてきます。
50〜60代以上の人ですと、夜寝てる時に暖房をしてる人は少ないです。この1月〜2月の時期に暖房を切っていると、寝室は10℃ぐらいになってることもあります。一方でお布団の中は30℃ぐらいあるんですね。ぽかぽかしています。人によっては電気毛布とか行火(あんか)とか湯たんぽみたいなのを持っているかもしれません。その場合、布団の中は30℃以上になっているはずです。なので、こういった環境で寝ていると喉が乾きやすいです。
夜中にトイレに行きたくなることもありますよね。パッと目が覚めたら、まずお布団から出ることになりますが、その場合いきなり10℃の環境に移動することになります。部屋が多少暖かくて15℃とかです。30℃から15℃ でも結構な温度差がありますよね。
ここから廊下に出たら更に寒いです。今回はスケッチに8℃と書きましたが、5℃の場合もあるでしょう。そして最後にトイレです。冗談抜きで、この時期トイレは1℃になっていることもあります。トイレが臭いからと言って窓を開けたりしてる方もいるので、氷点下も十分あり得ます。
とすると、30℃で寝てたところから数秒のうちに3℃とか1℃の場所に行くことになります。温度差が30℃ぐらいの世界の中を移動するわけです。そうすると体にヒートショックという症状が起こります。
ヒートショックが起こると血管が収縮して血圧が上がったり、心臓の動悸が高まったり、もし動脈硬化とかで血管がもろくなってる人でしたら、その収縮の時に血管がプツッとなってしまいます。心臓であれば心筋梗塞になるし、頭で発生したら脳卒中・くも膜下出血などになります。
「ヒートショックなんて家だけじゃなくて外もあるやん」と思われる方もいらっしゃるはずです。
1つのデータを持ってきました。脳卒中を分析した先生がいらっしゃって、脳卒中が起きた時の場所の割合を発表していました。
寝てる時に脳卒中になった人というのは、なんと全体の30%もいます。ひょっとしたら寝床から出ただけで脳卒中になってる可能性だってあるということです。次がトイレで24%。次がダイニングで13%。食事中もあるということですね。そしてお風呂が12%。ちなみに外出先は21%です。
つまりヒートショックの8割が家の中で発生している。それだけ家というのはヒートショックになりやすい場所で意外と危険ということを知っていただいた方がいいと思います。
では、どんな間取りで起きやすいかというと、スケッチに描いたような間取りになります。
決して特殊な間取りではないんですね。むしろ、よくあるし、良い間取りだと思われる方が多いんじゃないでしょうか。
さっきの温度変化の話と合わせると、例えばシニアご夫婦が和室で布団を敷いて寝ているとします。夜中にトイレに行きたくなって目が覚めたら起きますよね。玄関を通ります。
玄関って暖かいと思いますか?僕の経験上、こういった家の玄関ってかなり寒いです。その寒い玄関を通ってトイレに行って、もしトイレの窓が開いてたら、玄関よりさらに寒いです。
もし和室で暖を取っていれば、暖房空間と非暖房空間というのが顕著に分かれています。でも実は、これまでの日本の家は、ほとんどがこういう危ない間取りです。日本のこれまでの家の約9割以上は、ものすごく断熱性能が脆弱なんです。
僕の描いた円グラフを見ください。
今建っている家の最低基準は「平成11年度基準」というものです。昔は次世代省エネとか言ってました。これぐらいの基準の家は、いまある家の5%ぐらいしかないんです。あとの95%はそれよりずっと性能が低いです。平成4年基準とか昭和55年基準、果ては無断熱の家です。
これから新築の人は工夫のしようがありますが、既存の古い家に住んでいる人には、ほぼ凶器のような家に住んでるって思ってもらった方がいいです。
僕はそのことに対して注意喚起をしたいんですね。新築を建てる人にも知っていただきたいです。
語弊がある言い方ですが、僕と同じくらい、あるいは僕より先輩の方だと、さっきのような旧タイプの危ない間取りを作りたがる人が結構いらっしゃいます。今日はその注意喚起をしたくて、しつこく言わせてもらいます。
「今こういう家に住んでるんだけどどうしたらいいの?」という質問には、「できたらお金を掛けて間仕切りリフォームをされることをオススメします」とお答えしています。
間仕切りリフォームと言いましたが、これは僕が勝手に使っている表現で、一般的には区分断熱という言い方をします。
お父さんとお母さんの寝室があるなら、その寝室から脱衣場とかトイレに行くまでに通るエリアとを断熱するということです。本当は全部のエリアをきちんと断熱したいですが、予算の都合などがあるので、「せめてここだけはきちっと断熱するのがいいです」というような考えです。
間仕切りリフォーム(区分断熱)も、もちろんお金が掛かりますよ。恐らく数百万以上です。でも断熱すればヒートショックの危険を予防できます。
寝てるところからトイレに行って亡くなってしまう確率って実に41%もあるんです。このリフォームでリスクを4割軽減できるとしたら、決して高い買い物じゃないと思います。
なので最低でも、寝てるところからサニタリーとか寝てるところからトイレのエリアは、きちんと断熱をしてください。
起きて日常生活をしているときに、寒いところに行くのも危険ですが、寝てる時から次のアクションというのはもっと危険で一番怖いです。なので、その際の対策をしっかりしていただきたくのが一番いいと思います。
これから間取りを新しく考える方、新築を考えている方は、極力ワンルーム化されることを強くおすすめします。
仕切りがない空間+全館空調が一番いいですが、もし難しい場合はワンルーム型の間取りをうまく考えるということが、重要なポイントになると思います。
しつこいのを承知していいます。一番のポイントは窓です。他の動画でも繰り返し言っていますが、昔の脆弱な断熱のお家の最大のウィークポイントは窓です。こういうところの窓を二重にするとか、樹脂窓に替えるというような窓の強化をぜひやってほしいです。窓を変えるだけでもぐっと変わります。
▼何度も失敗して辿り着いた最強の暖房器具
https://www.m-athome.co.jp/movie/saikyou_danboukigu
▼暖かい家の基本中の基本「構造」を解説
https://www.m-athome.co.jp/movie/atatakaiie_kihon_kohzoh
その時に忘れてはならないことがあります。もし寝室からトイレに行くまでに玄関を通る間取りであれば、玄関の扉も断熱してください。
昔の玄関ってシングルガラス+アルミとかで、冷気が入り放題です。今はカバー工法とか、家を壊さなくてもそこだけ綺麗にするようなやり方もありますので、ぜひ検討してください。
浴室もヒートショックによる事故が多い場所です。もしタイル風呂であればユニットバスに替えることをオススメします。
100万円〜200万円くらい掛かるかもしれませんが、今のユニットバスは性能がいいです。湯冷めしにくいし中は暖かいし、とても良いのでユニットバスもオススメしておきます
「そんなこと言うけど何百万円もいるやん。わしらもうシニアで老後の資金を考えたら
使ってられない」と言われることも多いので、損得の話もさせてください。
誤解を招く表現で申し訳ないですが、ヒートショックになって亡くなったら仕方がないですよね。すごく変な話ですが、一方で生き延びた時が困るんです。
これも統計値があって、脳出血とか心臓病のような大きな障害が起きた時、緊急手術に70〜80万円のお金が必要だと言われています。
重篤な手術をやった後、介護をしてもらって生き長らえる期間は7.5年だそうです。期間にはいろいろあると思いますが、10年位に渡って介護を受けるケースもあります。そうすると介護費用の統計値は月に88,000円になります。90,000円弱ぐらいいるので、88,000円×12ヶ月×7.5年=792万円。つまり800万円ぐらいのお金がいるということです。
手術費が70〜80万円ですから合計で869万円。もし自分がヒートショックで重篤な病気に直面したら900万円近いお金が家族にのしかかっていくということです。
自分も助かったけど不自由な身の上で最晩年を過ごすのは、できたら避けたい状態のはずです。
これまで頑張って働いてきて家族のために過ごしてきたお2人なので、ここで将来のために、自分たちのために、そういう選択をしてもいいと思います。
それでもやっぱりお金が無理だという人は暖房をつけて過ごしてください。これは笑いごとではありません。
私も今の自宅はそこまで高性能でないです。昔のハウスメーカーの家なので、トイレやサニタリーには、カーボンヒーターとかセラミックヒーターと言われてるような小さなヒーターを置いています。人感センサー付きなら人が来たときに付く設定もできるし、付けっ放しもできます。
例えばトイレであれば、200Wぐらいのカーボンヒーターで充分に暖まります。
でもトイレっていつ行きたくなるわからないので、できるなら24時間付けた方がいいです。24時間付けっ放が半年間続いたとしても、年の電気代は2〜3万円です。
これから20年生きるとして年間3万円なら合計で60万円の電気代が掛かりますが、トイレで「うわ寒い!ウッ」となるのが無くなることを考えたら、絶対付けておくのがいいです。
サニタリーにもカーボンヒーターを付けた方がいいと思います。サニタリーは一日中でなくても大丈夫です。お風呂に入る前後の裸になる時間って、大体夜の2〜3時間ぐらいですよね。例えば2時間ぐらい付けるのを1年間続けたって、年間1万円もかからないと思います。
「もうそろそろお風呂に入ろうかな」という時は、いきなり行かないで暖房を付けてください。これだけで服を脱いだときのヒートショックのリスクはかなり軽減されるはずです。
家づくりの知識というより、お節介オヤジの戯言になってしまいましたが、どんなにお金が厳しくてもヒーターは付けてください。
リフォームすることもできるし、自分たちが病気になるのは切ないし、子どもたちに迷惑かけたくないと思ったら、最低でも窓の強化をしてください。可能なら区分断熱をして、バスルームユニットもリフォームしてください。
工務店とリフォーム業者のオヤジなので商売の話をしてるように思われるかもしれませんが、そうではないです。せっかく頑張ってきたシニアの方に、やるせない思いをしないで、幸せな老後を過ごしてもらいたいと思います。自分でもお節介が過ぎると感じていますが、今回はこの話をさせてもらいました。