出窓はあり?なし?
今日のテーマは出窓のメリット・デメリットについてです。
出窓って、昔は流行りました。僕が30年ぐらい前、ハウスメーカーに勤めていたころ、その会社が設計や工事をした家に、この手の窓が1つか2つは必ず付いてました。様々な形があって、引き違いの窓もあったり、僕がよく見たのはフィックス窓になっているもの。化粧をするような格子が付いてたり、両側がパカッと開くようなものもありました。特に年頃の娘さんがいる部屋やリビングなどに取り付けられていましたね。
そしてもう1つよく見たのが、台所出窓というものです。台所にシンクがあって、その前にカウンターみたいな感じで出窓スペースがあるんです。ここにはよく塩とか砂糖とかが入っているボックスが置かれていました。この台所出窓も一時よく見ましたが、今はめっきり見なくなりました。ただ、今でもたまにリフォームの現場に行ったとき見ることがあります。でも「もうこの窓いらんのや」と言う人が多いですね。
じゃあ、当時はこの出窓を、なぜ取り付けたのかということを考えたいと思います。出窓は普通の窓と比べたら複雑な窓なので高価です。でも「高いけどカッコいい」とか「高いけど美しい」と思って取り付けたはずなんですよね。
一方で実際に暮らし始めると、この空間が物置になってしまう、というケースを良く見ました。特に、この出窓にレースカーテンを付けているのをよく見ました。でもレースのカーテンがずっと閉め放しっぱなしになっていて、紫外線劣化して、黄色くなったり縦横にちぎれていたり、飾りの役割を果たしていないんですね。なのでお金を掛けて取り入れたけど、飾りには決してならなかったという結末になってしまいました。
台所出窓に関しては、活用されていないのに機能的な理由があります。それは昔のキッチンの奥行きと今のキッチンの奥行きが変わったということです。昔のシンクの奥行きは50〜60cmぐらいでした。今は80cmくらいです。距離が遠くなったので、出窓があっても使えない。引違いの窓であっても手が届かないから、結局使われないですよね。だから台所出窓も「あっても無くてもいいか」という結論になったのだと思います。
話が戻って、リビングなどにある豪華な出窓ですが、この出窓は本来どういうものだったかということを考えてみようと思います。みなさん「借景」ってご存じですか?元々は庭造りに使う言葉でした。今はもっと広い意味で使われていますが、昔は遠くにある景色を借りて、それを活かすことを「借景」と呼んでいました。
例えば島根県に足立美術館という、すごく有名な美術館があります。見事な日本庭園がある美術館です。あの美術館のお庭が美しいのは、庭自体が美しいのももちろん、遠くに山陰があって、空があって、その手前に美術館の庭がある、という構成であることも大きいです。遠くの山も美術館の庭の一部になっているんですね。
窓は外から風を入れたり光を入れたりという機能的な面もありますが、一方で非常に意匠的な面も持ち合わせています。例えば良いホテルや良い旅館に行くと、正方形に近い窓があって、その向こうには山や美しい樹形、海が見えたりしますよね。その美しい景色が朝日を浴びて輝いたり、日中は青空が加わったり、夕暮れ時にはオレンジ色に変化する。時間や日によって変わっていく景色を窓が切り取って、まるで一枚の絵画に楽しむ。これが出窓の本来の役割だと思っています。
機能としてはとてもシンプルですが、意匠的に素敵な役割がありますので、出窓のまわりには何も置かないのがいいんですね。ところが暮らしていくうちに、カーテンや照明が付けられ、物を置くようになってしまうんです。
出窓の本来の良さを生かそうと思ったら、まず最初に、その出窓は借景するために作ったものなのかどうかを考えていただくのがいいと思います。仮に、ものを置くのなら、それ専用のスペースを作ったほうがいいです。レースカーテンを付けるのは、ですね、額縁の一部のように使うのならOKだと思います。レースカーテンも含めて1つの景色として楽しむイメージです。でも、そうではなくて、ただ単にかわいくしたいと思って取り入れるのは、出窓としての意味がなくなってしまうので、おすすめはしません。
こういった話をお伝えすると、「じゃあ出窓は必要ないですね」といった声をいただくことがあります。でも、こういったアイデアはアリなんじゃないかなと思うことがあるので、それについて解説いたします。なにかと言うと、ル・コルビュジエが編み出した「水平連続窓」というものです。出窓の分類には入らないかもしれませんが、ご紹介しますね。
昔のヨーロッパの建物は、礎石と言って石積みを重ねていくような形が多かったです。窓は独立したものでした。これをコルビュジェ先生は、窓を連続させたんです。これを水平連続窓と言います。水平連続窓も意匠ですね。窓は大開口なんで、途中で支えるところが要ります。でも、その支える柱は見せないんですね。これは引き違いの窓を連続にしていますが、フィックスと言われている、はめ殺しのガラス1枚でもいいと思います。デザイン性の高い建物は、そうされることが多いと思います。
壁ではなくて、窓の桟ぐらいでやると、見た目がすごいキレイなんです。内側から見ると、出っ張り方の寸法は色々ありますが、最低でも壁1枚分ぐらいが、窓が出っ張ってその内側に柱があって、部屋内から見たら柱は見えるけど、外側からは感じられない。
部屋内に例えばブラインドとかカーテンとかを収めれば、窓でパチッとなるから中から見てもキレイに見えます。こういう感じの出窓というのはすごくアリかなと思います。特に南面で、こっちが山側とか、こっちに湖があるとかこっちにキレイな川がある、というような場所は方位に関係なく借景したらいいと思います。
その上でもう1つ、おすすめの出窓を言うとコーナー出窓というのがあります。建物の角に柱があって、それを超える感じでフィックスとかガラス障子を入れて、開く感じにする。柱が抜けると最高なんですけどあってもそんなに気にならないと思うんで。
これを取り入れると何がいいかと言うと、例えばコーナーが真南向いてる家だったら、普通こういう配置にすると太陽を取るのが難しいですよね。でも、これだったら太陽の光が丸ごと取れるので、日射取得上も面白いです。もちろん日射遮蔽に関しては工夫がいると思いますので、それはよく考える必要がありますが、コーナー出窓は大いにアリですね。
まとめになりますが、僕としては、出窓を取り入れるのはアリだと思っています。ただ借景を楽しむ窓でなかったら、あまりおすすめはできませんということをお伝えしておきます。その上で、これから家を建てる方には出窓の採用を考えてみてください。